ロボコン
ぼくたちに足りない部品はなんだろう。
2003年 カラー ビスタサイズ 118min 東宝
製作 富山省吾 監督、脚本 古厩智之 撮影 清久素延 美術 金勝浩一 音楽 パシフィック231
照明 望月英樹 録音 斉藤禎一 編集 三條知生 製作統括 植田文郎、古川一博、小松賢志
出演 長澤まさみ、小栗旬、伊藤淳史、塚本高史、鈴木一真、須藤理彩、うじきつよし
吉田日出子、荒川良々、平泉成

ロボコン=アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテストは、全国に62校ある高等専門学生たちが、毎年出題されるテーマにしたがって一定条件を満たすオリジナルのロボットを開発し、フィールド内でバトルを繰り広げるトーナメント形式の大会だ。彼らのキラキラ輝く青春をモチーフに完全オリジナルストーリーとして映画『ロボコン』は誕生した。『まぶだち』でロッテルダム映画祭でタイガーアワード(グランプリ)を受賞した新鋭・古厩智之監督が、メガホンを取り不器用なロボット部員の姿を愛情たっぷりに描いている。主人公の落ちこぼれ部員には、第5回東宝シンデレラ・グランプリを最年少で受賞した長澤まさみ(本作が映画初主演)をはじめ、テレビ・映画・舞台に幅広く活躍する小栗旬、伊藤淳史、塚本高史といったブレイク寸前の若手実力派が集結。大会シーンでは春休みを利用して現役の高専チームが自作のロボットと共に特別出演。撮影は、長澤まさみ対高専ロボットチームという対戦形式で行われた。

里美(長澤まさみ)は、高専に通いながらも今ひとつ熱中出来るものが見つけられずダラケた日々を送っていた。居残り確実の里美に、担任が提案した引換条件は、第2ロボット部に入ってロボコンに出場することだった。メンバーは、エリート軍団の第1ロボット部から落ちこぼれた気弱で統率力のない四谷部長(伊藤淳史)、協調性ゼロの天才設計者、相田(小栗旬)、技術はピカイチでもユーレイ部員の竹内(塚本高史)の3人。居残りを逃れたい一心でしぶしぶ仮入部した里美だが、試合に負けても気にしない部員たちを見て、根っからの負けず嫌いの性格に火がついてしまう。大会当日、慣れない操作に悪戦苦闘しながらもロボットの独創的なアイデアが評価され、敗退しながらも特別枠で全国大会のキップを手にする事となる。いつしか、他の部員たちも里美の熱意にほだされて、完璧なマシンを作るため、そしてチームワークを磨くため、全国大会までの数日間、強化合宿に挑むのだが…。

いきなり保健室で惚けている長澤まさみのアップから始まる。映画初主演のファーストカットが惚け顔…『世界の中心で愛をさけぶ』の以前から既に彼女は女優としての性根が座っていたようだ。長澤まさみの役どころは高等専門学校(高専)の落ちこぼれ生徒・里美。補習免除の代わりに担任からロボット部に入部してロボコンに出場…という条件を提示される。このロボコンというのは、全国の高専生徒が独自のロボットを開発して競い合う場、ロボットコンテスト―略してロボコン。ロボットと言っても二足歩行のASIMOみたいなものではなく、リモコンで段ボール箱を運ぶという実用的なモノ。それを体育館みたいな広い場所で規定のエリア内に箱を幾つ積み上げられるか?を競う。理系の甲子園と呼ばれているそうだ。書道やダンスの甲子園と違い、かなり地味(競技の実況をする素人丸出しで頑張る生徒もイイ味)だが、結構手に汗握ってしまうほど白熱する。…と、全ては競技に到るまでの古厩智之監督の丁寧な描写があればこそクライマックスで爽やかな感動に包まれるというわけ。冒頭の惚けた里美のアップから第二ロボット部(この第二というのがミソ)の部室で小栗旬演じるイケ好かない天才設計者・航一と初対面するまでの過程が実に映画的。工業系の学生って、こんな作業をやってるんだ…と、ネジ一本作るところをエンターテイメントにしちゃうのだから古厩監督…さすがだ。
また第二ロボット部員の面々に個性的で実力のある若手をバランス良く配しているのも成功の要因だ。遊び仲間とツルんで部室に顔を出さない塚本高史の部員と、伊藤淳史扮する知識はあるのに自信の無さ故にいつも第一ロボット部からバカにされている部長というキャラが秀逸。登場人物の履歴書を公表するように脚本を書いた(時には考えに没頭して一日に一枚も書けなかった事も)という古厩監督の苦労は報われたようだ。競技に負けても「100%のものじゃないから負けるのは分かっていた」と言う航一に対して里美は思う…どうして100%のものを作らないの?ここからがスポ根ならぬロボ根ドラマが始まるのだが、それにしてもダメ部員相手に孤軍奮闘する長澤まさみのコメディエンヌぶりは見事なものだ。文句や愚痴を言ってもワザとらしさや嫌みがなく、とても自然な演技で好感が持てる。第一ロボット部の部長を演じる荒川良々(出た!)相手に見せる完無視マイペース演技はお見事です。このナチュラルなトボケ方が後の『曲がれ!スプーン』『モテキ』へと繋がるワケか?そんな彼女に刺激され、クライマックスへ向けて設計・組立・操縦の三人が部長の指揮の下で決勝に挑む姿に映画的広がりがあるのもイイ。競技前日の夜に四人でラーメンをすする場面の里美が鼻をかむ仕草に至るまでの長回しなんか最高ではないか。後年、『タッチ』の取材で「『ロボコン』で同世代の役者さんたちと共演して初めてお芝居をちゃんとやりたいって思えた」と彼女が語っていたのを思い出した。かつて東宝映画で女優デビューした山口百恵が好きという長澤まさみが劇中で歌う“夢先案内人”が様々な意味において象徴的であり強く印象に残る。
「勝つことが全てじゃないと思うんだけど…」と言う教師に「勝つことの他に何があるんですか?」と闘志をむき出しにする主人公。
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