杜の都に朝から降り続いた雨も上がり、市の中心部を南北に走る地下鉄南北線の北四番丁駅に向かって県道をぶらぶらと歩く。雲の隙間から太陽が顔を覗かせると勾当台公園の緑が晩夏の風に揺られてキラキラ光る。この界隈は青葉区役所や市役所などが建ち並ぶ官庁街だが、その先には東北大学を始めとする多くの学校がある学生街となっている。駅からほど近くメイン通りから少し北に入ったところに、遠くからでも目立つフォーラムと書かれた緑色の看板。東北を中心に映画館を展開するフォーラムシネマネットワークが運営する3スクリーンのミニシアター『フォーラム仙台』だ。オープンしたのは1999年12月23日。間もなく20年目を迎える。「世間は2000年問題で大騒ぎしている真最中…よりによって、どうしてそんな時にオープンするの?って思いましたよ」と支配人の橋村小由美さんは笑う。

こけら落としは大ヒットを記録した“バッファロー’66”と、まだ仙台ではやっていなかった“バンディッツ”。そして意外にも単館系の作品ではなく“マトリックス”だった。「当時は既に市内にはミニシアターがあったため、後発で単館系はやりづらい環境だったんです。作品を被らないようにすると、オープニングに何が出来るだろう…と考えていたら、お付き合いがあったワーナーさんから”マトリックス”をやりませんか?と声を掛けて下さったのです」既に公開から2ヵ月が経過していながらも客足は衰えていなかったにも関わらず、市内の映画館では上映が終了していたのだ。ウォシャウスキー兄弟の作品が好きだった橋村さんは、その申し出に飛びついたのは言うまでもない。「ワーナーさんとしては、もっとやって欲しいのに…という思いがあったと思います。だから私としてはもう大満足でした」


こけら落としのラインナップからもお分かりの通り、幅広いジャンルの選定から、ミニシアターの枠を超えた懐の深さを感じる。これは、フォーラムシネマネットワーク代表の長澤裕二氏の理念に依るもの。「どんな作品をやるかにおいて、劇場のコンセプトって実は無いんです。代表の口癖は、作品には大きいも小さいもない…だから、ドラえもんもインディペンデント系も上映する映画館にしたかった」そういった意味においては、『フォーラム仙台』をミニシアターとかロードショウ館にジャンル分けするのは全く意味を成さないかも知れない。そう…コンセプトがないのが最大のコンセプトなのだ。「とは言え、ここで本当にドラえもんをやっちゃうと、キャパが小さいので裁き切れず大変な事になっちゃうので、実際は出来ませんけど(笑)」そして、年を明けてすぐ橋村さんの記憶に強烈に残る作品に出逢う事になる。

「それが、”シュリ”でした。前年の秋に東京で初めて観た時、感動して…オープンしたら是非やらせて欲しい!とお願いしたんです」まだ仙台での上映館が決まっていなかったため配給のシネカノンも快諾。こけら落とし第二弾として1月末に公開したのだが、フタを開けると連日満員…予想を上回る状況となった。まだ日本に韓流という言葉が出来る前の事だ。それから間もなく近隣にシネコンが出来始め、逆に街から既存の映画館が徐々に姿を消して行った。「ウチの場合はシネコンの計画があるのは聞いていたので、だったら出来る前に作っちゃおうっていうのもあったんです」。『フォーラム仙台』の客層は幅広く、特にご年輩のお客様には、道路からフラットに入れる事が重宝がられている。また、駅東口には同系列の映画館『チネ・ラヴィータ』があるため、地下鉄を使って2館のはしごをされるシネアストも多い。


オープンから11年後の3月11日…東北全土に被害をもたらした東日本大震災が発生する。市内にあった全ての映画館が機能しなかった中で『フォーラム仙台』と『チネ・ラヴィータ』は、電気が止まって映写機が少しズレた程度の被害で、僅か一週間で復活した。周辺は市内で最も地盤が強いと言われている地域である事に加えて、元々、10階建てのビルを造る計画で途中まで建設が進んでいたため大きな柱があったことも功を奏した。「日頃から一人暮らしの方が通ってくださる映画館でしたが、震災後は、一人でいると余震が怖いからロビーにいてもいい?っていう方が多く…そういう方々に開放していたんです」当時、様々な物資は不足していたものの、都市機能は少しずつ回復。それでも住民は不安を抱いて毎日を過ごしていた。勿論、被災したのはスタッフも同じで、橋村さん自身も散乱した自宅の片付けを後回しにして映画館の復旧に全力を傾けていた。


「フォーラムの映画館があるところ全部が被災地でした。スタッフの中には家が流され、劇場に寝泊まりしていた子もいたんですよ。あの時はテレビを付けてもみんな震災のことばかりで、映画館が一瞬でも気分転換になれるのでは…と思い、いち早く映画館を再開したんです」ちょうどその時、東宝から前売券を持っているのに観る事が出来ない人たちのために、ここで上映してもらえないか?という相談を受けた。そこでドラえもんや新作を掛けたところ、大勢の子供たちや娯楽を欲していた人たちが押し寄せ、ギュウギュウ詰めの場内で、それでもお客様は久しぶりの映画を楽しんだ。「あの時は配給さんから売上げの一部を寄付に回していただけて本当に嬉しかったです」

映画ファンによる、映画ファンのための映画館として、ジャンルに固執せず、アート系から娯楽映画まで幅広く上映してきたからこそ、こうした観客と劇場という枠を超えた関係が生まれたのだろう。スタッフ全員が映画好きだからお客様との会話も熱を帯びてくる…そんなところも『フォーラム仙台』の魅力なのだ。橋村さんも映画が好きで、バイトから始めた“フォーラム山形”から“フォーラム盛岡”の支配人を経て、『フォーラム仙台』の立ち上げという大役を任されるまでになった。「私は子供の頃から仙台市内の映画館に通っていました。成人式の日には式典に行かないで、映画館で“戦争と平和”を観ていたくらいですから。ところが…仙台では上映されていない作品がいっぱいあった事を山形に行くまでは知らなかったんです」だからこそ良い映画を仙台で観たいという想いは観客と同じ。常に良い物や面白そうな事を取り入れているから、日々進化し続けているこの映画館には完成形はないのである。(取材:2017年9月)


【座席】 『スクリーン1』40席/『スクリーン2』54席/『スクリーン3』96席 【音響】 SRD・DTS・デジタル5.1ch 

【住所】宮城県仙台市青葉区木町通2-1-33 【電話】022-728-7866

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