転校生
あるべきモノがない ないはずのモノがある だれにも話せない2人のひみつ。

1982年 カラー ビスタビジョンサイズ 112min ATG
製作 佐々木史朗  プロデューサー 森岡道夫、大林恭子、多賀祥介 監督 大林宣彦 原作 山中恒
脚本 剣持亘 撮影 阪本善尚 美術 薩谷和夫 照明 渡辺昭夫 録音 稲村和己 音響 林昌平
出演 尾美としのり、小林聡美、佐藤允、樹木希林、宍戸錠、入江若葉、中川勝彦、井上浩一
岩本宗規、大山大介、斎藤孝弘、柿崎澄子、山中康仁、林優枝、早乙女朋子、志穂美悦子


 男の子と女の子の体が入れ替わってしまうという思春期の中学生の男女を描いた山中恒原作“おれがあいつであいつがおれで”の青春ファンタジー。『ねらわれた学園』の大林宣彦監督が手掛けた尾道三部作の第一作目にあたる。当初、CGを駆使して男の子の身体が女の子の身体になっていく描写を取り入れたものになる予定だったが、映像に頼らず精神が入れ替わる事で性に戸惑う少年少女のドラマに仕立てて成功を収めた。原作の主人公よりも年齢を上げて、思春期の子供たちが抱える肉体の痛みを表現してみせたのは『ゴキブリ刑事』の脚本家・剣持亘。撮影は大林監督と長年コンビを組む『霧のマンハッタン』の阪本善尚が担当している。オール尾道ロケで製作された本作のおかげで、小さな港町に脚光が浴びて多くの観光客が訪れるようになった。主人公の一夫を『翔んだカップル』の好演が光った尾美としのり、一美を本作が映画初主演となった小林聡美が数百人におよぶオーディションの中から選ばれ、見事な演技を披露している。大林監督は主演の二人にお互いがどのような行動をしているのかを観察させるためにお互いの出番がある時は、常に一緒にいる事を課せたという。こうした連帯感の中から生まれた本作からスタッフ、キャスト合わせて大林ファミリーが完成した。


 広島県・尾道市。斉藤一夫(尾美としのり)は8ミリ好きの中学三年生で、悪友たちと女子更衣室をのぞいたり悪ガキぶりを発揮するごく普通の少年である。そんな彼のクラスに斉藤一美(小林聡美)という少女が転校して来た。一美が大野先生に紹介された途端、一夫を見て叫んだ「もしかしてあなた一緒に幼稚園に行っていたデベソの一夫ちゃんじゃない?」二人は幼馴染みだったのだ。久しぶりに一夫と再会した一美は大喜びだが、子供の頃の自分の恥部を知られている一夫にとっては大迷惑。その日の帰り道、神社の階段の上で、一夫はつきまとう一美めがけてコーラの空缶を蹴飛ばした。驚いた一美は階段から落ちそうになり、一夫は押さえようと抱きつくが、二人はそのままころげ落ちた…。しばらくたって二人は意識をとり戻し、それぞれの家に帰るのだが、二人の体が入れ替っていることに気がつき、愕然とする。突然、男っぽくなった一美や、逆に女っぽくなった一夫にそれぞれの家族は戸惑うが、まさか入れ替っているなどとは考えてもみない。やがて、一夫が父の転勤で横浜に引っ越すことになった。いつまでたっても元に戻らぬ二人は絶望的になっていき、一美は自殺を考えるまで追い込まれてしまう一方で、互いの体に嫌悪感さえ覚えながらも、徐々に異性としての愛情が芽生えていく。一夫の引っ越しが間近に迫ったある日、あの神社の階段の上で、二人はふとしたハズミで再び転げ落ちてしまった……。気がついてみると、二人は元の一夫と一美に戻っていた。数日後。引っ越し荷物を積んだコンテナ・トラックに一夫と両親が乗り、一美が見送りに来ている。動き出したトラックの助手席から、追って来る一美を一夫は8ミリで撮り続けた。


