上田駅からほど近くにある映画館『でんき館I・II』は、ツタの絡まるコンクリート剥き出しの外観で映画館というよりも小さな美術館のような様相を呈している。昔、上田駅前にあった“でんき館”を閉館する際に現在の場所に新しく建てたのが前身。設立当時は東映の封切館として“上田東映”という館名でスタートしたコチラの劇場だが、駅前の“でんき館”では松竹の作品がメインだったらしい。「当時は東映専門でやっていても週替りで新作が次々と公開されていたわけですから充分にやっていけたのですよね」と語ってくれた取締役社長である駒崎隆氏。平成10年に老朽化した“でんき館”を建替え、現在の2館体制で『でんき館I・II』として再スタートを切る。エントランスの照明や半月型の板は建替え前の劇場で使用されていたものを地元の建築デザイナーがモニュメントとして残してくれたそうだ。中に入ると明るいロビーの中央にチケット売り場が設置され、青の矢印『ホールI』、赤の矢印『ホールII』に沿って進むと場内へと続く。ワンスロープ式の場内の床に目をやると排気口のような吹き出し口がある。これは劇場の斜めになっている屋根が太陽光を集熱して、場内の床下を暖めた熱が最後に、座席下の排気口から暖かい空気として供給される仕組みとなっている。「秋口であれば全く暖房は必要ないですよ」と言われる通り、日照時間が日本で2番目という上田市ならではの日本全国でも珍しいエコロジーに配慮した設計を施している映画館なのだ。元々上田市内には駅前に“ニューパール劇場”、東宝専門館の“テアトル東宝”、日活専門館の“中劇”近隣に数館の映画館があった。









現在は『でんき館I・II』と『上田映劇』の3スクリーンだけとなってしまった。近隣にシネコンが建ち始めて、不利な状況を打開するために「小さな映画館だからこそ出来る事があるはず」と、シネコンには真似出来ない街の映画館だからこそ出来る地元のお店と連携した企画で勝負している。以前、インド映画の上映に合わせて近所のインド料理屋と協賛してロビーでインドのスナックや飲物を販売したり、インド雑貨を販売したり…と街ぐるみで映画を盛り上げた。映画館が無くなったために若者が街を回遊する目的が無くなり、街の元気が失われているのだと駒崎氏は分析する。事実、客層も年輩の方がメインで、学生の数は年々減少状態にあるという。だから上映作品の選定も年輩の方を意識したラインナップが主流となり、駒崎氏は休館日には東京の映画館に足を運び、どんな作品を上映すべきか試行錯誤を繰り返しているという。とは言え上田は、映画のロケ地として昭和の日本映画全盛期から数多くの名作に誘致している映画の里。昨年、公開された“サマーウォーズ”は正に全編、上田が舞台となっていたおかげで日本全国からファンが来場されたという。「面白いのは、皆さん地元の映画館で一度観てから、上田に二回目を観に来る…という方が多かったですよ」「どんなに自分が良いと思った作品でも商売抜きで考えては失敗しますから、何がウケるかを第一に考えて作品を選ぶようにしています」中には、どうしても気に入った映画をリスク覚悟で上映することもあるというが「そんな作品にお客さんが来てくれた時は本当にありがたいし、嬉しいですよ」と顔を綻ばせた。


昨年の上田市は“サマーウォーズ”効果で街は湧いたものの「それだけでは長野県の映画文化を守る解決策にはなっていない」と駒崎氏は語る。「長野県の個人館で深刻な問題となっているのは後継者がいないという事です。映画館という文化施設を街の財産として存続・保存させるためには市営にするとか行政が足並みを揃えて考えて行かなくてはならないと思います」と言われる通り、ここ数年で既存館が軒並み閉館している。「一度、失ったものは元に戻す事は出来ないのですから」という駒崎氏の言葉が強く胸に残った。上田市はフィルムコミッションが全国的にもトップクラスの機能を果たしており“映画の街”という旗を掲げている街だ。しかし、せっかく上田で撮影したにも関わらず上田で公開されなかった作品が何本もあるという。「映画は、たくさんの人に観てもらえて完結するわけですから、私たちはその器を守って行かなくてはならないのです」という駒崎氏の言葉が心に残る。(2009年10月取材)






【座席】 『スクリーン1』103席/『スクリーン2』82席 【音響】SRD

【住所】長野県上田市中央1-6-13 【電話】 0268-23-3357


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