へそくり社長
女房はコワイ!浮気はしたい!賞与へそくる三等社長

1956年 白黒 スタンダード 83min 東宝
製作 藤本真澄 監督 千葉泰樹 脚本 笠原良三 撮影 中井朝一 
音楽 松井八郎 美術 河東安英 録音 小沼渡 照明 岸田九一郎
出演 森繁久彌、越路吹雪、小林桂樹、八千草薫、古川緑波、三好栄子、司葉子、井上大助、沢村貞子
上原謙、太刀川洋一、三木のり平、藤間紫、一の宮あつ子、河美智子、小泉澄子


 『青い果実』の笠原良三のオリジナル・シナリオを『サラリーマン 続・目白三平』の千葉泰樹が監督し、以後“社長シリーズ”は東宝のドル箱・人気シリーズとなり33作も作られる事になる。撮影を『生きものの記録』の中井朝一が担当している。本作は『三等重役』『続三等重役』のヒットを受けて、小川虎之助と森繁久彌コンビでシリーズ化を考えていたのだが、河村黎吉が急逝してしまい既に東宝サラリーマン喜劇の常連であった森繁を社長に昇格させて誕生した。ちなみに森繁の社長室にはしっかりと小川虎之助の前社長の肖像画が飾られている。他の出演者には『次郎長三国志』でも共演している宝塚歌劇団のトップスター越路吹雪、以降全てのシリーズで息の合ったコンビネーションを披露してくれる小林桂樹、そして「パァーっと行きましょう」が名台詞となり、シリーズには欠かせないバイプレイヤーとなった三木のり平が宴会好きの部長に扮して盛り上げている。実は、元々、出演する予定ではなかったのだが、クライマックスの撮影時にドジョウすくいを踊る事になった森繁が隣のスタジオで撮影していたのり平に踊り方の助っ人を頼んだところ、このまま出演する羽目になり、シリーズの常連となったのは有名な話しだ。また、まだ初々しい『続宮本武蔵』の八千草薫の演技も見逃せない。またエノケンロッパのコンビとして有名な喜劇俳優・古川緑波が出演しているのも話題となった。当時は、続編も同時に撮影を行い、時期をずらして正・続編を公開する手法が取られており、本作の2ヵ月後に『続へそくり社長』が公開されている。


 明和商事の新社長田代善之助(森繁久彌)は、社員から三等社長と呼ばれている。それは、総務課長時代に先代社長の令嬢厚子(越路吹雪)を射止めて、今日の地位を築いたからだ。ある日、大阪から未知子(八千草薫)が株主総会出席かたがた、お婿さん探しに上京。社長秘書の小森信一(小林桂樹)がお守役を仰せつかった。未知子は芸者遊びを見たいといい出して、小森は恋人のタイピスト大塚悠子(司葉子)とのデートを棒に振らなければならなかった。その席で、ドジョウすくいを披露した善之助は、「社長にあるまじき行為」と先代の未亡人に叱られてしまう。社長らしい趣味にと、小唄を習わなくてはならなくなった善之助だったが、師匠の小寿々(藤間紫)から筋がいいとおだてられ、気をよくして通いつづけてしまう。そんな善之助に小寿々は小料理屋を開業したいから五十万円ほど都合してくれないかと色気たっぷりに持ちかけた。善之助に相談された小森は、そこでへそくりの方法を進言した。まず出張旅費をごまかす法、ボーナスの支払伝票を偽造する法、財布を掏られたと称する法などなど。待望のボーナス支給日、善之助は伝票を二本建にして、それで小鈴への約束を果せると喜んだ。その夜、恒例の社員慰労会で、善之助が得意のドジョウすくいを見せていると、先代未亡人が未知子と厚子夫人をつれて会場へ現われて…。


