群青 愛が沈んだ海の色
もし私がこの島に生まれなければ
2009年 カラー シネスコサイズ 119min 20世紀フォックス映画
プロデューサー 山田英久、山下暉人、橋本直樹 監督、脚本 中川陽介 脚本 板倉真琴、渋谷悠
撮影 柳田裕男 原作 宮木あや子 美術 花谷秀文 音楽 沢田穣治 照明 宮尾康史 録音 岡本立洋
編集 森下博昭 衣装 沢柳陽子 主題歌 畠山美由紀
出演 長澤まさみ、佐々木蔵之介、福士誠治、良知真次、洞口依子、玉城満
今井清隆、宮地雅子、田中美里

『涙そうそう』『タッチ』『世界の中心で愛をさけぶ』など、数々の大ヒット映画に主演し、日本を代表する映画女優となった長澤まさみ。爽やかな笑顔が印象的な彼女が、主演作『群青 愛が沈んだ海の色』では、最愛の人を突然失い絶望に打ちひしがれるヒロインを演じ、新境地を開く。沖縄の離島ですくすくと育った天真爛漫な少女・凉子。しかし、残酷な海に愛する人の命を奪われたその日から、言葉を発することができなくなる。彼が沈んだ深く暗い海の底に、自らの身も沈めてしまったかのように…。傷ついたヒロインが周囲の人々の愛情に包まれ、悲しみと痛みを乗り越えて、ひとすじの光を見出していく姿を描きだす。群青色に染まった海に光が射し込み、やがて訪れる希望の朝??。切なくも美しい再生の物語は、観る者の心を温かい感動で満たしていくに違いない。監督は『Fire! ファイアー』『真昼ノ星空』など、沖縄にこだわった作品作りを続ける中川陽介。共演に『アフタースクール』『間宮兄弟』の佐々木蔵之介がヒロインの厳格な父親役として好演している。

沖縄の南風原島。1年ぶりに故郷に戻った比嘉大介(福士誠治)は、幼なじみの仲村凉子(長澤まさみ)と再会する。だが彼女はこの1年、明るい表情を失っていた。全ての始まりは20年前。世界的ピアニスト森下由起子(田中美里)が病気療養のために島へやってくる。彼女の演奏に心を打たれた漁師の仲村龍二(佐々木蔵之介)は、海から採ってきた宝石サンゴの原木を贈る。やがて恋に落ちた2人の間に凉子が生まれるが、由起子は病気が悪化、この世を去る。幼なじみの大介、一也(良知真次)と、まるで兄妹のように育つ凉子。やがて3人が成長し、18歳になると一也が凉子に愛を告白。2人は結ばれる。密かに凉子を想っていた大介は居場所を失い、島を出て那覇の芸術大学へ進学。一方、看護士を目指していた凉子は、漁師修行に励む一也のために島に残るが、2人の結婚に龍二が反対。一也は龍二に認められようと、宝石サンゴの原木を採ってくることを思いつく。だが、海に潜った一也は帰らぬ人となってしまう。一也の死で心を病んだ凉子は入院。退院してからも誰とも話さず、思い出の中だけに生きるようになってしまう。こうして1年後、島で焼き物を作る名目で帰郷した大介は凉子と再会。凉子に対して何もできない自分の無力さを思い知り、逃げるように焼き物作りに没頭する大介。そんな彼の姿を目にして、凉子にささやかな変化が訪れる。自分で花瓶を作り、一也の家に届けたのだ。一也の部屋に初めて足を踏み入れる凉子。そこに飾られていたのは、元気に笑う凉子の写真。それは今では見ることができない姿だった。改めて凉子の悲しみを知った大介は、自分が宝石サンゴを探しに潜ることを決意。しかし、彼もまた海で姿を消してしまう。懸命に大介を捜索する龍二。消息を絶った大介の運命は?凉子が過去から解放され、新たな一歩を踏み出す日は訪れるのか。

