渋谷駅から明治通沿いに原宿方面へ向かって歩くこと5分足らず。交通量が激しいにも関わらず、センター街の喧騒とは違った宮下公園周辺は、どことなく大人の雰囲気が漂っている。中でも宮下公園交差点にある“cocoti”ビルは、アパレル、セレクトショップからフィットネスクラブ、自然食レストランが入った都会のオアシス的なファッションビルだ。中央のエスカレーターを囲むように配置されたショップは開放感があって、ゆったりとした休日を過ごす事が出来る。そのビルの7階と8階の2フロアに、3つのスクリーンを有するミニシアター『ヒューマントラストシネマ渋谷』がある。オープンはビルの開業と同じ平成16年11月13日。当初はシネカノンが経営していた“アミューズCQN(Cine Quanonの略)”という館名だったが、人材サービス会社ヒューマントラストホールディングスが、ネーミングライツを取得して、平成20年12月20日より現在の館名となり、翌21年12月からは東京テアトルがシネカノンから経営を引き継いでいる。

床やサイン等に木の素材を使ったナチュラルなロビーは、片側壁面が全面ガラス張りとなっており、日中射し込んでくる自然光が心地よい。まずは8階まで一気に上がってチケットを購入。全席指定なので、時間に余裕があればエスカレーターで、ゆっくりと下がってウィンドウショッピングしたり、カフェでゆったりと過ごすのもオススメだ。そこまで時間はなくても7階のコンセッションスタンドで飲み物を購入してカウンターやソファーで待ち時間を過ごすのも良いだろう。小腹が空いた人には、北海道産のじゃがいもを使ったほっこりポテトや、グラノーラにソフトクリームを乗せた食べ切りサイズのパルフェやパンケーキなど、女性が映画を観ながら食べるにはピッタリの軽食が充実している。日中は、女性をターゲットとしたフェミニンな空間なのだが、夜になるとそのイメージは一転。外からビルを見上げるとガラスの壁面から漏れる照明はまるで近未来の建物のように渋谷の街に浮かび上がる。


劇場の雰囲気とは対照的に上映作品はオープン時からゴッタ煮感覚のイメージがあった。ミニシアターかと思えば、“電車男”や“曲がれ!スプーン”といった東宝系の作品がラインナップされていたり、“渋谷東急”が閉館した時は丸の内ルーブル系の作品も上映していた。ここからも分かる通り、『ヒューマントラストシネマ渋谷』(アミューズCQN)がオープンした頃は、映画の街・渋谷という構造に変化が現れていた時代。現在、コチラの名物イベントとなった今年で5回目を迎える“シッチェス映画祭(バルセロナ近郊の海辺のリゾート地で毎年10月に開催されている世界三大ファンタスティック映画祭のひとつ)”にしても、元は“シアターN渋谷”で開催されていた映画祭だ。「配給元の松竹ビデオ事業部から、“シアターN渋谷”が閉館した時に、引き継いでもらえないか…と話があったのです」と語ってくれたのは支配人の岩崎申也氏。ちょうどその頃は、映画館の過密化に伴う作品の質の低下による若者のミニシアター離れで、渋谷のミニシアターが次々と閉館。そこにデジタル化の波が拍車をかけた

結果的に、そのゴッタ煮感覚というのが渋谷ならではの映画館らしさとなったのも事実だ。“渋谷パンテオン”があった時、東京国際ファンタスティック映画祭に多くの若者が熱狂していた。池袋や新宿と違うB級やC級のゲテモノをエンターテインメントに取り入れてしまう風土が渋谷にはあるのだ。あくまでもメインの観客層である年輩の女性をターゲットした人間ドラマを主軸とした番組編成をしながらも“Miss ZOMBIE”とか“コリン LOVE OF THE DEAD”という人間味溢れる(?)ゾンビものに、女性層を取り込む事に成功している。「今は市場自体が新宿に移り始めている。渋谷の映画館が少なくなり、配給側から上映してほしいという作品が急激に増えています。その中からウチのお客様に合った作品を見極める…というのが当面の課題ですね。日中はコアターゲットとなる女性層、あとは定期的に行うイベント上映でリピーターを増やしていく…この二本の柱で進めています」これから渋谷の再開発が順次行われ、人の流れも変わってくるであろうと予測される中、ここ数年が正念場であると岩崎氏は語る。


「“シッチェス映画祭”のアンケートで、このイベントは続けて欲しいという要望が殆どですね。渋谷のミニシアターが減っているけど頑張って下さいという応援メッセージもいただきますよ。こういう人たちはビデオじゃダメなんです。やっぱり映画館で観たいからココに集まって来るんですよね。この手の映画を観る場所が減っているのでキッチリと残していく…それが私たちの使命だと思っています」

そして、特筆すべきは正月から3月まで開催されている“未体験ゾーンの映画たち”という劇場オリジナル企画だ。海外で高評価を得た作品であっても日本では未公開となった世界各国から厳選された作品を一挙に上映するのだ。多くのファンから支持を集めている映画祭も5年目を迎えた。回を重ねるごとに上映本数を増やし、今年は遂に50本の傑作・怪作が集まった。「これはウチの担当者の熱い思い入れの賜物ですね」と岩崎氏は笑う。こうした長丁場の映画祭や多種多様な作品を上映出来るのはミニシアターながら3スクリーンを持っているから可能なのだろう。「やっぱり3スクリーンは強みですよ。今は本数を増やして幅広いお客様にお越しいただけるよう、映画館の環境を構築していかないと生き残りは難しいです。単純に1つのスクリーンで朝・昼・夜で3本の映画を上映するとして、3スクリーンあると、その差が歴然となってくるんです」かつてミニシアターブームで盛り上がっていた時代から、ネットの普及によりSNS等でなかなか交流相手の顔が見えなくなっている現代。「見知らぬ人と席を隣り合わせて同じものを観る…こうした昔と変わらないところが映画館の良さだと思います。そういった意味でも、映画館というのは残っていくべきだと思います」(取材:2015年11月)


【座席】 『theater 1』200席/『theater 2』173席/『theater 3』60席 【音響】 デジタル リニアPCM 5.1ch

【住所】東京都渋谷区渋谷1-23-16ココチビル7・8F 【電話】03-5468-5551


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