社長太平記
女は下着で勝負する!社長は女と勝負する!下着会社の販売珍合戦

1959年 白黒 東宝スコープ 95min 東宝
製作 藤本真澄 監督 松林宗恵 脚本 笠原良三 撮影 玉井正夫
音楽 宅孝二 美術 小川一夫 録音 藤好昌生 照明 石井長四郎 編集 堀池幸三 スチール 諸角良男
出演 森繁久彌、小林桂樹、加東大介、三好栄子、久慈あさみ、英百合子、団令子、藤間紫、久保明
淡路恵子、水野久美、笹るみ子、有島一郎、三木のり平、佐田豊、三輪栄子、上野明美、園田あゆみ


 おなじみ東宝十八番のサラリーマン喜劇。戦後14年に起こった戦争回顧ブームが反映された脚本は『サザエさんの結婚』の笠原良三によるオリジナル。監督は『社長三代記』の松林宗恵が務め、戦争と現代喜劇をミックスして大ヒットを記録。以降、松林監督は数多くの社長シリーズを作り上げる事となる。撮影は『鰯雲』の玉井正夫、音楽は『大人には分らない・青春白書」の宅孝二が各々担当している。主演は『人生劇場 青春篇』の森繁久彌が会社の命運を賭けて四苦八苦する社長を名演。共演に社長シリーズの常連となる『弥次喜多道中双六』の小林桂樹と加東大介を揃えている。また、社長シリーズには欠かせない名バイプレイヤーの三木のり平が本作でも、姑息な腰巾着の営業部長を好演し、絶妙な森繁との掛け合いを披露してくれる。女優陣には『新・夫婦善哉』で森繁と侠演じている淡路恵子を始め、団令子、水野久美らが脇を固めている。


 牧田庄太郎(森繁久彌)が社長を務める婦人下着メーカー“錨商事”は大資本をバックにした関西の“さくら商会”の東京進出迎撃に社運をかけていた。決戦は大福デパートへいずれかの製品を納入するかにかかっていた。大森専務(小林桂樹)自ら出馬、大福アパート仕入課長と会う事になった。仕入課長は、商談そっちのけで牧田社長の女である料亭の女将お桂に色目し、バー“熊ん蜂”へ行けばこれまた牧田が惚れているマダムのくま子に手を出す始末、焼もちをやいた牧田のために商談は目茶苦茶にされてしまった。三十五歳にもなっているが未だ独身大森は、かつて自分の上官だった庶務課長朝日奈(加東大介)の娘てつ子に、父の調査を依頼され朝日奈の後をつけた。朝日奈の入った処は海軍キャバレー“くろがね”であった。昔の思い出にひたり、またそこに働く戦友の遺児和枝を慰めるために通っているのを知り、大森は朝日奈の行動に共感を覚えた。ある日、牧田の元に「工場出火」の報が届いた。急を聞いて駈けつけた牧田は全てが焼失した焼け跡を見て愕然とする。しかし、朝日奈と大森は商品を全て運び出し、その甲斐あって品物は無事に大福デパートへ納品出来たのだった。その後、福岡へ支店を出す事になり大森が支店長に任命、朝日奈の停年も五年延長された。牧田社長は、会社再建のため、心機一転立ち上がるのであった。


