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2011年3月11日14時46分。牡鹿半島東南東沖を震源とする震度6弱の地震が福島県を襲った。震源域の中間部に位置する福島県の中核市いわき市は震度6弱の揺れが、およそ6分近くも続いたという。子供たちの春休み映画が始まったばかりだった街の映画館『ポレポレいわき』では、ちょうど子供向けのアニメ映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 はばたけ天使たち≠フ上映がスタートしたタイミングだった。午後の回も順調にスタートしたのを見届けて外に出たところで揺れを感じ慌てて階段を駆け上がった時に本震にあったという統括部長(当時シネママネージャー)の沼田哲也氏は「初めて生命の危機を感じた」と当時の感情を生々しく語ってくれた。筆者が初めてこの地を訪れたのは震災から1ヵ月が経過した4月も終わりに近づいた頃。もうすぐゴールデンウィークなのに小雪が散らつく肌寒い日だった。人通りの無くなってしまった地元商店街から「せめて映画館だけでも開けてほしい」という声が上がり震災から僅か2週間後には劇場を再開していた。そのニュースは瞬く間に全国へと伝わり、毎日のようにテレビに映し出される被災地の報道の中で被災者に勇気を与えてくれる出来事だった。そのニュースを見て、いても立ってもいられなくなった筆者はすぐに沼田氏へ取材を申し込んだ。避難所で不自由な生活を余儀なくされていた人たちに映画という娯楽の灯をともし、ようやく劇場も軌道に乗り始めた矢先の4月11日。再び起きた震度6弱の余震によって『スクリーン7』の映写機が倒れ、再び休館を余儀なくされる。「正直その当時の事ってあまり覚えていないんですよ。目の前にある課題だけで精一杯だったから…」という沼田氏は、倒れた映写機を仲間と共に元に戻して劇場の再開に漕ぎつけた。取材の当日、筆者が目にしたのは受付で友だちや家族と楽しそうにお喋りしながらチケットやポップコーンを購入する人たちの列だった。 |
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上映作品は沼田氏が中心となってTOHOシネマズの番組編成部に委託している。『ポレポレシネマズいわき小名浜』ではメジャー系をメインとして『まちポレいわき』は単館系を中心に構成している。「どうしてもいわきの人に観てもらいたい作品をリクエストしたり、ムーヴオーバーをミックスして作品選定しています」客層は年配のリピーターで電車やバスを利用される人が多いため開場時間を10時スタートに設定している。チケット予約も無料のシアターパス会員登録をすれば可能となった。「単館系は近郊ではウチでしかやっていない作品もあるので、わざわざ郡山や茨城県から来られる方もいます。福島県って結構広いので、座れるか心配しなくて済むと好評です」 ファンにとってありがたいのは『スクリーン1』と『スクリーン2』がハシゴしやすいようスケジュールを組まれているところ。また『ポレポレシネマズいわき小名浜』で人気があった作品をムーヴオーバー上映する配慮もされている。「今までずっと試行錯誤でやってきましたけど、去年は番組にも恵まれて興行収入も最高でした。秋から大ヒットした国宝≠焜鴻塔Oランで続いていますが、意外なところではコロナのドキュメンタリーヒポクラテスの盲点≠ナした。えっ?こんなに入るの?っていう程お客様がいらっしゃいました」と沼田氏自身ノーマークだっただけに驚きを隠せない。今年の4月からは往年の名作をリバイバルされて人気の「午前十時の映画祭」の開催が決定(今まで福島県で実績がなかったのが意外)。「まさにウチの常連さんが求める作品群なので期待しています」 |
そして…4月に入ると今度は福島第一原発の廃炉作業に一日3千人から5千人の作業員が全国からいわき市に集まった。駅周辺のビジネスホテルは全て貸し切られ、長期宿泊している作業員が毎日原発に向かって行く。夜になると作業員たちは周辺の飲み屋に繰り出すものだから、いわきの景気はすごいと評判になっていたという。震災前までは夜8時を過ぎると街に人がいなくなったのに、夜遅くまで飲み屋から客が途切れることがなく復興特需なんていう店主もいた。これも長続きはせず、廃炉作業もピークを過ぎると人出もピタッとなくなって、2015年を過ぎた辺りから作業員の数も少なくなって街の賑わいも無くなってしまった。 『ポレポレいわき』の前身である『世界舘』は、終戦直前に強制疎開で取り壊されたが戦後に再建。間もなく日本映画黄金期を迎えた。高度経済成長期には駅前再開発に伴う道路を拡張で再び取り壊され、駅前にテナントが入る複合ビルを設立して現在に至る。このように『世界舘』は館名と形を変えながら映画の歴史と共に時代を見つめてきた。2008年には7スクリーンを有する『ポレポレいわき』としてオープンした。震災から7年…復興によって映画館は大きくカタチを変えることとなった。2018年6月15日には小名浜に完成したイオンモールにシネマコンプレックス『ポレポレシネマズいわき小名浜』を立ち上げ、7月13日に『ポレポレいわき』からミニシアター『まちポレいわき』と改名して終わった人≠ニ家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。≠こけら落としで再スタートを切った。
