絶唱
許してください、今日までの私を…あなたに捧げた短い命。哀しい運命の山鳩は、遠く遥かな青空へ涙も枯れて飛んでゆく。

1975年 カラー ビスタサイズ 96min 東宝
製作 堀威夫、笹井英男 監督、脚本 西河克己 撮影 萩原憲治 構成 八住利雄 原作 大江賢次
美術 佐谷晃能 音楽 高田弘 照明 熊谷秀夫 録音 福島信雅 編集 鈴木晄
出演 山口百恵、三浦友和、辰巳柳太郎、吉田義夫、菅井きん、大坂志郎、初井言栄、花澤徳衛
有崎由見子、木内みどり、大和田伸也、服部妙子、川口厚、武岡淳一、大家博、藤江喜幸


 山口百恵と三浦友和コンビによる文芸シリーズ第三作目。封建的身分制度が強く残る山陰地方の山間の村を舞台に、大地主の息子と山番の娘とのとの悲恋を描いた大江賢治の同名小説の三度目の映画化。昭和41年に舟木一夫・和泉雅子の共演版で監督した『潮騒』の西河克己がセルフリメイク、脚本も担当している。撮影は『伊豆の踊子』から山口百恵作品を手掛けている萩原憲治が担当し、山陰の豊かな自然をダイナミックに映し出している。脇を固めるのは『人生劇場 飛車角と吉良常』を代表する新国劇の辰巳柳太郎、また吉田義夫、菅井きん、大坂志郎、初井言栄、花澤徳衛といった実力派が顔を揃えて重厚感のある作品に仕上げている。


  山陰地方で園田家といえば、山園田といわれる程に名の通った大地主である。その一人息子で大学生の順吉(三浦友和)は、山番の娘・小雪(山口百恵)を愛していたが、父・惣兵衛(辰巳柳太郎)は、身分が違うと反対し、町の実業家の令嬢・美保子との結婚を強いるのだった。順吉が大学の休暇を終え京都に戻ると、惣兵衛に因果を含められた小雪は、他国の親戚にあずけられた。小雪に会いに帰省して、その事を知った順吉は、小雪を捜し出し、駆け落ちした。宍道湖のほとりの経師屋の二階が、二人の愛の巣となった。順吉は、肥くみ作業員、材木運びなどをして生活費を稼いだが、二人は幸せだった。だが、戦争が激しくなり順吉にも召集令状がきた。壮行会の日、小雪が唄った山の木挽歌を、どこにいても毎日、決めた時間に二人で唄うことを約束して、順吉は戦地へ向った。戦争はさらに激化し、いつしか順吉からの便りも絶えた。二人で約束した木挽歌を唄う事だけが小雪の心の支えだった。戦争は終った。小雪は結核で倒れたが、木挽歌を唄う事だけは欠かさなかった。やがて、惣兵衛が急死し、小雪はようやく両親と会う事を許された。だが、体力の限界にきていた小雪は「あの人の足音が聞こえる、山に帰りたい」と言い残して息を引き取る。ちょうどその日、復員して来た順吉は、葬る前に、せめて結婚式をしてやりたい…と花嫁衣裳に身を包んだ小雪と共に園田家に帰るのだった。


 山陰の山間を通る一本の道を走る人力車を捉えたベテラン萩原憲治カメラマンによる幽玄美溢れる映像に心を惹かれる。薄暗い道に浮かぶ祝言に向かう花嫁を乗せた人力車を先導する提灯の明かり…そしてカメラは白装束に身を包んだ主人公の横顔にズームアップする。そして画面いっぱいのタイトルが表示され、山口百恵が歌う主題歌“山鳩”が流れる。そこから一気にラストシーンまで90分…観終わって小さく溜め息をついた。山口百恵が素晴らしいのだ。彼女の主演作としても三作目にあたる本作は名匠・西河克己監督が手掛けた三回目(日活時代に和泉雅子主演で監督した)のリメイクでもある。デビュー作『伊豆の踊子』からわずか一年後に難易度が高い本作の主人公に挑んだ彼女は信じられない進歩を遂げていた。演技の経験が全く無かったアイドルを映画の主演女優に据えるという無謀とも言えるホリ企画(彼女が所属するホリ・プロダクションの関連会社)の挑戦…というより当時のアイドル戦争に打ち勝つには無謀な賭けをしてまで突き進まねばならない背景があったのだ。また、彼女の目覚ましい演技力の向上はホリ・プロのテレビドラマ戦略として同時期に主演していた人気ドラマ“赤い疑惑”に因るものも大きい。
 他人の土地を踏まずに東西の国境に行ける程の大地主・園田の屋敷に奉公に出ていた山番の娘・小雪と跡継ぎである若旦那・順吉との禁断の恋―。物語はいきなり、実家に戻って泣き崩れる小雪の場面から始まる。自分を巡って若旦那と大旦那が言い争いになったため居たたまれなくなり飛び出したと言う少女のあどけなさを持つ山口百恵の初々しさ。彼女を追いかけてきた順吉の足音を聞いて再び家を飛び出す小雪…それを追う順吉。清冽で格調高い山陰の山々を背景にこぶしの木の下で二人は向き合い、順吉は自分の想いと覚悟を告げる。素晴らしいのは、まず三浦友和のアップから少し引いたカメラがそのまま二人を中心にぐるりと円形移動するレールを用いた流れるようなカメラワークだ。その場面をワンカットで撮りたかったという西河監督はいきなりクライマックスを冒頭に持ってくる事で物語の主軸を家を出てからの二人に置いて、ささやかな生活を送る若い夫婦の意地らしさにフォーカスを当てた。順吉は妻となった小雪を「小雪」と呼ぶが小雪は依然として順吉を「若様」と呼んでしまう調子が噛み合わない主人公の奥ゆかしさを表現する西河監督の抑制の利いた演出が山口百恵の持ち味を最大限に引き出していた。印象に残るのは戦場に旅立つ順吉に木挽き歌を歌う場面でのローアングルから捉えた彼女のカット。よくぞ、この角度からのショットを見つけ出したものだと感服いたしました。
 ラスト近くで死の淵に伏せる小雪が母から飲ませてもらう葛粉を口に含む表情にドキッ…そして、祝言の途中で抜け出した順吉の腕に抱かれた小雪の顔に峰の彼方から昇る朝日が照らされ白い肌に赤味をさして浮かび上がるラスト。あまりの美しさに鳥肌が立った。

死の淵で小雪が呟く「あの人が帰ってくる…あの人の足音が聞こえる」次のカットで砂丘の向こうから帰る順吉が映し出される。


ビデオ、DVD共に廃盤後、未発売
昭和48年(1973)
としごろ

昭和49年(1974)
伊豆の踊子

昭和50年(1975)
潮騒
花の高2トリオ
 初恋時代
絶唱
お姐ちゃんお手やわらかに

昭和52年(1976)
エデンの海
風立ちぬ
春琴抄

昭和52年(1977)
泥だらけの純情
霧の旗

昭和53年(1978)
ふりむけば愛
炎の舞

昭和54年(1979)
ホワイトラブ
天使を誘惑

昭和55年(1980)
古都




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