今から10年程前、神南のファイヤー通りに配給会社“アップリンク”が映画の上映からライブ、ギャラリーなど様々なサブカルチャーのステージとして多目的スペース“アップリンクファクトリー”をオープン。現在も多くの若者に支持され続けている。そして昨年2004年の夏、その“アップリンク”が運営する新しいミニシアターがオープンした。渋谷の喧騒から外れた場所に建つビルの2階に、まるで自分だけのプライベート空間のような小さな映画館『UPLIMK X』である。

「自称、日本で一番小さな映画館なので座席を作るのにも苦労しました」と語ってくれた有限会社アップリンクの社長である浅井隆氏。「本当は映画館は消防法的にはイスを固定していないと駄目なのです。ですが、ここでは映画の上映以外にもワークショップやトークイベント、時にはスタジオとして撮影で使ったりしますので、フラットの床で自由に空間を使える様に消防署と保健所に色々と無理をお願いしましたね。おかげで、特殊なケースとして認めてもらったのです」という言葉通り、場内は映画館で見られるイメージは無く、インテリアのショウルームに来たのでは…と錯覚しそうな空間が広がっている。フラットな床にイスを置いているだけなので前列の頭が気になるのかと思いきや、イス自体の高さに高低をつけている配慮を施されている。





場内にはユニークな形のイスが置かれており自分好みのイスを色々と試しながら見つけ出すお客様も多い。これらのイスは老舗のインテリアメーカーのものを採用しており、お客様からイスについての問い合わせも多い程、いずれも座り心地は抜群である。浅井氏が劇場のコンセプトを「部屋のように使ってもらいたい」と定義されているように、来場者は、まるで自宅のホームシアターでリラックスしているかのように映画を楽しんでいる。「部屋のような空間でありながら、映画館という公共施設で、全くの他人と映画を観ているわけですから開放感と緊張感が微妙にバランスが取れた空間になってくれれば…と思っています」





渋谷駅から文化村通りを上り東急Bunkamuraを右に曲がると間もなく閑静な住宅街の入口に劇場が入ったビルがある。ともすれば見過ごしてしまいがちなオフィスビルだが1階に2005年の4月から“ファクトリー”も移って来る計画となっている。「今はビルの入口も映画館が入っているのが判りにくと思いますが4月にファクトリーがオープンすれば、かなり劇場としても認知度が上がると期待しています」と浅井氏は語る。ビルの2階には“アップリンク”の事務所があり、その横に劇場の入口がある。黒とベージュのツートンカラーに色分けされた壁面が印象的な廊下には所狭しとチラシが並べられている。受付の横には“アップリンク”作品のDVDや関連書籍が並んだ販売コーナーがあり小さいながらも機能的なエントランスだ。落ち着いた雰囲気の場内はスクリーンの下にJBLのスピーカーが設置され音響は最高の品質を誇っている。フィルムを使わないDLP方式の上映で常にクリアな画質と音質を保てるのがコチラのウリだ。

配給会社直営という事で“アップリンク”作品がメインかと思われている方も多いようだが、自社配給に限定していない。純粋に映画館という立場で作品を選定しているのだが唯一フィルム上映が出来ないためDVDやビデオのデジタル作品から作品を選んでいる。「フィルムの作品をデジタル化したものではなくオリジナルがデジタルで撮られたものにこだわって、他の劇場で観られる映画をやるよりもココでしか観られないマイノリティーな作品を中心に構成しています」確かに、コチラではオープン以降、常にユニークな作品を上映している。ロングランで土日のみのレイトショウ上映を行っている“行方知れず渋さ知らず”は毎回立ち見が出る程の人気を博している。ドキュメンタリーからマニアックな作品に至るまで幅広いジャンルの作品を精力的に掛けているだけに来場者も“ファクトリー”の客層とは全く違った様子を見せており、平日は年輩の方も多く訪れている。「1階にファクトリーが移転してきて初めて映画館と多目的スペースの融合ビルが完成されるので、全く違ったお客様にアプローチできると思っています」と浅井氏の言葉通り、渋谷におけるサブカルチャー発信基地として、限りない可能性と新しい何かが生まれる予感がする。(取材:2005年1月)


【座席】40席 【音響】DS・SRD・DTS DLP上映

【住所】東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル2階 ※2021年5月20日を持ちまして閉館いたしました。

  本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street