セーラー服と機関銃
ワタクシ、オロカナ女になりそうです―。

1981年 カラー ビスタサイズ 112min 東映
製作 角川春樹、多賀英典 監督 相米慎二 脚本 田中陽造 撮影 仙元誠三 原作 赤川次郎 音楽 星勝
主題歌 薬師丸ひろ子 美術 横尾嘉良 照明 熊谷秀夫 録音 紅谷愃一、信岡実 編集 鈴木晄
出演 薬師丸ひろ子、渡瀬恒彦、風祭ゆき、大門正明、林家しん平、酒井敏也、柳沢慎吾、岡竜也
光石研、柄本明、佐藤允、北村和夫、寺田農、藤原釜足、円広志、斉藤洋介、三國連太郎


 『翔んだカップル』『ねらわれた学園』を経て、アイドルから本格的女優に脱皮する薬師丸ひろ子ががクランクアップした瞬間に涙を流した初めての映画が『セーラー服と機関銃』だ。原作は、ユーモア・ミステリーの第一人者である赤川次郎の同名小説。監督は『翔んだカップル』で長編デビューを飾り、薬師丸ひろ子の新境地を開いた俊英・相米慎二。脚本は『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』で鈴木清順監督とコンビを組んでいた異能・田中陽造。そして撮影は『野獣死すべし』『ヨコハマBJブルース』など東映セントラルアーツ製作のハードボイルド路線でシャープなカメラワークを披露した仙元誠三。照明は『太陽を盗んだ男』等を手掛けたベテラン熊谷秀夫といった第一線で活躍する実力派スタッフが結集して最高傑作を生み出した。また、本作では薬師丸ひろ子が主題歌に挑戦し、来生えつこ作詞、来生たかお作曲による“夢の途中”は大ヒットを記録した。共演者に、目高組代貸を演じた『仁義なき闘い』シリーズ『神様のくれた赤ん坊』の渡瀬恒彦、大親分に『復讐するは我にあり』の三國連太郎といった大御所が脇を固めている。なお、この作品は角川事務所とキティフィルムの初提携作品であり、新しい映画の方向に挑戦し続けてきた両者の思いが実を結んだ作品である。


  四人しか子分のいない目高組の親分が跡目は血縁者にと遺言を残して死んだ時、女高生の星泉(薬師丸ひろ子)は、父・貴志と火葬場で最後の別れしていた。泉がマンションに帰ると、「もし自分が死んだら泉をよろしく」という父の手紙を持っていたマユミ(風祭ゆき)という女がいた。翌日、黒いスーツを着こんだ大勢の男たちが学校の前で泉が出て来るのを待っていた。その中の佐久間(渡瀬恒彦)という男に泉は、目高組四代目組長になってほしいと頼まれる。事故死した泉の父が親分の血縁者だったのだ。最初は拒否していた泉だが彼らの熱意に承諾してしまう。数日後、泉のマンンョンが何者かに荒されていた。そこへ、黒木(柄本明)と名乗る刑事が現われた。黒木は父が麻薬の密輸に絡んでいたから殺された…と話す。それから数日後、事務所の前に組員ヒコの死体が放置されていた。続いてボディガードの明が殺され、彼女は大親分である太っちょ(三國連太郎)の所に連れて行かれた。泉があわやというときマユミがやって来て、麻薬のありかと引き換えに彼女を助けるように話す。ところが目高組と敵対する浜口組が組員・明を殺し、麻薬を横取りしてしまう。泉と佐久間は政を連れて浜口の所へ向った。「太っちょを殺ってくれたし、目高組のシマを広げる代わりに仲間にならないか?という浜口の誘いに、泉は机の上にある麻薬が入ったローションに機関銃をブッ放すのだった。


