「横浜日劇」「シネマ ジャック&ベティ」他、経営者 福寿祁久雄氏インタビュー

─福寿さんの経営されている『シネマ ジャック&ベティ』で日本映画の特集上映をされていますが、大船松竹撮影所が閉鎖された時にこちらの劇場だけ『さよなら大船松竹撮影所特集』を組まれましたね。

福寿 肝心の松竹がやらないっていうから、じゃあウチがやろうっていう事で特集を組んだんですけど…こうやって日本映画を作る場所が段々、無くなってきてますよね。今の日本映画界は若い才能の人達が増えてきて以前よりも自由に映画を作る時代になっているって言う人もいるけれど僕はそこまで楽観視していない…確かに映画製作をする人口は増えてきていると思うけど我々の様な映画館を支えて行けるだけの量と質があるかと言うとそれは無いと思っています。映画館っていうのはけっこう贅沢で、質も量も必要なんですよ。

─福寿さんも実際、『濱マイク』シリーズなど製作も手がけてらっしゃいますよね。

福寿 映画というのは作っていかないとダメなんですよ。物を作っていくんだという気持ちで携わっていく…人が作ったものを「あーでもない、こーでもない」言っているだけで済む時代ではなくなってきていますね。日本映画は特に我々日本人が作らなきゃいけないんだから、興行の人間もどうしたら良いか考えなければ、日本映画は無くなってしまいますよ。

─今後、どんな日本映画の特集をお考えですか?

福寿 正月には『三国連太郎特集』をやろうと思ってます。三国さんの作品は数が多いので選択が大変だけど、出来るだけたくさんやろうと思ってますよ。以前『三木のり平追悼特集』をやった時は30本上映したんだけど全作品観たお客さんがいたぐらいですから今回もそんなお客さんいるでしょうね。ただ三木のり平さんは主役の俳優さんじゃないから作品選びには苦労しました。本当は主役を食っちゃう脇役って良くないんだよね、でも三木さんの場合は彼が出演したおかげで映画の幅が広がったっていう(三木さんの良さが出ている)作品を集めて上映しました。あと、ウチは以前『にっかつロマンポルノ』の一番館、二番館もやっていたから、いずれは当時のにっかつ作品をずっと上映していってラストの一本が終了と同時に年明けを迎えるっていうカウントダウンをやってみたいな。(笑)あの頃の『にっかつロマンポルノ』には勢いがあったからね。全てが新しかったんだよ。鮮度が非常に高くて…やっぱりそれは時代が作って行くもんなんだろうな。継続していって、それがいつかは花開くっていう…。

─たしかに、そこから神代辰巳、根岸吉太郎、藤田敏八、石井隆監督が出て来ましたものね。以前『神代辰巳特集』をやられましたが意外だったのは女性の姿が多かった事ですが。

福寿 映画がちゃんとしているからね。だから女性が観ても鑑賞に耐えられるんだよ。要するに『日活ロマンポルノ』は男が女を描いているわけだから女性が興味を持つのは当り前の事なんだな。だからこそ中身の無い作品(アダルトビデオ)は見向きもされないんだよ。

─やはり監督によって映画の質は左右されるってことですね。

福寿 当る映画っていうのは算盤弾いたからって出来るものじゃない。1本1本にもっとライバル意識を燃やして、活性化して欲しいですね。どれ位安定した集客(配収)を得られるか「絶対にヒット作を作らなくてはならない」宿命を背負っているのがプログラム・ピクチャーを作っている監督なんですよね。例えば、岡本喜八監督や深作欣二監督がそうですよね。ちょっと前に深作監督と話した時に「会社は当てなきゃ困る」の一点張りで大変だってこぼしてましたよ。要するに今のテレビの視聴率みたいなもので、それは俳優も同じこと。昔はヒット作に出なければ大スターになれない…だから俳優も常に自分が出演していた作品の状況を気にしていたものでしたよ。

─そう考えると、今の韓国映画には昔の日本映画的な勢いがあるように思えるのですが…。

福寿 『八月のクリスマス』なんか日活時代の青春映画のオーソドックスなパターンですよ。情感が伝わる所を大事にしている。生活感や人と人とのコミュニケーションを大切にしているというのは東洋映画の伝統として行きたいよね。決してアジア圏の映画の水準は低くないんですよ。

─たしかに最近、日本でもアジア映画がカンフー映画以外にも数多く観ることが出来るようになってきました。

福寿 日本は良い環境だと思いますよ。色々な国の映画が入ってこられる。ただ、あまりにもその自由さが当り前になるのは危険ですね。日本映画自体の体力があれば外国映画と競争できるんだけど、まだ他所の事が気になってしまっている。日本映画の事をもっと日本の映画ファンは知るべき。現状では外国でヒットした映画はどんどん輸入されるのに、それを上手く日本映画に活かせるという力が足りないように思えるんです。日本映画を劇場で観た事がないのに外国映画のことは良く知っているっていう人が多いですよね。

─今の若い人が日本映画に目を向けるにはどうしたら良いのでしょうか?

福寿 どんなジャンルの映画にも時代や人間をちゃんと捉えているというのが良い映画の基本だと思っているんです。例えば時代劇ひとつ取っても、勝手に時代考証を無視して翻訳しているものがあったりするけど、やっぱりそれって面白くないし、観客ってそういったイイカゲンな所は見抜いてしまいますよ。あと映画に対するこだわり…。『男はつらいよ』で毎回寅さんが500円しか財布に持っていないっていう事。これってとても大事な事なんですよ。この500円が多くても少なくてもいけない、この500円だからこそ寅さんの大きさが現れるんですよ。毎回、ここにこだわっているという事が『男はつらいよ』シリーズの長寿の秘訣なんですよね。こういった細かい所をちゃんとしておかないと映画そのものがガタガタになってしまうんです。たまに、大学の新聞部の学生がやって来て取材を受けたりするんだけど、先日来た学生の質問で「古い映画を観る価値はありますか?」っていうのがあったんですけど古いとか新しいとかでなく映画はどれでも観る価値はあるんです。
古い映画を観ることで時代の足跡を知る事が大切…私が古い映画の特集をやっている事をそういう事だと思って観に来てくれるとウレシイですね。

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