受付でチケットを購入して二階へ続く一直線の長い階段を見上げて「懐かしいなぁ…何十年ぶりやろう?」と呟いて階段を上がって行く若者たち。梅田からほど近い大阪の下町情緒が今も息づく町―阪急淡路駅西口を降りると目の前から西にまっすぐ伸びるアーケード型の本町通商店街のほぼ中央に位置する映画館『淡路東宝』でよく見られる光景だ。「この辺に住んでいる若い子は子供の頃に一回は連れられているから、久しぶりに来ると、みんな同じように懐かしんでいますよ」と、語ってくれたのは支配人の坂本雅昭氏。日本映画全盛の昭和32年に東宝の封切り館として、現在、代表を務める桜田丑男氏のひいお祖父様が設立。その後リニューアルを繰り返すも、ほぼ当時と変わらない外観に来場者は同じような反応を示す。


「子供の時に親に連れられて、今度は親となって子供と一緒に来られるんです。これも昔から変わらないおかげかも知れませんね」『淡路東宝』は元々、運営する宝来興業株式会社が隣接する宝来市場を増設して建てた映画館で、お客様は地元の方が中心の完全な地元密着型。平日は圧倒的に年輩の方が多いが休日ともなるとファミリー層や中高生の姿も見られる。館名に東宝と付いているから東宝の直営と思っている方もいるようだが、基本的には松竹や東映作品も上映している。ロードショー作品だけではなく二番館としてムーヴオーバー作品も扱っているため梅田の映画館がいっぱいで見損ねたという方にも重宝されている。昨年の夏、坂本氏が"少年H"のポスターを貼っていたところ、「これ、いつやるんですか?」と尋ねてきた近所のお年寄りに「ウチはもう大分遅いですよ」と答えると、「ほんならそれまで待っといたらエエネンな?」と帰って行ったという。ここに集う昔ながらの常連さんは、無理して最新作を観に行くよりも、気長に待ってでも勝手知ったる地元の映画館で観る人が多いという事だろうか。「昔はこの辺にも映画館は、ちょこちょこあったんですけどね。駅前にはペンキ屋さんが経営していた東映専門館とか松竹専門館があったんですけど、今、商店街に残っているのはウチひとつですわ」という坂本氏。

以前は歩いて2〜3分の場所にもう1館映画館を経営していたが、一昨年常設の映画館としての営業を止めて、貸館としてしまってからは、街には『淡路東宝』だけになってしまった。お店を眺めながら商店街を歩いていると、どうしても目に飛び込んでくる、大きなゴジラの絵看板が掲げられた映画館の正面エントランス。周りのお店に負けじと、いくつもの立て看板が並べられてガチャガチャした感じが実に楽しい。1階のロビーは受付と売店のみのシンプルな作りで、場内へは階段を上がって2階から入場する。前方がワンスロープ、後方が段差の付いたスタジアム形式の場内は、さすが昭和の映画館らしく、天井が高いためスクリーンがとにかく大きい。驚くのはロビーの階段を上り切ると目の前に現れる待合所の天井の高さ。商店街側に面した二階分の高さがある吹き抜けはガラス張りの壁面となっており、柔らかな外光が注ぎ込む開放的な空間が広がる。そこの螺旋階段を上がったところにある映写室は、デジタルとフィルムの上映が可能だ。

また、『淡路東宝』に訪れた際には是非とも立ち寄ってもらいたいのが、映画館横に隣接する喫茶店"トーホー"だ。設立当時からある昭和の雰囲気が味わえるレトロな喫茶店は坂本氏がマスターとして兼務。映画の待ち合わせや時間潰しに利用される方が多い。軽食も充実しているので、ここでお腹を満たして映画観賞されるのもよいだろう。天気の良い日中は木漏れ日が注がれる窓際の席がオススメだ。

長い劇場の歴史の中で、坂本氏が記憶に残る作品として挙げるのが東宝の大ヒット純愛映画"世界の中心で愛をさけぶ"だ。「あれは東宝興行部の方が"絶対に入るからやりましょう!"と言うので、やったんですよ。入る言うたって対象が中高生でしょう。どんだけ入るかな?思ってたんですけど。蓋を開けて見たらものすごい入って…」と、当時を振り返る。梅田の映画館で捌き切れないお客様を"この近くなら淡路東宝でやっているから行ってみてください!"と、お客様を誘導してくれたのだという。










「階段の上から下までお客様の列が、ずっと途切れる事がなくて…全部の回が扉も閉められへんくらい満席になったんです。久しぶりに映画館に入り切らないという光景を見て、昔の"ゴジラ"を思い出しました」まだ、立見という習慣がギリギリ残っていた最後の時代…「昔の映画館はどこでもこうだったんですけどね」と坂本氏は目を細める。

そんな『淡路東宝』らしいイベント上映が昨年9月に行われ大盛況となった。二週間限定で昼の部を"男はつらいよ"、夜の部では東宝の特撮映画"海底軍艦"を35ミリフィルムでの上映した。初の試みだったが、大スクリーンで甦る名作を観ようと近県からも多くのファンが訪れたという。特にリバイバル上映される機会も少ない"海底軍艦"は、コアな特撮ファンにとっては感涙ものだったに違いない。「こうしたイベント的なものを年に一回は放り込んで行こうかなと思っていいます」今年も高倉健の名作と東宝特撮映画第二弾を考えており、現存する35ミリフィルムの作品を出来る限り上映する機会を作っていきたいという。「確かに35ミリフィルムで上映するリスクはありますけどね。昔は途中でフィルムが切れて真っ暗になるなんて事はよくありました。フィルムで観るという事は途中で何があるか分からん。そういう事も含めて楽しみじゃないですか?」(2013年8月取材)

【座席】 229席 【音響】 SRD

【住所】大阪府大阪市東淀川区淡路4-7-7
※2017年5月31日をもちまして閉館いたしました。


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