 森繁久彌の人気シリーズ…いや、東宝のドル箱番組“社長シリーズ”の記念すべき第一作目。それまで森繁主演のサラリーマン喜劇は、作られてきたが、中でも人気のあった『三等重役』のイメージを色濃く出しているのが本作である。先代社長の娘である妻に頭が上がらない頼りない婿入り社長が、妻や会長である先代の奥方から、「あーでもないこーでもない」と尻を叩かれ肩身の狭い思いをするのが人気だった。千葉泰樹監督の演出は、テンポが良く、森繁社長が小唄の美人お師匠さんに言い寄られて鼻の下を伸ばしてイイ気になっている次の瞬間、ズドーンと奈落の底に突き落とされる。突き落とすのは会長や奥さんだけに止まらず、秘書役の小林桂樹だったり部長役の三木のり平だったり…とにかく四方八方から邪魔や横槍が入ってくる。これが、絶妙なタイミングでやってくるのだ。結構、笑いというのは、時代をモロに反映(当時、流行った時事ネタや生活スタイル等)するのだから、時と共に色褪せてしまい笑えたはずのシーンが笑えなくなってしまう事も多いのだが、本作は今観ても(今だからこそかな?)大笑いできるのが素晴らしい。言いたい事も言えず、捨て台詞すら小声でブツブツとしか言えない森繁の演技が最高に面白く、当時ボブ・ホープが確立していた演技を森繁が参考にして、自分のモノにしてしまい、その後も、イジケたりスネたりする際に見せるその姿は森繁のトレードマークとなる。
 この手の映画を観るもうひとつの楽しみは、当時の生活や職場の風景が垣間見れる事だ。東京にはまだ空が広々と存在していたのがよくわかる。まだ高いビルが無い時代…会社には電算室ならぬタイピング室があって、司葉子演じるOLが企画書を大きな機械でガッチャンガッチャン打っている姿は何とも微笑ましい。その横で油を売っている小林演じる社長秘書は、休みたくてもギリギリまで「休みを下さい」と言う事が出来ずに終始、社長に振り回されている。これも、この時代のサラリーマンの姿であり、かなり大袈裟とはいえ、プライベートよりも会社優先…というのは、現在よりも顕著だった。融通のきかない実直な社員…という役回りが今後の社長シリーズにおける小林桂樹のスタンスとなり、煮え切らない彼の姿に何度イライラしてスクリーンに向かって怒鳴りつけそうになった事だろう。対象的に周りの事などお構いなし、我が道を行くもう一人の特筆すべき出演者…八千草薫演じる未知子(当時の言い方をするとかなり発展的なモダンガール)で、彼女と森繁にダブルで翻弄される小林桂樹は、あろうことか恋人の実家に結婚の挨拶に行く日に、社長命令で彼女の相手をさせられてしまう。はたして、仕事を優先する男の姿は、当時のサラリーマンはどう観たのだろうか?秘書は、社長に…社長は会長に…各々が様々なプレッシャーを掛けられている図式は、今も昔も変わらない。「大会社の社長が下品な出し物はしてはならない」と、禁じられていた宴会芸の“ドジョウすくい”を嬉々として踊っている姿を見てしまった会長と妻の唖然とした表情と森繁のアップで終わるエンディングは、最高の幕引きであった。そして、この後『続・へそくり社長』へと物語は続くのである。

「社長なんてものはね、寸分非の打ちどころの無い社員よりも大真面目でヘマをやっている奴の方が可愛いんだよ」小林桂樹演じる社長秘書が恋人に言うセリフ。サラリーマンの大半はこんな事ばかり考えているのだ。


ビデオ、DVD共に廃盤後、未発売

昭和22年(1947)
女優

昭和25年(1950)
腰抜け二刀流

昭和26年(1951)
有頂天時代
海賊船

昭和27年(1952)
上海帰りのリル
浮雲日記
チャッカリ夫人と
 ウッカリ夫人
続三等重役

昭和28年(1953)
次郎長三国志 第二部
 次郎長初旅
凸凹太閤記
もぐら横丁
次郎長三国志 第三部
 次郎長と石松
次郎長三国志 第四部
 勢揃い清水港
坊っちゃん
次郎長三国志 第五部
 殴込み甲州路
次郎長三国志 第六部
 旅がらす次郎長一家  

昭和29年(1954)
次郎長三国志 第七部
 初祝い清水港
坊ちゃん社員
次郎長三国志 第八部
 海道一の暴れん坊

魔子恐るべし

昭和30年(1955)
スラバヤ殿下
警察日記
次郎長遊侠伝
 秋葉の火祭り
森繁のやりくり社員
夫婦善哉
人生とんぼ返り

昭和31年(1956)
へそくり社長
森繁の新婚旅行
花嫁会議
神阪四郎の犯罪
森繁よ何処へ行く
はりきり社長
猫と庄造と
 二人のをんな

昭和32年(1957)
雨情
雪国
山鳩
裸の町
気違い部落

昭和33年(1958)
社長三代記
続社長三代記
暖簾
駅前旅館
白蛇伝
野良猫
人生劇場 青春篇

昭和34年(1959)
社長太平記
グラマ島の誘惑
花のれん
続・社長太平記
狐と狸
新・三等重役

昭和35年(1960)
珍品堂主人
路傍の石
サラリーマン忠臣蔵
地の涯に生きるもの

昭和36年(1961)
社長道中記
喜劇 駅前団地
小早川家の秋
喜劇 駅前弁当

昭和37年(1962)
サラリーマン清水港
如何なる星の下に
社長洋行記
喜劇 駅前温泉
喜劇 駅前飯店

昭和38年(1963)
社長漫遊記
喜劇 とんかつ一代
社長外遊記
台所太平記
喜劇 駅前茶釜

昭和39年(1964)
新・夫婦善哉
社長紳士録
われ一粒の麦なれど

昭和40年(1965)
社長忍法帖
喜劇 駅前金融
大冒険

昭和41年(1966)
社長行状記
喜劇 駅前漫画

昭和42年(1967)
社長千一夜
喜劇 駅前百年

昭和43年(1968)
社長繁盛記
喜劇 駅前開運

昭和45年(1970)
社長学ABC

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇

昭和47年(1972)
座頭市御用旅

昭和48年(1973)
恍惚の人

昭和56年(1981)
連合艦隊

昭和57年(1982)
海峡

昭和58年(1983)
小説吉田学校

平成16年(2004)
死に花




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