昭和生まれの人間にとって有楽町は特別な存在で、とてもじゃないが、二十代そこそこの若者では、ちょっとやそっとじゃ太刀打ち出来ない大人の街であった。そんなJR有楽町駅のホームから見える読売会館のビル。昭和32年に竣工されたビルに入居していた有楽町そごう(現在のビッグカメラ有楽町店)はフランク永井のヒット曲“有楽町で逢いましょう”で歌われるほど、有楽町を代表するランドマークとなった。その8階に角川書店の直営館『角川シネマ有楽町』が、映像事業のフラッグシップ館として2011年2月19日に“戦火の中へ”でオープンした。元々ここは、日本テレビ放送が使用していたスタジオがあった場所。その後しばらくは、日本映像カルチャーセンターとして映像記録資料を定期的に上映するパブリックな施設として使われていた。


映画館となったのは2004年…映画会社シネカノンが経営するミニシアター“シネカノン有楽町1丁目(2010年1月閉館)”が始まりだった。その一年後にデジタル設備等を導入し、自社が製作する作品と配給する新作に加え、時には大映時代の旧作の特集上映を行っている。上映作品については、有楽町という土地柄、大人の女性層を意識した作品が中心。ジョージ・クルーニーが孤高のライフル製造者を演じた“ラスト・ターゲット”には犯罪映画にも関わらず、多くの女性に支持されてオープン初年度から快調な滑り出しを見せた。同社が経営する“角川シネマ新宿”が低年齢層に向けた角川アニメやJホラーに人気が集中しているのに対して、『角川シネマ有楽町』は渋めの作品で構成。「以前、私は新宿にいたのですが、その時に公開されていた“貞子3D”には連日、若者が詰めかけて朝から満席状態でした。ところが、同じく上映していた有楽町ではガラガラ…諦めて帰ろうとするお客様に、有楽町に行けば席が空いているからと、誘導したこともありました」と支配人の内山雅一氏は当時を振り返る。「新宿と有楽町で、こんなに客層が違うのか…と自分自身驚きました。でも、2館の客層がバラバラのおかげで、作品をバッティングせずに上手く棲み分けが出来ていると思います」ここ最近では、夏に公開されたKADOKAWA配給の音楽ドキュメンタリー“AMY エイミー”がアカデミー賞効果も手伝って大ヒットを記録。続けて公開された“ザ・ビートルズ 〜EIGHT DAYS A WEEK”も大方の予想通り大ヒットを記録するなど音楽ドキュメンタリーが好調だ。特に後者に至っては、映画ファンというよりもビートルズのファンがメインで、年齢層も若者から中高年と幅広かった。


「ビートルズは熱狂的なファンの方が多かったので、残念ながら私たちの知識が足りなかったので話題について行けず申し訳なく思っています。でも音楽のドキュメントは、有楽町のお客様に上手くハマっていると手応えを感じましたね。今後も音楽というジャンルは増やしていけたら…と思っています」こうした新しいジャンルで広がりを見せつつ、“ハンズ・オブ・ラヴ”のような大人の観賞に堪えうる人間ドラマに主軸を置いた作品も手堅い集客力を見せる。このようなKADOKAWA配給作品以外の選定は“吉祥寺バウスシアター”で支配人をされていた西村協氏が監修。“イヴ・サンローラン”が歴代トップの興行収入を上げており、ここからも女性に人気がある劇場であると分かる。最近では“FOUJITA”が、ロングラン興行に加えてアンコール上映も行った事が記憶に新しいが、エリック・ロメール監督特集といった旧作上映も高い人気を誇っている。「3週間で8作品を上映しましたが各回満席に近い状態で、2回綴りの券を4枚買われて全作品を観られたという若い女性の方もいらしたんですよ」


場所柄、平日の日中はシニア層、週末の夜やサービスデーには仕事帰りのOLやサラリーマンの姿が目立つ。地下2階は東京メトロと直結しているため、そのままアクセス出来る利便性に優れているのも強みだ。外から来るのであれば、国際フォーラム側のエントランスにある上映作品の巨大な看板が目印。縦長の場内は後方がスタジアム形式となっており、観やすさに定評がある。旧作も上映するので、映写機はフィルムとデジタルの両方を完備している。チケットを先に購入しておけば、様々な専門店がある有楽町界隈…時間をつぶすのに不自由しない。「当館はロビーが狭く長い時間、滞在してもらうには不向きなので、有効に時間を過していただければ…と思います。ちなみにビッグカメラのポイントカードを提示すれば、一般1800円が1400円になるので是非、使ってください」またテアトルシネマグループの会員カード「TCGカード」が使えるので、映画好きの常連さんは、近隣の“ヒューマントラストシネマ有楽町”と器用に梯子されている。

運営を任されているユナイテッド・シネマは、現在、接客の向上に力を入れている。「笑顔で明るく…という当たり前の事って意外と出来ていないものです。そういったところでお客さんに満足度を感じていただき、来て良かったと思える劇場であり続けたい。帰り際にお客様から掛けられる、良かったよ〜という一言が、何よりも嬉しいです」と語る内山氏。「私の祖父が昔、田舎で映画館を経営していて、小さい頃から映画館でずっと過ごしていたんです。言ってみれば生活の中に映画館がありました。だから、いつかは映画館に関わる仕事をしたいと思っていました」意外な事に、あまり映画は観れないという内山氏。つまり映画というより映画館に興味があった…という事だ。「映画館の忙しい時も暇な時も見てきましたからね。お客様があまり入っていない時でも、上映終了後に満足そうに帰っていく姿を見ることが好きでした」その思いが自然と若いスタッフにも伝わり、接客に表れているのではないだろうか。(取材:2016年11月)


【座席】 237席 【音響】 デジタル5.1・SRD-EX・SRD

【住所】東京都千代田区有楽町1-11-1読売会館8F 【電話】03-6268-0015


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