異人たちとの夏
愛した分だけ死に近づく。

1988年 カラー ビスタサイズ 108min 松竹
製作 杉崎重美 監督、脚本、編集 大林宣彦 脚本 市川森一 原作 山田太一 撮影 阪本善尚
照明 佐久間丈彦 音楽 篠崎正嗣 美術 薩谷和夫 プロデューサー 樋口清 編集 太田和夫
出演 風間杜夫、秋吉久美子、片岡鶴太郎、永島敏行、名取裕子、入江若葉、林泰文、奥村公延
角替和枝、原一平、栩野幸知、桂米丸、柳家さん吉、笹野高史、ベンガル、川田あつ子、明日香尚


 渇ききった現代人の生活に、そっと忍び込んでくる孤独と幻想。おとぎ話といって笑っていられない不思議な時間と非現実的な空間。山田太一+市川森一+大林宣彦が、異色の世界を切り拓いた。妻子と別れ孤独な日々を送るシナリオライターが幼い頃、死に別れたそっくりな両親と再会する。第一回山本周五郎賞を受賞した山田太一が、それまで手掛けてきた“不揃いのリンゴたち”や“岸辺のアルバム”などのテレビドラマとは異なる、大人の愛の世界を幻想的に描いた長編小説を『転校生』の大林宣彦監督が映画化した。山田太一が指名した市川森一が初めて映画の脚本を手掛けるなど当時は製作前から大きな話題となっていた。撮影は大林監督と長年コンビを組む『PARIS-DAKAR 15000 栄光への挑戦』の阪本善尚が担当している。出演は、舞台となる浅草に因縁めいたものを感じるという風間杜夫、大林監督から妖しい童女のような母親という注文を受け、見事に表現していた秋吉久美子をはじめとして、死人として主人公に取り憑く妖艶な色気を振り撒く名取裕子、本作が映画初主演となる片岡鶴太郎らが顔を揃えている。


 原田英雄(風間杜夫)は40歳のシナリオ・ライター。妻子と別れ、今はマンションに一人暮らしをしていた。ある日、原田は幼い頃に住んでいた浅草に出かけ、偶然、死んだはずの両親(秋吉久美子、片岡鶴太郎)に会ってしまう。二人は原田が12歳の時に交通事故で死亡したが、なぜかその時の年齢のまま、浅草に住んでいた。原田は懐かしさのあまり、浅草の両親の家へたびたび通うようになる。一方で、原田は同じマンションに住む桂(名取裕子)という女性と、愛し合うようになっていた。彼女は、もう両親には会うなという。異人(幽霊)と近づくと、それだけ自分の体は衰弱し、死に近づくのだ。原田はようやく両親と別れる決心をし、浅草にあるすき焼き屋で親子水いらず別れの宴を開いた。暖かい両親の愛情に接し、原田が涙ながらに別れを告げると、二人の姿は消えていった。しかし、原田の衰弱は止まらない。実は、桂も異人だったのだ。男にふられ原田にもすげなくされた桂は、ずっと以前に自殺していたのだった。愛と憎しみに狂った異人は原田に迫ったが、友人・間宮の機転で原田は助けられた。その後、体調の回復した原田は両親のもとに花と線香を手向け、静かな夏の日の不思議な体験を回想するのだった。


 山田太一のベストセラー小説を大林宣彦が監督すると聞いた時、“このファンタジーを映像化出来る人は、この人を置いて他にはいない”と納得した記憶がある。大林監督の作品にはソフトで乙女チックな雰囲気を漂わせながら、どこかに“死”という普遍のテーマが隠されている。だから、死者との思い出にとりつかれた男が主人公の本作は大林監督にピッタリの題材と感じたわけだ。突然の事故でこの世を去った両親の幻影を追い続ける主人公が体験した事は現実のものなのか?まるでフワフワと宙を漂うような…夢を見ている感覚に我々観客も陥ってしまう。これが大林監督マジックなのだ。山田太一が書いた本作のテーマは死者に対する断ち切れぬ思いと決別だ。主人公を演じる風間杜夫が浅草の寄席で今は亡き父親の面影を客席に見つけるところから物語は始まる。既に死んでいる父親が昔の年齢のままで“そこ”にいる事は、まるで古い写真を見つけたような複雑な思いが主人公の心をよぎる。このシーンを見た時「これは大林監督が“新・尾道三部作”以降掲げているテーマではないか!」と思った。
 地下鉄が現世とあの世を結ぶような重要な役割を担っているが、迷路の如く東京の地下に走るチューブは異次元につながっていたとしても不思議ではない。主人公が浅草演芸ホールに今は亡き父親の面影を持った男と出会うシーンの緊張感溢れる演出はさすが!としか言いようがない。夜の浅草花やしき通りを抜けて昔ながらの路地に入った辺りで思い出すのは『時をかける少女』や『さびしんぼう』で描かれていた尾道の路地裏に潜む懐かしくも妖しい雰囲気だ。この当時、変貌を続ける浅草に大林監督は尾道と同じ匂いを感じ取ったのだろうか?父親に導かれて入り込む下町の路地裏の雰囲気が実に良い。阪本善尚のカメラによる裸電球のオレンジの光に浮かぶ軒先が、子供のころ親から「あそこに行ってはいけないよ」と言われていた妖しい場所を思い起こさせた。前述した地下鉄と同様、この路地裏をまるで冥府への通り道であるかのような設定にしているのだ。
 本作では二通りの死者の思いが描かれる。片方は前述した風間杜夫演じる主人公が幼くして死別してしまった両親だ。彼の前に現れる幼い頃の生活と当時のままの両親の姿に観客は“怖さ”と同時に“ぬくもり”を感じさせる不思議な感覚を体験する。あまりにも明るく優しい両親を見ていると死びとである事を忘れてしまうのだが、ふとしたところでゾッとする現実に引き戻す絶妙な間合い。既に死んだ両親よりも年上になってしまった主人公が年下の親に甘えるシーンはかなりシュールだ。最初は確信を持てなかった主人公が、秋吉久美子演じる母らしき女性に名字を訊ねた時、「親の名字を聞く奴があるかい」と叱咤される下りの不思議な感動は、今までの映画では味わった事がない新鮮なものだった。忘れられないのは最後に三人で外食する今半のシーンだ。すき焼きをつつきながら親子の会話を交わす姿に郷愁の念に駆られ目頭が熱くなる。特筆すべきは、気っ風の良い父に扮した片岡鶴太郎(実にイイ演技を披露している)。今でこそ渋い俳優だが、当時は三枚目路線を独走していた鶴太郎をよくぞキャスティングしたものだ…と、大林監督の先見の明に感心する。
 そして、もうひとりの死者の正体が明かされるシーンの衝撃。それまで主人公がやつれていくのは両親の幽霊に因るものと思っていたら…。このラストにおける名取裕子がもの凄く怖い。前者の幽霊は無償の愛を注ぎきれなかった贖罪を求めて現れたもの。対して後者の幽霊は得られなかった愛を求めて現れている。市川森一の脚色は整理されながら巧妙なトラップを仕掛けている…やられた!としか言いようがない。

「年取ってから遊んだって面白くも何ともないぞ」おいちょかぶをやるシーンで片岡鶴太郎扮する父親が言うセリフ。確かに遊びは若い頃の方が面白いのだが…。


レーベル:松竹
販売元:松竹
メーカー品番: DA-112 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 3,799円 (税込)

昭和43年(1968)
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