社長道中記
旅はフワフワ浮気の風まかせ 黄金三人組の爆笑篇

1961年 カラー 東宝スコープ 90min 東宝
製作 藤本真澄 監督 松林宗恵 脚本 笠原良三 原作 源氏鶏太 撮影 鈴木斌 助監督 田実泰良
音楽 古関裕而 美術 浜上兵衛 録音 矢野口文雄 照明 猪原一郎 編集 岩下広一 整音 下永尚
出演 森繁久彌、小林桂樹、加東大介、久慈あさみ、浜美枝、英百合子、団令子、新珠三千代
淡路恵子、三木のり平、加藤春哉、三橋達也、十朱久雄、左卜全、峯丘ひろみ、飯田蝶子
飛鳥みさ子、塩沢とき、八波むと志、石田茂樹、山茶花究、森今日子


 東宝がゴールデンウィークに放つ人気シリーズの決定版。本作は珍しくオリジナル脚本ではなく源氏鶏太の原作“随行さん”を社長シリーズでお馴染みの笠原良三が脚本を執筆。『社長太平記』に続き、1年ぶりにメガホンを取るのは、演出力に定評のある松林宗恵監督。前作のヒットを受けて、東宝より続編のオファーがあったのを断った松林監督を説得したのは出演者の加藤大介だった。本作より、舞台を東京から南紀白浜へ移動してロケ撮影を敢行。撮影は『背広三四郎 男は度胸 花の一本背負い』の鈴木斌が担当し、風光明媚な美しい自然をカメラに収めた。本作以降、正編が東京、続編が地方を舞台にするスタイルが確立。全国の観光地からタイアップの申し込みが殺到した。出演は常連の森繁久彌、小林桂樹、加東大介が絶妙な掛け合いを見せる他、人気絶頂のコメディアン八波むと志演じる按摩のエピソードは、評価が高い。また、三木のり平と共に缶詰ダンスを披露するシーンや、精力剤と睡眠薬を間違えて森繁がダウンするエピソード等、印象に残るシーンが満載されており、松林監督自らがシリーズ中ベスト1に選んでいる程。その他の出演者は、久慈あさみ、淡路恵子、新珠三千代等、豪華女優陣が花を添えている。特に、本作より銀座のマダムを数多く演じる淡路恵子のグラスやタバコの持ち方は、当時、本物のホステスのお手本になったと言われている。


 太陽食料社長三沢英之助(森繁久彌)が力を入れている新製品のまむし・蛙・かたつむりの缶詰。その三沢が新製品をPRするため大阪へ出張することになった。随行をおおせつかったのはコチコチ社員の桑原(小林桂樹)。社長の旅先の浮気を封ずるボディガードとして彼が選ばれたわけだ。桑原はその融通のなさでは定評があり、同期の中では一番出世がおくれているのだ。出発早々、電車内で三沢社長は早速美人(新珠三千代)を見つけてちょっかいを出しかけたり、バーのマダム(淡路恵子)を大阪に呼び出したりする。大阪に着いた三沢は、最近競争相手に押されているという報告を聞いて、早速まき返し作戦を計画する。その夜、汽車の中の美人芸者をつれ出した三沢は、ナイトクラブで桑原とバッタリと出くわしてしまいホテルへ連れ戻されてしまう。舞台が白浜温泉へ移ると、三沢は海外にも販売網を持つ南海物産の本田(三橋達也)の接待に大ふんとうする。その夜、東京からやって来たバーのマダムと一夜を楽しむために、三沢は強壮剤と睡眠薬を間違えて服用し、眠りこけてしまう。しかし、翌朝ゴルフ場で本田に会った三沢は、まむしの罐詰のおかげでホールインワンに成功した本田と契約を結ぶことに成功するのだった。


