喜劇 駅前団地
団地を巡る一大革命!色気も欲もマンモス化

1961年 カラー 東宝スコープ 87min 東京映画
製作 佐藤一郎、金原文雄 監督 久松静児 脚本 長瀬喜伴 撮影 遠藤精一 
音楽 広瀬健次郎 美術 狩野健 録音 酒井栄三、西尾昇 照明 比留川大助 スクリプター 大谷晟
出演 森繁久彌、伴淳三郎、フランキー堺、淡島千景、淡路恵子、左卜全、坂本九、二木まこと
森光子、久保賢、千葉信男、岩城亨、佐藤まき子、吉川満子、黛ひかる、小桜京子、麻生鮎子


 前作『駅前旅館』から3年ぶりに製作され、駅前シリーズのスタートとなった作品。前作が井伏鱒二による原作の映画化だったのに対し、本作以降の作品は全て“駅前”という名前だけが共通するオリジナルとなっている。当時、巻き起こっていた団地ブームを題材に『サラリーマン弥次喜多道中』の長瀬喜伴が脚本を執筆、以降遺作となる『喜劇 駅前番頭』まで一連のシリーズを全て手掛ける事となる。団地建設を中心とした様々な群像劇を『警察日記』等、風俗喜劇を得意とした久松静児が監督、以後駅前シリーズのメイン監督となり5本の作品を残す事となる。撮影は『特急にっぽん』の遠藤精一が担当。まだ開発途中の新百合ケ丘団地を舞台に、戦後の農地改革による余波で混乱する日本人の姿を笑いの中にも的確に押さえている。出演の森繁久彌、伴淳三郎、フランキー堺のトリオが、作品ごとに設定を変え、駅前で起こる騒動を描いたシチュエーションコメディーとして社長シリーズと共に東宝のドル箱シリーズとなった。女優陣も、森繁と数多くの作品で夫婦役を演じた淡島千景が、森繁演じる医者と対立する女医役を好演している他、したたかな料亭の女将にお馴染みの淡路恵子が扮している。また、当時人気絶頂だった坂本九が出演しており、冒頭からお得意の歌を披露しているのも話題となった。


 東京郊外のマンモス団地。その団地の脇に目下第二団地の建設がおこなわれている。おかげでその辺の土地をもっている百姓の権田孫作家はオール電化。その孫作の幼な友達でやはりこの団地の開設前から開業している外科医戸倉金太郎は、妻をなくして一人息子桂一と父親の三人暮し。このマンモス団地の駅前に小料理屋高砂亭がある。ここの常連といえばマダムの君江をお目あての孫作や近所の連中だけ。孫作の長男一郎は父親の意志でいやいやながら予備校に通っている。クラス会の帰りに立寄った高砂亭で一郎は女給の桃子と知りあう。戸倉金太郎は第二団地のそばにある孫作の所有地の一部を買って新しい病院を建てようと計画、その土地を見にいった。ところが同じ土地の一部を買ったというブローカーの平太と連れの美人があれこれと相談しているのにぶつかった。この連れの美人がこの土地を買って新しく病院を建てようという東京の女医小松原玉代だったから一大事。いきおいこんで孫作に談じこむと孫作は、ブローカーの平太が住宅を建てるからというので土地を売ったのだと弁明する。その時救急車が戸倉医院に横づけになる。中から運びだされてきたのは、先刻逢ったばかりの女医の玉代だった。土地を見ての帰途、砂利トラックと彼女の乗用車が衝突したとのことだった。商売仇の当の相手と知った玉代もびっくりするが仕方なく入院する。そんな矢先、結婚を反対された一郎と桃子の二人は山の温泉旅館へ家出をしてしまった。心中の前科のある桃子と一緒だけにと孫作は金太郎や君江たちと山の旅館にかけつけてみれば、二人はケロリとしている。そこへ桂一が急病という電話がかかり金太郎は急いで帰宅するが、幸い玉代の適切な処置で回復に向う。そして玉代に母のようになついていく桂一に、金太郎は感心してしまう。だが、玉代と金太郎は土地のことがあるので、どうもしっくりいかない。逢うたびにいがみあっているが、どうやら二人ともお互いに相手を意識しすぎている。半年の後−−丘の上には新しい第二団地のアパートがたち並んでいる。駅前の高砂亭も今では平太の改造でバーになっている。今はそこのマスターになっている平太は女房の君江の具合を心配して戸倉病院に電話をしている。どうやらおめでたらしい。電話を切る金太郎。その声に女房兼副院長の玉代が颯爽と往診に出かけていく。


