長野県の東部に位置する上田市。菅平と美ヶ原の二つの高原に囲まれ、その中心を千曲川が流れている。古くは信州における政治の中心地であった上田市には1200年余りの歴史的建造物と数多くの文化遺産が遺されている。駅の近くには戦国時代に築城された上田城が当時の雄姿をそのままに、多くの観光客が訪れている。
上田駅から10分ほど歩いたところにある繁華街…そこは一変して昭和の雰囲気が今でも色濃く漂う一杯飲み屋や定食屋が軒を連ねている。その通りに入ってすぐ、昔と変わらない外観のままの上田市内に2館だけとなった映画館『上田映劇』が建っている。


運営する(株)セムコーポレーションの取締役社長・駒崎隆氏は、街から映画の灯を守るため、積極的に自主上映会への協力や独自にイベントなどを開催している。大正6年に開場された芝居小屋“上田劇場”を駒崎氏の祖父・鉄五郎氏が昭和の初めに上田を訪れた際に買い取り、映画館に改装したのが始まりである。今でもチケット売り場に併設された事務所には劇場として創業を始めた折に帝国劇場の支配人から寄せられた祝いの書簡が飾られている。しばらくの間はお芝居と映画を交互に興行を行っていた『上田映劇』が映画専門館となったのは戦後になってからの事。現在も芝居小屋の名残りはスクリーン前にある広いステージとコの字型に囲まれた2階客席の設計に見る事ができる。「当時、劇場の裏に元々楽屋として使われていた住居があったのですが、私が子供の頃、自宅に馬の頭とか小道具が置いてあったり、地下には回し舞台の装置が残っていましたよ」と語る駒崎氏。










自宅の窓を開けるとスクリーンが見える専用の特等席があった程。「小学校の頃、映画を観せてやると…友だちをたくさん連れて来て怒られた記憶がありますよ」と当時を振り返り駒崎氏は笑う。また、創業当時のままという天井の細かな造形は目を見張る程、贅沢な細工が施されている。何度か改装を行っているコチラの劇場だが、あくまでも建物は創業当時のまま内装だけをいじっているので、劇場のアチコチに昔の姿を見る事が出来るのだ。創業時は畳の桟敷席だったという2階席は今でも現役で、革張りの贅沢なシートに座ると程良く全身を支えてくれる。今でも映画を観るなら、どんなに空いていても2階席(2階席はプラス200円)と、こだわっている常連さんも少なくない。「ウチは、あえて全席自由席にしています。それは、お客さんが場内に入って好きな席を探すのも楽しみのひとつだと思っているからです」と語る駒崎氏。


昭和48年に立て替えを行い、現在の建物となってからは大映・松竹の作品をメインとしつつも洋画の上映も行っていたという作品群の中で、駒崎氏の記憶に残るヒット作は“エクソシスト”という。「大学生の頃で、家の手伝いとして近所の高校で前売り券を売っていたのですが、結構売れたので印象深く残っていますよ」と笑う。また“ラストソング”(本木雅弘主演)の公開時に、地元のレコード店と提携して上映前にライブを行ったところ、ライブ用に設計していないため電源が飛び、スピーカーから音が出ないまま、生音で演奏をすることに。


しかし、会場は盛り上がり「だったら映画とライブ両方楽しめる劇場にしてしまおう」と、スクリーン前のステージを増築して左右にパイプでやぐらを組み、巨大スピーカーを設置してしまった。その後、プロのミュージシャンを招いたり、地元で活動しているアマニュアバンドに劇場を貸し出す等、幅広く活用されている。リニューアル当初は、映画館でライブが観れるという事で、かなり話題になり、音楽以外にもお芝居や落語といった様々な公演に使われたという。「創業時は無声映画も上映していたため生の楽団が演奏するにあたって芝居小屋の作りは大いに役立ったらしく…昔は上映前は屋外で呼び込みと一緒に演奏をして、上映が始まると中に入るという事を繰り返していたそうですから…」と語る駒崎氏。現在のライブも出来る劇場の原点は芝居小屋だった創業時から培われていたものなのかも知れない。(2009年10月取材)






【座席】 280席 【音響】SRD-EX・SRD

【住所】長野県上田市中央2-12-30 【電話】 0268-22-0269


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