 森繁久彌の人気シリーズもこの頃になると、お馴染みの俳優がどのように笑わせてくれるのか?を楽しみにして足を運ぶファンも多かった。プログラムピクチャーとは、何も考えずに、ただ分かり切ったお定まりのパターンを繰り返す事で、観客をつなぎ止めていたわけで、それは飽きられるまで続けられたのだ。テレビが普及し始めたと言え現在に比べてドラマの種類も多くなかった当時、お気に入りのドラマや笑いは、映画に頼るしかなかった。東映の任侠映画然り、東宝の社長シリーズ然り…この偉大なるワンパターンこそが、庶民が安心して観られる娯楽そのものだったのである。社長シリーズも森繁のダメダメぶりを観たくて劇場に足を運んでいるのだから、パターンを破壊しようとバリバリ仕事をこなすワンマン社長では、つまらないのだ。
 …と、前置きが長くなって力説したのは、本作は珍しく従来の社長シリーズとは異なり、原作がしっかり存在し、かつ森繁演じる社長が意外とやり手であるのだ。では、つまらないのか…と、いうとこれが実に面白い。松林宗恵監督は、ギリギリの線で定番の笑いのエッセンスを残しており、そこにいつもと違う森繁を配置する事で新鮮味のある笑いが提供されたのである。缶詰めメーカーの社長が新しく勢力を伸ばしてきているライバル会社に勝つため、あの手この手で戦略を考える。それを考えるのが、森繁社長であるわけだからピントが外れれば外れる程、可笑しさが増すのだ。会社の新商品に、カエルとマムシとカタツムリを使った缶詰めを試食する小林桂樹がイイ味を出している。松林監督もこのシーンの小林を褒めまくっていた。それを売り出そうと大阪に乗り込んだ社長一行は、商社のお偉いさん連中を集めて一席設けるのだが、ここで披露する缶詰めの着ぐるみをかぶってカンカン踊りを披露するシーンは思わず大声を出して笑ってしまう。三木のり平も、宴会になると本領を発揮する支社長を飄々と演じ、こんな馬鹿馬鹿しい踊りもツラーっとこなしてしまうのだから、そのプロ根性にはただただ脱帽する限りだ。彼の死後に出版された自伝の中で、自分の出ていた喜劇映画は「くだらない」とコケ下ろしていたが、凄いのは劇中、そんな気持ちを微塵も感じさせない事だ。このシーンで、森繁が久しぶりに森の石松に扮して、「食いねぇ食いねぇ〜缶詰め食いねぇ〜」と詰め寄るところは、本作一のくだらない(勿論、イイ意味で)シーンである。
 さて、社長シリーズで忘れてはならない森繁の浮気を画策するあの手この手だが、今回は、社長のお供に付いてきた小林演じる堅物社員が持参した睡眠薬と精力剤を間違えて、さぁいよいよ…という時に哀れ眠りに陥ってしまう。このシーンは、歴代の社長シリーズにおいても屈指の爆笑シーンだと断言したい。こうした社長の思惑とは裏腹に情けない結果になってしまうところが、社長シリーズの良いところで、決して浮気が成就しないのは、フラレ続ける寅さんと同様、未完成な男の美学が存在する。

「お前さん江戸ッ子だってねぇ」「缶詰の生まれよ」全国の商社社長の前で森繁と小林が披露する新製品のコマーシャル。久しぶりの森繁=森の石松復活が観られる。


レーベル:東宝(株) 販売元:東宝(株)
メーカー品番:TDV-15062D ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 4,252円 (税込)

昭和22年(1947)
女優

昭和25年(1950)
腰抜け二刀流

昭和26年(1951)
有頂天時代
海賊船

昭和27年(1952)
上海帰りのリル
浮雲日記
チャッカリ夫人と
 ウッカリ夫人
続三等重役

昭和28年(1953)
次郎長三国志 第二部
 次郎長初旅
凸凹太閤記
もぐら横丁
次郎長三国志 第三部
 次郎長と石松
次郎長三国志 第四部
 勢揃い清水港
坊っちゃん
次郎長三国志 第五部
 殴込み甲州路
次郎長三国志 第六部
 旅がらす次郎長一家  

昭和29年(1954)
次郎長三国志 第七部
 初祝い清水港
坊ちゃん社員
次郎長三国志 第八部
 海道一の暴れん坊

魔子恐るべし

昭和30年(1955)
スラバヤ殿下
警察日記
次郎長遊侠伝
 秋葉の火祭り
森繁のやりくり社員
夫婦善哉
人生とんぼ返り

昭和31年(1956)
へそくり社長
森繁の新婚旅行
花嫁会議
神阪四郎の犯罪
森繁よ何処へ行く
はりきり社長
猫と庄造と
 二人のをんな

昭和32年(1957)
雨情
雪国
山鳩
裸の町
気違い部落

昭和33年(1958)
社長三代記
続社長三代記
暖簾
駅前旅館
白蛇伝
野良猫
人生劇場 青春篇

昭和34年(1959)
社長太平記
グラマ島の誘惑
花のれん
続・社長太平記
狐と狸
新・三等重役

昭和35年(1960)
珍品堂主人
路傍の石
サラリーマン忠臣蔵
地の涯に生きるもの

昭和36年(1961)
社長道中記
喜劇 駅前団地
小早川家の秋
喜劇 駅前弁当

昭和37年(1962)
サラリーマン清水港
如何なる星の下に
社長洋行記
喜劇 駅前温泉
喜劇 駅前飯店

昭和38年(1963)
社長漫遊記
喜劇 とんかつ一代
社長外遊記
台所太平記
喜劇 駅前茶釜

昭和39年(1964)
新・夫婦善哉
社長紳士録
われ一粒の麦なれど

昭和40年(1965)
社長忍法帖
喜劇 駅前金融
大冒険

昭和41年(1966)
社長行状記
喜劇 駅前漫画

昭和42年(1967)
社長千一夜
喜劇 駅前百年

昭和43年(1968)
社長繁盛記
喜劇 駅前開運

昭和45年(1970)
社長学ABC

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇

昭和47年(1972)
座頭市御用旅

昭和48年(1973)
恍惚の人

昭和56年(1981)
連合艦隊

昭和57年(1982)
海峡

昭和58年(1983)
小説吉田学校

平成16年(2004)
死に花




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