 久松静児監督の作品は、代表作『警察日記』でもお分かりの通り、コメディでありながらも社会に対する皮肉や、思想を取り入れるのが特徴だ。『駅前旅館』のヒットを受けて、喜劇・駅前シリーズとしてスタートを切ることになった本作も高度経済成長期に浮き足立っていた日本人の姿を皮肉を込めて描いている。マンモス団地(東京郊外ベッドタウン化)建設で地元民たちが一喜一憂…まるでお祭り騒ぎの様相を呈するところに、フェリーニの『アマルコルド』を思い出す。まだ近代化の波が押し寄せる前のイタリアの田舎町に豪華客船が沖を通る事で村人が舟を出して大騒ぎをする…まさに、田畑しかなかった百合ヶ丘に建設される団地は、豪華客船そのものなのだ。近くでは、山が削り取られ、開発のために田畑が均されているにも関わらず、そこに住む住人たちは誰もが明るい。冒頭、クリーニング屋の坂本九が、陽気な鼻歌を歌いながら登場。九ちゃんの役は映画の狂言回し的であり、ある意味、住人たちの右往左往する姿を一歩引いて眺めたり、時にはワザと火に油を注ぐような真似をして混乱させる等、実に楽しい。当時、人気絶好調だった九ちゃんを起用するのは、至上命令だったに違いない。そんな特別ゲストを巧みに使いこなすのも久松監督の上手いところだ。
 駅前に団地が出来るという事で、それまで農家をしていた地主の懐に大金が転がり込む。次々と農地を売却して、あっさり農業を辞めてしまう男に伴淳三郎が扮し、そんな父親の行動に疑問を持つ息子との確執が物語の核となっている。森繁久彌演じる開業医を営む外科医は主人公であるが、幼なじみの伴淳を見守り、諭す友人役として話しの本筋から若干外れた存在となっている。とは言え、森繁もまた団地のド真ん中の土地を購入して、新しい病院を建てようと計画していたのだが、東京から来た女医に先を越され、次に狙った場所は地元の料亭の女将に奪われてしまう。土地を見に来た淡島千景演じる女医は、事故のおかげで森繁の病院に入院する事になる。最初は互いに罵りあっていた二人だが、腕の良さには定評のある医者同士、認め合うのに時間はかからない。土地騒動のドタバタと平行して、この先二人がどうなるのか?を見届けるのが楽しみのひとつ。淡島千景は本当に出てくるだけで、映画のトーンがいきなりパァーっと明るくなるから不思議だ。
 戦後、日本も本格的に立て直しが始まって、今まであった物が忽然と姿を消す。文久の時代に建てられた日本家屋の病院をいともたやすく壊して新しくしようとするその町医者も土地成金と基本的には変わらない。多分、現在ならば、せっかく続いた伝統を無にする…なんて事は有り得なかったであろう。純日本建築の広い玄関で中庭の縁側で患者がくつろげる病院なんて素敵(実際、このセットを作り上げた東宝の美術は素晴らしい!)じゃありませんか。この時代というのは、どこもかしこも、古いモノを壊して新しいモノを取り入れる…懐古趣味なんてものは存在しなかったのだ。それを印象づけるシーンがある。フランキー堺演じる不動産屋が女医と料亭の女将に同じデザインのパース図を持ってくる。片や病院、片や料亭…こうした無責任にフォーマット化された建築のおかげで日本の風景は乱れ始めたのだ。それをいち早く描いた久松監督が警鐘を鳴らすも、日本の街並みはポリシーの無いモノに変わって行くのだ。

「百姓やめて父ちゃんに何が出来るんだよ!」土地を売り農業をやめる父に対し声を上げる息子に対し…「父ちゃんは土地もあれば銭もあるんだ!」と主張する父親役の伴淳三郎のセリフ。当時の土地を持って浮き足立っていた日本人の姿がうかがえるシーンだ。


ビデオ、DVD共に廃盤後、未発売

昭和22年(1947)
女優

昭和25年(1950)
腰抜け二刀流

昭和26年(1951)
有頂天時代
海賊船

昭和27年(1952)
上海帰りのリル
浮雲日記
チャッカリ夫人と
 ウッカリ夫人
続三等重役

昭和28年(1953)
次郎長三国志 第二部
 次郎長初旅
凸凹太閤記
もぐら横丁
次郎長三国志 第三部
 次郎長と石松
次郎長三国志 第四部
 勢揃い清水港
坊っちゃん
次郎長三国志 第五部
 殴込み甲州路
次郎長三国志 第六部
 旅がらす次郎長一家  

昭和29年(1954)
次郎長三国志 第七部
 初祝い清水港
坊ちゃん社員
次郎長三国志 第八部
 海道一の暴れん坊

魔子恐るべし

昭和30年(1955)
スラバヤ殿下
警察日記
次郎長遊侠伝
 秋葉の火祭り
森繁のやりくり社員
夫婦善哉
人生とんぼ返り

昭和31年(1956)
へそくり社長
森繁の新婚旅行
花嫁会議
神阪四郎の犯罪
森繁よ何処へ行く
はりきり社長
猫と庄造と
 二人のをんな

昭和32年(1957)
雨情
雪国
山鳩
裸の町
気違い部落

昭和33年(1958)
社長三代記
続社長三代記
暖簾
駅前旅館
白蛇伝
野良猫
人生劇場 青春篇

昭和34年(1959)
社長太平記
グラマ島の誘惑
花のれん
続・社長太平記
狐と狸
新・三等重役

昭和35年(1960)
珍品堂主人
路傍の石
サラリーマン忠臣蔵
地の涯に生きるもの

昭和36年(1961)
社長道中記
喜劇 駅前団地
小早川家の秋
喜劇 駅前弁当

昭和37年(1962)
サラリーマン清水港
如何なる星の下に
社長洋行記
喜劇 駅前温泉
喜劇 駅前飯店

昭和38年(1963)
社長漫遊記
喜劇 とんかつ一代
社長外遊記
台所太平記
喜劇 駅前茶釜

昭和39年(1964)
新・夫婦善哉
社長紳士録
われ一粒の麦なれど

昭和40年(1965)
社長忍法帖
喜劇 駅前金融
大冒険

昭和41年(1966)
社長行状記
喜劇 駅前漫画

昭和42年(1967)
社長千一夜
喜劇 駅前百年

昭和43年(1968)
社長繁盛記
喜劇 駅前開運

昭和45年(1970)
社長学ABC

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇

昭和47年(1972)
座頭市御用旅

昭和48年(1973)
恍惚の人

昭和56年(1981)
連合艦隊

昭和57年(1982)
海峡

昭和58年(1983)
小説吉田学校

平成16年(2004)
死に花




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