 森繁久彌の人気シリーズの中でも最高傑作と呼び名も高い本作。名コンビ松林静宗監督の演出が冴え渡り、まだ戦後の日本と日本人を笑いとペーソスを交えて描いているサラリーマン喜劇の傑作だ。まず、太平洋戦争中の軍艦から始まるのが面白い(思えば、まだ戦争が近い過去だった時代なのだ)。食堂で一斉に食事をする水兵の一人が森繁で、いつ戦闘状態になるか分からないから、早食いが癖になっている…という設定が可笑しくもあり、悲しくもある。周りをキョロキョロしながらせっせと口に飯を運ぶ森繁と、それを訝しげに見る曹長を演じる小林桂樹の対比がユーモラス。社長シリーズでは、常に堅物の真面目な男を演じていた小林が本作では戦時中は上官だったのに、戦後は部下の森繁が経営する下着メーカーの重役となり立場が逆転している設定が最高!たまに昔のクセが出て社長を怒ったりするのだが、怒られて神妙な顔つきになる森繁の演技がまた可笑しい。二人の間には、戦争を一緒に体験した事による信頼感があり、お互いに短所を補い支え合っているところに単なる喜劇の枠に留まらない戦争を背景に芽生えた男同士の絆のドラマが存在する。
 そして、そこに加東大介演じる二人の更に上官・戦艦の艦長が庶務課長として、やはり森繁の下で働いている。さすがに、艦長ともなると人格者で常に、控え目に会社の動向を見ており、社員からも頼りにされている。この3人の何とも言えない絶妙なバランス。加東が真面目な顔で、天照大神の時代から女性を讃える社訓(これが本当に馬鹿馬鹿しいのだ)を書き上げて、社長が屋上に社員全員を集めて唱和するシーンは爆笑ものだ。それを馬鹿にして笑う姑息な営業部長の三木のり平…毎回、同じ役者が似たような役どころを演じる愛すべきマンネリズムが、このシリーズの良さである。
 正月作品として、この映画が作られた昭和34年は、日本が戦争の痛手から回復し始めた時代であり、闇市があった昭和20年代の混乱期から、何となく明るさが見えてきた…そんな時代だ。奥さんに先立たれた加東が娘に内緒で夜な夜な通うのが、昔を懐かしむ海軍キャバレーというのが切ない。この時代に働いていたお父さんたちはリアルタイムに戦争を体験しており、悲しいかな、平和な現代よりも戦時中の生活の方が居心地が良かったりする現実…。こうした細かな描写を挿入するからこそラストが活きてくるのだ。工場の火事がありながらも会社を再建できた後、社長室で森繁、小林、加東の3人が酒を酌み交わしながら、過去と決別し明るい未来に向かって歩いて行こうと誓うシーンは、正にそんな時代を象徴している。もしかしたら、これこそ松林監督の思いであり、特に戦争を軍隊で体験した者たちは、古い昔を回想するのではなく平和な時代を考えようではないか…というメッセージが込められているのを感じるのだ。もう海軍キャバレーには行かないと宣言する加東のセリフに戦後の終わりを見た気がする。

「日の本は岩戸神楽の昔より女ならでは夜の明けぬ國」セリフではないが、舞台となる下着メーカーの社訓。屋上に集まって社員一同、これを読み上げる姿が馬鹿馬鹿しくて笑えます。


レーベル:東宝(株) 販売元:東宝(株)
メーカー品番:TDV-15061D ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 4,252円 (税込)

昭和22年(1947)
女優

昭和25年(1950)
腰抜け二刀流

昭和26年(1951)
有頂天時代
海賊船

昭和27年(1952)
上海帰りのリル
浮雲日記
チャッカリ夫人と
 ウッカリ夫人
続三等重役

昭和28年(1953)
次郎長三国志 第二部
 次郎長初旅
凸凹太閤記
もぐら横丁
次郎長三国志 第三部
 次郎長と石松
次郎長三国志 第四部
 勢揃い清水港
坊っちゃん
次郎長三国志 第五部
 殴込み甲州路
次郎長三国志 第六部
 旅がらす次郎長一家  

昭和29年(1954)
次郎長三国志 第七部
 初祝い清水港
坊ちゃん社員
次郎長三国志 第八部
 海道一の暴れん坊

魔子恐るべし

昭和30年(1955)
スラバヤ殿下
警察日記
次郎長遊侠伝
 秋葉の火祭り
森繁のやりくり社員
夫婦善哉
人生とんぼ返り

昭和31年(1956)
へそくり社長
森繁の新婚旅行
花嫁会議
神阪四郎の犯罪
森繁よ何処へ行く
はりきり社長
猫と庄造と
 二人のをんな

昭和32年(1957)
雨情
雪国
山鳩
裸の町
気違い部落

昭和33年(1958)
社長三代記
続社長三代記
暖簾
駅前旅館
白蛇伝
野良猫
人生劇場 青春篇

昭和34年(1959)
社長太平記
グラマ島の誘惑
花のれん
続・社長太平記
狐と狸
新・三等重役

昭和35年(1960)
珍品堂主人
路傍の石
サラリーマン忠臣蔵
地の涯に生きるもの

昭和36年(1961)
社長道中記
喜劇 駅前団地
小早川家の秋
喜劇 駅前弁当

昭和37年(1962)
サラリーマン清水港
如何なる星の下に
社長洋行記
喜劇 駅前温泉
喜劇 駅前飯店

昭和38年(1963)
社長漫遊記
喜劇 とんかつ一代
社長外遊記
台所太平記
喜劇 駅前茶釜

昭和39年(1964)
新・夫婦善哉
社長紳士録
われ一粒の麦なれど

昭和40年(1965)
社長忍法帖
喜劇 駅前金融
大冒険

昭和41年(1966)
社長行状記
喜劇 駅前漫画

昭和42年(1967)
社長千一夜
喜劇 駅前百年

昭和43年(1968)
社長繁盛記
喜劇 駅前開運

昭和45年(1970)
社長学ABC

昭和46年(1971)
男はつらいよ 純情篇

昭和47年(1972)
座頭市御用旅

昭和48年(1973)
恍惚の人

昭和56年(1981)
連合艦隊

昭和57年(1982)
海峡

昭和58年(1983)
小説吉田学校

平成16年(2004)
死に花




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