ヒットする映画には主人公の他にキラーアクター(もしくはキラーアクトレス)が必ずいるものだ。物語の鍵を握る楔のような存在で、それは相棒であったり恋人であったり…しかしその大半はライバルや敵対する悪役と言って良いだろう。今回、薬師丸ひろ子特集を組むにあたり、彼女の作品を全て観直したところ、公開時から全く変わらないインパクトを持っている女優が一人だけ存在していた。その人物が出演している作品は薬師丸ひろ子の最高傑作に挙げても大方、異論は無いであろう夏樹静子原作によるミステリー戯曲を劇中劇にするという大胆な脚色が話題となった『Wの悲劇』。この映画には、劇中、薬師丸ひろ子扮する三田静香とライバル関係にある天才研究員がいて、観終わってしばらくは彼女の存在が頭から離れなかった。舞台“Wの悲劇”のオーディションで主役に大抜擢される野心に溢れた美少女・菊地かおりを演じた高木美保である。役を得るために劇団のトップ男優と寝た静香とは対照的に、相手を射るようなギラギラした眼光で頂点を目指すかおりは、常に自分の力量のみで勝負をかけており、静香の前にアンビバレントな存在として立ちはだかる。多分、かおりにとって枕営業で役を掴む行為は愚の骨頂…軽蔑以外の何ものでもない。そんな実直な性格故に敵を作ってしまう女性を高木美保はデビュー作とは思えないほど、見事に演じ切ってみせた。

 大勢の研究員たちがとり囲むオーディション会場で台本を手にパイプ椅子に座る高木美保を俯瞰から捉えるカメラ。ヒロイン摩子を演じる研究員かおりを演じるという複雑な芝居だ。このシーンの高木美保が実にイイ。「わたし、お爺様を殺してしまった!」という渾身の絶叫芝居の後で自信に満ち溢れた表情と、やり遂げた後の陶酔した表情が入り混じって薬師丸ひろ子演じる静香の前に腰を下ろす。二人の極端な表情の違いがワンカットに収まり対比される重要なシーンだ。既に国民スターである薬師丸ひろ子よりも合格してもおかしくない…というオーラを持っていないと、このシーンが嘘っぽくなってしまう。澤井信一郎監督は彼女の演技を高く評価している。「あの子がヘタだと全部ぶち壊しになるから」という澤井監督が、このオーディションシーンに彼女のパートだけでも撮影に2時間かけられたというのも頷ける。自分の番が終わりサッと体育座りして、周りを気にもとめない強かさに思わず“上手い!”と膝を叩いてしまった。そして勿論、クライマックスにおける役を降ろされたかおりが静香にナイフを向けるシーンも忘れられない。彼女が本作におけるキラーアクトレスならば、このシーンはキラーカットと言って差し支えないだろう。ところがこの役…「女優という商売にはどうしてもイメージが付いて回る。私が思うに、これって化け物!」と、後日述べているように初めについたイメージに苦しんだようだ。「最初はいじわるな人だった 。それが少し変わって暗い人。私はこの二つとも大嫌いだった」と後のエッセイで語るように『Wの悲劇』で演じた菊地かおり役は、彼女にとってかなり居心地が悪かったと見受けられる。(それだけ強烈な印象を世間に与えた故であるわけだが…)

 映画としては、『夜逃げ屋本舗』で中村雅俊演じる夜逃げ屋カンパニー社長の下で働く敏腕社員・康子の演技が印象的だった。本人もゴールディ・ホーンのようなコメディエンヌ志向が強かったようで、正に本シリーズの康子役は我が意を得たり…という役どころだったのでないか。ナースやホステス、遂にはコマンドといったコスプレを観にまとい嬉々として演じていたのが面白かった。その後、活動の場がテレビドラマ中心となり映画での代表作が少ないのが残念ではあるが、フジテレビのドラマ“華の嵐”と姉妹編“夏の嵐”で演じた勝気なブルジョア令嬢のヒロインが当たり役となって、その役のファンクラブまで出来る程となった。どちらかと言うと『Wの悲劇』のキャラクターイメージとは真逆の役が人気を博す結果となったワケだ。以前、彼女が書いた“ヒロインは眠らない”という角川文庫から出版されているエッセイを読ませていただいたが、これが実に気持ちイイ程、ホンネで思いを書いて面白かった。そこで「この(役の)イメージが、スッゴク気に入っている」と熱く語っているほど。未見の方は是非、ご覧いただきたい。以前、彼女が書いた“ヒロインは眠らない”という角川文庫から出版されているエッセイを読ませていただいたが、これが実に気持ちイイ程、ホンネで怒りを露わにしていて面白かった。


高木 美保(たかぎ みほ、1962年7月29日 - )MIHO TAKAGI 東京都葛飾区出身
  和洋女子大学中退して、東京宝映テレビ付属俳優養成所で演技を学ぶ。昭和58年にフジテレビ「午後のサスペンス」でイメージガールを務めた後、翌年の昭和59年に、映画『Wの悲劇』出演で女優としてデビュー。以後、朝間義隆監督『二十四の瞳』や桝田利雄監督『この愛の物語』で次第に頭角を現し始める。本来持つコメディエンヌとして開花したのは原隆仁監督『夜逃げ屋本舗』シリーズで、中村雅俊演じる夜逃げ屋カンパニーで働く女子社員役で好評を得る。こうした資質が発揮されたのは映画よりもTBS「わたしってブスだったの?」のプッツン妻に代表されるテレビドラマの方だった。そんな彼女の代表作は東海テレビの昼の帯ドラマ「華の嵐」と「夏の嵐」の姉妹編で演じた気が強くて向こう見ず…それでいて根が優しいというお嬢様役でファンクラブまで出来る程の人気を博した。俗に言う嵐シリーズ(グランドロマン)』に出演して、女優として注目を浴びた。しばらく映画から離れテレビを中心に活動していたが、次第に活躍の舞台をバラエティー番組などのテレビコメンテーターに移す。また平成10年よりタレント活動を行いながら栃木県に移住して、農業を営み、農業体験をまとめたエッセー集も執筆している。 (Wikipediaより一部抜粋)


【参考文献】
ヒロインは眠らない

201頁 15 x 10.6cm 角川書店
高木美保【著】

【主な出演作】

昭和59年(1984)
Wの悲劇

昭和60年(1985)
野蛮人のように

昭和62年(1987)
二十四の瞳

平成4年(1992)
夜逃げ屋本舗

平成5年(1993)
夜逃げ屋本舗2




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