夏、大勢の人で賑わう逗子海岸海水浴場。海岸線を走る国道134線から一歩中に入ると、通りの喧噪が嘘のように閑静な住宅街が広がる。その一角に、隠れ家のようなシネマカフェ『CINEMA AMIGO(シネマアミーゴ)』がある。入り口に掲げられている上映スケジュールの看板がなければ見過ごしてしまいそうなくらい、周辺のお屋敷に溶け込んでいるのは、元々民家だった建物をリノベーションしたから。

いい感じに苔が生している石段を上がると、そこはウッドデッキのオープンテラス。OPENのプレートがぶらさがるドアを開けて、さらに細長い通路の先には22席ほどの客席を有したカフェスペースが。お洒落なアンティークの椅子とテーブルが並び、来場者はその日の気分で好きな椅子を選ぶ。ワンドリンク付き1500円…というシステムからお分かりの通り、あくまでもココは映画館ではなくカフェなのだ。「この立地では映画館の認可が降りないため、スポーツバーのようなスタイルで映画を上映しているので、入場料ではなく、テーブルチャージとしていただいています」と語ってくれたのは館長の長島源氏。逗子にこだわって、仲間と共にトータルカルチャースペース『CINEMA AMIGO』を平成21年8月9日にオープンした。


最初から映画館を作る事が目的ではなかった長島氏は、ずっと、この地域にカルチャースペースを作りたい…と、思っていた。「映画好きだから始めた…と周囲から思われてますが、実は違うんですよ」ミュージシャンとして活動しながら以前、葉山で海の家や秋谷で音楽中心のお店の運営に関わっていた長島氏は、もっと広い世代と繋がれるものは何か?と考えていた。そんな矢先に、この物件が空いているという情報を耳にする。「この地域には映画館が無かったので、映像や音楽などを盛り込んだトータルカルチャースペースが作れるのでは…と考えたんです」長島氏は早速、前の店を立ち上げた仲間に声をかけて映画館設立に向けて動き出し、計画から僅か4ヵ月でオープンした。

1階のカフェスペースには長島氏の活動に賛同するクリエイターの作品や、書籍・雑貨・CDを販売するショップを併設。2階はクリエイターたちのシェアオフィスとなっている。オープンして間もなく、映画館経営の厳しさを目の当たりにした長島氏。「映画館ってこんなに人が入らないものか?」と思ったほど集客は少なく、更に配給システムも大きな壁となった。「ゼロからちょっとずつ覚えるしかなかった」と語る長島さんは、知り合いの伝を辿って少しずつ配給作品の数を増やしていった。当初は、もっと若い観客が集まる空間になるだろう…と思っていたが、いざフタを開けてみると年輩のお客様が多かったのは、やはり逗子という街の特性だろうか。「逗子の高齢化率は国内でも結構高い方なんです。湘南で若者の街と思われがちですが、実際はベッドタウンとして移り住んだ団塊世代が多いんです」若者とお年寄りが融合出来る場を目指していた長島氏にとって、正にココは最適な舞台と言えるかも知れない。今では朝から夕方までは年輩や主婦層に向けた作品、夜は若者向けの作品をブッキングしている。


テラスを挟んで向かいにある『AMIGO MARKET(アミーゴマーケット)』は、今年の8月にオープンしたばかりのオーガニックコンビニだ。厳選された地の食材を使ったフードメニューや、地元の農家無農薬で作った野菜、蜂蜜やハーブティーなどを販売(日によって替わります)しており、食材は全て量り売りをしているので器を持ってくればそれでテイクアウトが出来る。「数は少ないけれど、生活必需品の厳選された良いものがひと通り揃う空間にしていきたい」と長島氏は語る。勿論、ここで購入したデリや日替わりプレートを『CINEMA AMIGO』に持ち込んで食べながら映画を観る事も可能だし、天気の良い日はテラスに運んで木漏れ日を浴びながら食事をするのも良いだろう。最近では、仕事帰り夕食を摂りながら映画を観る…という方も増えているそうだ。

長島氏は何故、逗子という場所にこだわったのだろうか?「今までクリエイティブな仕事は都市に集中していましたが、地方でもそれが可能だと証明してみせたかった。地方のほうが都市よりも豊かなんです。若い人がいないというだけで、日本国中、素晴らしい場所がたくさんある。その中で都市型とは違う流れを逗子で作って行けたら…と思ったんです」そんな長島氏が6年前から行っているのが『逗子海岸映画祭』。「Play with the earth」“地球と遊ぼう”をコンセプトに、国内外の優れた映画を逗子海岸の砂浜に設営したスクリーンで楽しむ。日中は映画の舞台となる場所の文化・音楽・食などを提供して、日が沈んでから波音と星空をバックに上映が始まる…実に開放的な映画祭だ。そして映画祭の仲間と共に立ち上げた『シネマキャラバン』は、逗子から飛び出して、日本全国どこでも趣き、屋外上映やその土地の食材使った料理の提供とライブを行い、地域と人とカルチャーの交流を図っている。


「『CINEMA AMIGO』に来れば、食があって、映画や音楽もあって、情報発信も出来る…そんな地域のトータルスペースを作りたかった。ずっと思い描いていた事が、今ちょっとずつ形になっているところですね」まだまだやりたい事が山ほどあるという長島氏は次のように述べる。「もっと気軽な映画空間が出来ればイイですよね。映画館も自由でイイんじゃないかな…と思います。映画を観ているとき音を立てたら冷ややかな目で見られる風潮が今の日本にありますが、子供の頃の映画館はかしこまった空間ではなく、ワイワイ騒いでいたはず」その思いは、『逗子海岸映画祭』や『CINEMA AMIGO』の観賞スタイルに表れている。笑いたい時に笑い、泣きたい時に泣く。時にはご飯を食べながらリラックスして映画を観賞する時間ごと楽しめる…もしかすると、そこで映像の向こうにある新しい何かが発見出来るかも知れない。(取材:2015年8月)

【座席】 22席

【住所】神奈川県逗子市新宿1-5-14
【電話】046-873-5643


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