夜明け前…漆黒の闇に覆われていた空が深い紺みを帯びた青色に染まり始める。日が昇るまでのほんの数分間、空と海が群青色で一体となる神秘的な時間だ。まだ寝静まっている沖縄の離島・南風原島(はえばるじま)の風景を切り取る柳田裕男カメラマンの映像が素晴らしい。夜明け前の空が海面に変わり、フェリーの航跡が画面を横切る見事な映像のリレーに、ほぉ…と溜め息。わずか数分足らずのオープニングで中川陽介監督の映像センスに心を掴まれてしまった。
群青色の英語名はウルトラマリンブルー、海を越えてきた…という意味を持つ。かつて島を出て行った大介が数年ぶりに戻ってくる。再び海を越えて帰ってきた大介と海を越えず島に残る選択をした幼なじみの涼子が再会するプロローグから覚える軽い胸騒ぎ。そして、回想シーン…小さな島で生まれ育った二人にはもう一人、一也という幼なじみがいた。二人の男の子がウミンチュ(漁師)の娘に恋をする物語を中川監督は島唄を綴るように描く。劇中、島唄を効果的に使った印象に残る場面がある。石垣島の看護学校に通うため島を出て行く涼子に一也が思いを伝える場面だ。「もう三人でいられる時間は僅かなんだよ。何か言うことないの?」と、ウミンチュとして島に残る決心をする一也に涼子は言う。その時、一也はおもむろに立ち上がり、海に向かって島唄を歌い始める。お前が欲しい…それは、島の男が恋する女に思いを伝える「トゥバラーマ」という愛の唄だ。その光景を近くで見ていた居酒屋の店主(りんけんバンドの玉城満がイイ味を出している)が「あぁ、とうとう歌ってしまったか…」と呟く場面に思わず胸が熱くなる。一也の思いに答えるように輪唱する涼子…同じく涼子に思いを馳せていた大介はその輪唱を眺めるしかない切なさ。幼なじみだった彼らの関係が変わる瞬間を中川監督は優しい眼差しで画面に収める。
涼子は一也の愛を受け入れ島に留まるのだが、間もなく二人に悲劇が訪れる。結婚を申し込んだ一也は涼子の父からまだ早いと反対され、一人前のウミンチュと認めてもらうため素潜りで珊瑚を穫ろうと連日海へ出て命を落してしまうのだ。「自分は一人前のウミンチュだ」と過信する一也の姿は、天高く飛び過ぎて、太陽の熱で海に墜落した蝋の翼を持つイカロスの神話と重なる(あぁ…何故若者は高さを求めるのか)。太陽の光が差し込む海面に向かって浮上してゆく一也。あと少しで光に手が届くところで動きが止まり、珊瑚が手からこぼれ落ちて海の底に消えてゆく…。その後を追うように、ゆっくりと下降していく一也を捉えた柳田カメラマンの映像に「上手い!」と膝を叩いた。
それにしても本作は若手の演技に目を見張るものがある。福士誠治が演じる大介の自分を前に出せない焦燥感と、良知真次演じる一也の実直であるが故に短絡的な思考で行動する危うさ。微妙な若者の心の機微をを二人は見事に表現していた。なかでも後半で見せる長澤まさみの完成度の高い演技には正直かなり驚かされた。愛する者を失った悲しみから精神を病んだ涼子が虚ろな目で海岸に佇みながらも大介の浅はかな下心を見透かすような視線を投げかける場面は戦慄すら覚える。なにより、一也の死を受け入れた涼子が空を仰ぐラストショットで見せる解脱の表情は間違いなく彼女のベストパフォーマンスとなった。
「家族守るなら、まず自分を守らにゃいかん。それが一人前の漁師ってもんだ」佐々木蔵之介演じる涼子の父が言うセリフ。その通りだ。
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レーベル:バンダイビジュアル(株)
販売元: バンダイビジュアル(株)
メーカー品番: BCBJ-3651 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,109円 (税込)

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