 昭和56年12月、『セーラー服と機関銃』公開二日目の大阪にある東映直営館は凄い事になっていた。その日、薬師丸ひろ子の舞台挨拶を見ようと来場した観客の列が劇場を何重にも取り巻き放水車まで出動する騒ぎとなった。その一件によって彼女は数年に渡って大阪を訪れる際は事前に警察への申請が義務付けられたという。大阪の一件は極端としても日本全国の映画館で同じような状況が繰り広げられていた。(かく言う筆者も初日の混乱ぶりに観賞を断念したくちだ)映画館を移動していたマイクロバスの車中から劇場前の列を見た薬師丸ひろ子は、その日の光景を忘れられないと後年のインタビューで語っていたが、当時の薬師丸フィーバーは正に尋常ではなかった。主演作として僅か四作目にして、薬師丸ひろ子は彼女の代名詞と言っても良い代表作を手に入れてしまったのだ。
 薬師丸ひろ子のファーストカットは実に印象的だった。火葬場の駐車場で“カスパの女”を口ずさみながらブリッジする主人公・星泉の惚けた顔のアップ。父親を事故で亡くしたばかりの少女は現実から逃避しようとしているのか…父を見送る火葬場でブリッジという意味不明な行動をとる。なんとも赤川次郎らしいというか、相米慎二監督らしいというか…少女の持つ残酷さがコケティッシュな表情の奥から見え隠れする見事な演出にただただ脱帽する。そして父の位牌に手を合わせた彼女が炎に包まれるタイトルバック…相米監督の豊かな表現力に自然と期待が高まりワクワク感がしばらく続いた。とにかく本作の彼女は落ち着きのない子供のようによく動く。喋る時も怒る時も泣く時も身体を揺らし、時にはシコを踏んだり、手足をバタつかせたり…部屋中をでんぐり返しで転げ回ったりしながら感情を露わにする。相米監督は、星泉という何の変哲もない女子高生が戦前より続く正統派ヤクザ目高組の四代目になる物語を少女の成長ドラマとしてではなく、パラレルワールドに陥った不思議の国のアリスの如く、サディスティックなヤクザたちに弄ばれる少女の悲喜劇に仕上げているのが流石である。敵対する組にノコノコ出かけたためにクレーン車で宙吊りにされ生コンクリートにドップリ漬け込まれたり、親分同士の会食であわや犯されそうになったり…。相米監督が意図的だったか否かはともかくとして、星泉を虐め抜くことで薬師丸ひろ子本人のプリミティブな魅力を引き出す事に成功している。もうひとつ印象に残るのは薬師丸ひろ子が足をドンと突っ張って仁王立ちする後ろ姿だ。クライマックスで彼女をかばって撃たれた子分を前に怒りを露わにピストルを撃つ後ろ姿に彼女の真骨頂を見た気がした。銃を向けて「おたくら死ねば?」と声を絞り出す少女の姿に思わず涙が溢れた。
 父親が事故で死んで呆然と生活を送っていた主人公の元に現れる黒服のヤクザたち。画面の右からヤクザの待つ校門に向かってノロノロと歩み出す彼女をカメラは真横から捉え左へパンするのだが、決して彼女をフレームの中央には置かない。常に対象をちょっとだけ外す確信犯的な構図が上手い。相米監督お得意の長回しも本作は効果的で、少女の心の揺れを表現するのに長回しは必要不可欠だった。(カット割りをしては彼女の整理的な心の機微は伝わらなかったであろう)中でもラスト近く、警察の遺体安置所で堅気になった渡瀬恒彦扮する元子分・佐久間の遺体と対面する場面の長回しは鳥肌ものだ。部屋の隅から二人を捉えるカメラがゆっくりと周り込み、薬師丸ひろ子をアップにしたまま口づけする口元に寄って行く…単なるフィックスされたカメラの長回しとワケが違う難易度の高い撮影に、場面が切り替わるまで息を継ぐのを忘れるほど(佐久間が死ぬ前、泉に渡そうとしたメッセージが書かれた名刺をオーバーラップさせるタイミングも絶妙だ)。

「か・い・か・ん…」言わずと知れた名セリフ。快感とは死と隣り合っているものなんだ。という三國連太郎演じる太っちょの言葉が伏線になっている。


レーベル:角川映画(株)
販売元: 角川映画(株)
メーカー品番:DABA-773 ディスク枚数:1枚(DVD1枚)
通常価格 2,057円 (税込)

昭和53年(1978)
野性の証明

昭和54年(1979)
戦国自衛隊

昭和55年(1980)
地球へ…
翔んだカップル

昭和56年(1981)
ねらわれた学園
セーラー服と機関銃
セーラー服と機関銃(完璧版)

昭和57年(1982)
装いの街

昭和58年(1983)
探偵物語
里見八犬伝

昭和59年(1984)
Wの悲劇
メイン・テーマ

昭和60年(1985)
野蛮人のように

昭和61年(1986)
キャバレー
紳士同盟

昭和63年(1988)
ダウンタウンヒーローズ

平成1年(1989)
レディ!レディ!

平成2年(1990)
タスマニア物語
病院へ行こう

平成4年(1992)
きらきらひかる

平成5年(1993)
ナースコール

平成9年(1997)
マグニチュード
 明日への架け橋

平成15年(2003)
木更津キャッツアイ
 日本シリーズ

平成16年(2004)
オペレッタ狸御殿
レイクサイド マーダーケース
鉄人28号

平成17年(2005)
ALWAYS 三丁目の夕日
あおげば尊し

平成18年(2006)
木更津キャッツアイ
 ワールドシリーズ
バブルへGO!タイムマシンはドラム式
ありがとう

平成19年(2007)
ALWAYS 続三丁目の夕日
うた魂
めがね

平成21年(2009)
ヘブンズ・ドア
今度は愛妻家

平成22年(2010)
わさお
ハナミズキ

平成24年(2012)
ALWAYS 三丁目の夕日'64




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