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5階はチケット窓口を兼ねた受付となっており、ドリンクやスナックなどもコチラで購入出来る。エレベーターを下りると年代物の映写機が展示されており「展示物には自由に触ったり開けてもらって構わないので、昔の映写機はどんな仕組みなのかご覧いただきたいです」スクリーンは4階にあるので、余裕がある方は時間までソファのあるロビーで過ごすのがオススメ。スペースが広いので待ち合わせしやすいと評判だ。またカウンター横のドアからは屋外のテラスに出られるので天気の良い日中はいわき市街を眺めながらゆっくり時間を過ごすのも良いだろう。「ゆくゆくはロビーに色んな人が集まって映画の話しを自由に出来るサロンにしたい」と語る沼田氏。上映までの間に是非手に取ってもらいたいのが、「映画館に長居して欲しい」という思いから映画について不定期刊行で書かれている「壁新聞」だ。今では観ることが出来ないレアな作品(ロバート・ショウ主演のカリブの嵐≠取り上げているのが渋い)について言及されていたり、読み進めていくうちに遠い記憶が呼び覚まされる。なかなか映画館へ足を運べない方でも、劇場の公式サイトでも電子版が読めるようになっているので是非! 『スクリーン1』の場内はユニークで、固定席の他にも単独のリクライニング席やペアの畳席(最前列なので思いっきり足を伸ばせる!)とペアのソファ席が用意されている。『スクリーン2』は段差が付いた全席固定席だが前列の人の頭がスクリーンに被らないよう、スタッフ自らの手で座席の設置部分に板を噛ませて高くしたり、一部の座席では椅子と椅子との間隔を極端に開けるなど配慮がなされている。気づいたところをすぐに改善されるのがマニュアルに囚われない映画館の良さだ。また座席については最前列は見難いと思われがちだが、実は映画館のオススメは最前列なのだ。これは公式サイトにも記載されているが「最前列からスクリーンまでの距離が離れているためスクリーンを見上げたり前列も気にすることなく、丁度いい目線にスクリーンが位置するのでリラックスして観賞が可能だ。また地下にあったスクリーンの座席を取り払って『まちポレいわきB1プラス』というライブスタジオに改装。市内でBarを経営している「Bar QUEEN」がライブの企画・開催している。運営に関しては貸館というスタイルで場所を提供しており、チケット販売や告知などは主催者が行っている。勿論、このスペースを使って演劇や講演会、アーティストを呼んでライブを行いたいという個人や団体は、その旨を『まちポレいわき』事務所に申請すれば、時間貸しで利用が可能だ。 |
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閑散として経済が冷え込んでしまう2月のいわき駅前を「映画館として何か出来ないか」と立ち上げたのが『ポレポレ映画祭』だった。2011年2月12日から1週間いのちの山河〜日本の青空II≠ニZERO:911の虚構≠上映して、今年で15回目を迎えた。震災翌年の2回は上映を5作品に増やして、原発問題を抱える福島県で開催される映画祭だからこそ意味がある核やエネルギー問題を描いた作品を上映された。また「いわき芸術文化交流館アリオス」と連携して様々なイベントも実施されている。2020年にはダンシング・チャップリン¥繪f時に周防正行監督のトークイベントを開催。2022年からは「ぴあフィルム フェスティバル in いわきセレクション」を毎年開催されている。2025年には急逝された福島県出身の西田敏行追悼特集が行われ、手作りのポスターを貼って回ったという。今年の映画祭は4月6日から「忘れない…」をテーマに3作品を上映する。 震災と原発事故そしてコロナを経てこれからの映画館のあり方について沼田氏は次のように述べる。「コロナ後、ミニシアターが苦境に立っているのと同様、映画祭も曲がり角に来ていることも事実です」映画祭を始めた頃は単館系の作品は月に1本程度しか上映しておらず、それを補う形で映画祭が存在していた。今では年間200本近い作品が『まちポレいわき』で上映されており「言うなれば毎日が映画祭という状況です。改めて映画祭の在り方を見直す時期が来ているかも知れませんね」以前は仕事や学校帰りに若い人たちが映画を観に来ていたが、コロナ以降、夕方は最も少ない時間帯となってしまった。ところが最近になってそんな客層に変化が見られるようになった。「先日上映したヒッチコック特集に大学生や若い人たちが多く来てくれたんです。昔の名作に興味を持つ若い人が次第に増えてくれればありがたいですね」それだけに4月から始まる「午前十時の映画祭」に期待しているという。「これから告知の仕方も若者向けにアピールするなど変えて行きたい」と最後に語ってくれた。(取材:2026年2月) |
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【座席】 『スクリーン1』52席/『スクリーン2』51席 【音響】デジタル5.1ch 【住所】福島県いわき市平字白銀町1-15 【電話】0246-22-3394
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