森山未來という男優が気になって仕方がない。映画デビュー作にして大ヒットを記録した『世界の中心で、愛をさけぶ』は、平成恋愛映画の金字塔となり、回想シーンの中で彼が演じた高校時代の松本朔太郎は、ヒロイン広瀬亜紀を演じた長澤まさみと共に一躍ときの人となった。森山未來が演じる朔太郎は不治の病で倒れた恋人に対して何も出来ない無力感に打ちひしがれて涙を流す(本当は彼女の方が何倍も辛いはずなのに)そんな一途で、みっともないくらいあからさまに弱さを吐露する青年だ。それどころか、入院して化学療法を施されている彼女が、親し気に話をしていた同じ病棟の青年に対して、おもむろにヤキモチを焼いたりする。「俺も病気になりてぇなぁ」と、残酷な言葉を口にしてしまうリアルな演技に思わず上手い!と、唸ってしまった。高校男子の未熟さを実にカッコ悪く表現する演技は、(既にドラマや舞台で活躍していたとはいえ)新人とは思えなかった。テレビスポットでやたら流れていた長澤まさみ演じるアキを抱きかかえて「誰か救けてください!」と絶叫するクライマックスより、映画の中盤、どちらが先にハガキを読まれるかを競ったラジオ番組に嘘の投書をした(勿論、ズルして読まれるのだが)朔太郎が、彼女から怒られてシュン…と唇を震わせる表情にこそ、たまらないほどの親近感を覚えてしまう。かつて大林宣彦監督作『さびしんぼう』の尾美としのりや、“北の国から”の吉岡秀隆が演じたような思春期の不恰好な少年の登場に観終わった後、思わず身が震えてしまった。
だからといって森山未來には、演技派という形容も当てはまらない。近年公開された『モテキ』『苦役列車』『セイジ 陸の魚』『北のカナリアたち』等で演じた役柄から受ける印象は「主人公を演じる森山未來」ではなく「森山未來がこんな境遇だったら、こんな主人公になったのだろうなぁ」というイメージ。だから役作りなんて、この人は必要ないのだろうと、いつも思っていたのだが、あるインタビューで彼が語っていた言葉からその理由が分かったような気がした。「僕は基本、森山未來でいたい。だから役になりきるとか同化するというイメージの持ち方はしたくない」のだという。ナルホド、そういう事か…森山未來は演技者でありながら役を演じているわけではないのだ。例えば芥川賞作家・西村賢太の私的小説を映画化した『苦役列車』の主人公・北町寛多を演じるに当たって、実際に三畳一間の風呂なし共同便所のアパートで一人暮らしをして、毎晩、銭湯通いと呑み続ける生活を送ったという。その甲斐があったからなのか、とにかくこの映画の森山未來から湧き立つ凄みは半端なく危険だ。中学生の頃、父親が性犯罪で捕まってから時間をそこで止めてしまった主人公は、独りで生きていくために他人に迷惑を掛けようが、お構いなしに我が道を突き進んで行く。他人に迎合して上手に生きて行く業など誰も教えてくれなかった雨ざらしの青年を演じた森山未來が「次にどう出るのか?」なんて、全く予測不能なのだ。例えば倉庫の食堂でおかわりした山盛りのメシを食らいつきながらテーブルに付く場面、例えば地方から出てきてシモキタ文化をしたり顔で吹聴する女子大生に対して「このコネクレイジーどもめが!」と一喝する場面。果して、どこまでが演技でどこまでが森山未來自身なのか。
地に足が着いていない他人依存型のセカンド童貞で、何かあるたび「カッコ悪い!死にたい!死にたい!」と心の中(声に出す勇気すらない)で叫び続ける『モテキ』の主人公・藤本幸世にしても、早々に就職活動を適当なところで切り上げ自転車で旅をしている(実は大した距離を走破していない)『セイジ 陸の魚』の主人公にしてもそうだ。彼らの姿からは滑稽なんだけど(もしかすると男にしか理解出来ないかも?)男の必死感が痛いほど伝わってきて単純に笑う事ができない。思えば、森山未來は叫ぶ姿にカタルシスを感じさせる稀有な男優ではなかったか?映画デビュー作『世界の中心で、愛をさけぶ』の朔太郎が亜紀の病気を知った時に自転車で疾走する姿に始まり、最新作『北のカナリアたち』で愛する女性のために殺人を犯した鈴木信人が同級生たちとの再会した時に到るまで、無力な自分に対しての苛立ちや怒り、悲しみがないまぜになって、叫びという形で露呈する場面が明らかに映画の核となっていた。断言してもイイ、この役は森山未來以外には考えられない。

森山 未來(もりやま みらい 1984年8月20日- )MIRAI MORIYAMA 兵庫県神戸市灘区出身
5歳からジャズダンス、6歳からタップダンス、8歳からクラシックバレエとヒップホップを始める。1999年に舞台“BOYS TIME”で本格デビュー。2001年16歳の時にドラマ“TEAM 2”、“さよなら、小津先生”で連続ドラマ初出演。2004年の映画初出演となった『世界の中心で、愛をさけぶ』で、ブルーリボン賞の新人賞、および日本アカデミー賞の優秀助演男優賞、新人俳優賞を受賞。2006年に一人二役で主演したドラマ“僕たちの戦争”がアジア・テレビジョン・アワードのシングルドラマ部門で最優秀賞を受賞する。2011年の主演映画『モテキ』が興行収入22億円を超える大ヒットになり、毎日映画コンクール男優主演賞などを受賞した。 同月シディ・ラルビ・シェルカウイ 演出振り付けの舞台“テヅカ TeZukA”にて初の海外公演出演を果たし、ローマを皮切りに香港・ニュージーランド・ルクセンブルク・フランス/ドイツ各都市などを回った。更に同年『北のカナリアたち』などで報知映画賞 ・日刊スポーツ映画大賞両賞で助演男優賞を受賞し、翌年には『苦役列車』でキネマ旬報ベスト・テン主演男優賞を受賞、同月エランドール賞新人賞を受賞。3月に全国映連賞の男優賞、日本アカデミー賞ではで優秀主演男優賞・優秀助演男優賞をダブル受賞するなど名実共に実力派俳優として活躍している。 (Wikipediaより一部抜粋)
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