 それまで、大林宣彦監督はメジャー系のプログラムピクチャー作家なのかと思っていた。だからATGで小規模な作品を製作中…と、聞いた時は正直ピンとこなかった事を今でも覚えている。筆者の中では恥ずかしながら『ハウス』と『ねらわれた学園』で大林監督のイメージは固定されていたからだ。しかも、ATG…と言えば、小難しいアバンギャルドなアート系(当時の筆者の固定観念もヒドいものだが…)作品を作る集団という印象。およそ大林監督のイメージから結びつかなかったのが正直な感想だ。しかし、完成した『転校生』を観て、大林監督とATGに対する認識がガラッと変わり“どうして、日本でこんなエスプリの利いた面白い映画が出きるの!?”と…ただただ、このような日本映画に出会えた奇跡(大袈裟ではなく)に感激しまくっていた。本作が、日本映画のあるジャンルにおいてオピニオンリーダーとなった事には間違いなく、以降、等身大の若者を描いたナチュラルな作品が続々と登場する事となる。岩井俊二や行定勲は世代的にも大林作品をリアルタイムに観ていたはずだから、何らかの影響を受けているはずだ。何より素晴らしいのはセット撮影では決して表現出来なかった町の空気感が、画の隅々に漂っている事。尾道という港町を本作で初めて知ったのだが、いっぺんで“この町に行きたい”とファンになってしまった。後に、大林監督自身も述べているが、もし町の観光名所ばかりを写していたら、ここまで観客を魅了する事は無かったであろう。本作で映し出されるのは路地裏であったり、山あいにポツンと建つお寺だったり…しかし、その通りの向こうには瀬戸内の港がしっかりと見えている。カメラは子供たちの目線で、縦横無尽に張り巡らされた路地を走り回る…そう、走り回るという表現がぴったりなカメラワークなのだ。だから観客は主人公たちと一緒に尾道を走り回っている気分になり、いつしか感情移入してしまうのだ。これは大林監督の計算ありきの確信犯なのかは別として、ロケ場所を我々が子供時代に見た“日本の原風景”とも言える路地という隙間を選んだのは大正解だった。
 そして、もうひとつ…忘れてはならないのは、主人公を演じた尾美としのりと小林聡美の起用だ。二人の演技…というよりネームバリューのない二人の際立った存在感によって、物語をグイグイ引っ張っていたのが素晴らしい。特に小林を採用したのが本作を成功へ導いた要因として大きい。全編の7割が男である彼女は、ただ乱暴に“男のフリ”をするのではなく困惑しながらも女性の体に興味を持つ多感な“男の子”を見事に演じきってみせた。神社の石段を転がり落ちて人格が入れ替わった彼女が鏡を見て自分の容姿に驚く様は、最高のコメディエンヌぶりである。男女の人格(むしろ魂とか心と言った方が良いか?)が入れ替わってしまうファンタジーと思いきや、“性”そのものを深く掘り下げたシリアスな人間ドラマであった。肉体が入れ替わった主人公二人が初体験をするシーンがあるのだが、これってつまりお互いは自分自身と性交をしている事になる。このシーンで二人は相手を受け入れると同時に自分自身を受けている事実。ここが興味深いのだが、人間が一番見慣れている顔や身体というのは鏡に写る自分なのだ。この二人が結ばれる様子を温かく見守るようなカメラワークに大林監督の優しい父性を感じたのは私だけだろうか。前述したのが“自分自身の享受”だとすると、対象的に大林監督が作る映画のテーマとしてあるのが“自分自身との決別”だ。『さびしんぼう』や『時をかける少女』でも共通しているテーマであるが、本作でも成長していく過程において過去の自分に決別する場面は、人生の中でも儚く、そして実に美しい瞬間だ。『転校生』のラストシーン、街を出て行く一夫を追いかける一美を観ていると、かつて“決別した自分”に再会したような懐かしい気分になってしまった。

「さよならアタシ」「さよならオレ」元の身体に戻った二人が別れる時に言うラストシーンでのセリフ。


レーベル:バップ
販売元: バップ
メーカー品番: VPBT-11227 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 5,040円 (税込)

昭和43年(1968)
CONFESSION
 遙かなる憧れギロチン恋の旅

昭和52年(1977)
HOUSE ハウス
瞳の中の訪問

昭和53年(1978)
ふりむけば愛

昭和54年(1979)
金田一耕助の冒険

昭和56年(1981)
ねらわれた学園

昭和57年(1982)
転校生

昭和58年(1983)
時をかける少女

昭和59年(1984)
廃市
少年ケニヤ
天国にいちばん近い島  

昭和60年(1985)
さびしんぼう
姉妹坂

昭和61年(1986)
彼のオートバイ、彼女の島
四月の魚
野ゆき山ゆき海べゆき

昭和62年(1987)
漂流教室

昭和63年(1988)
日本殉情伝
異人たちとの夏

平成1年(1989)
北京的西瓜

平成3年(1991)
ふたり

平成4年(1992)
私の心はパパのもの
彼女が結婚しない理由  
青春デンデケデケデケ

平成5年(1993)
はるか、ノスタルジィ
水の旅人 侍KIDS

平成6年(1994)
女ざかり

平成7年(1995)
あした

平成9年(1997)
TIME LEAP
 タイム・リープ

平成10年(1998)
三毛猫ホームズの推理
SADA
風の歌が聴きたい
麗猫伝説 劇場版

平成11年(1999)
あの、夏の日
〜とんでろ じいちゃん

平成12年(2000)
マヌケ先生
淀川長治物語
 神戸篇 サイナラ

平成13年(2001)
告別

平成14年(2002)
なごり雪

平成16年(2004)
理由

平成18年(2006)
22才の別れLycoris
 葉見ず花見ず物語

平成19年(2007)
転校生
 さよならあなた

平成20年(2008)
その日のまえに




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