「サールナートホールは、言ってみれば現代の寺子屋のような地域の人が気軽に集えるような場所として創設されました」と語ってくれたのは『静岡シネ・ギャラリー』で副支配人を務める海野農氏だ。格子の自動ドアから一歩、建物の中に入ると凛とした空気が漂っており、待ち時間賑わっていたロビーも上映が始まり、ひと気が無くなると一変して静寂に包まれてヒソヒソ声ですらコンクリートの壁面に響き渡るほど。だからと言って堅苦しい雰囲気があるわけではなく、むしろ余計なBGMが流れていないから、お寺の中にいるかのように落ち着けるのである。「ここの設計に関しては当時は随分こだわったと聞いています。施設は映画館として作られているわけではないので、多少の不便さもあるとは思いますが、他所には無い雰囲気を味っていただけるかな…と思います」受付から喫茶室にかけて緩やかな曲線を描いた壁は無限の境地をイメージさせる。喫茶室と隣接する自動販売機の部屋へ抜ける出入り口はアーチになっており、角を丸く面取りするなど細かな仕事に感動を覚える。

JR静岡駅北口からほどなく…交通量が激しい東海道から一歩中に入ると駅前の喧騒が嘘のような閑静な一画に、石造りの外観が特徴的な“サールナートホール”という多目的ホールがある。サールナートとはお釈迦様が初めて仏教の教えを説かれたインドの地名で、外観はその遺跡をイメージしてデザインされている。静岡独自の文化を芽生えさせる場にしたいという理想の下、平成7年に設立。その館名からも分かるように施設のオーナーは向かいにある宝泰寺の住職を務める藤原東演氏であり、ここを生命を感ずる場となるよう、1階にあるメインホール(演奏者から音の反響には定評がある)では、コンサートと映画上映を不定期に開催し、2階の研修室では大学の教授や専門家を招いて様々な角度から日本文化の講座が行われていた。元々、映画上映に関しては計画の段階から視野に入れていたが、上映会も回を重ねて行く内に、もっと色々な映画をやってほしい…というお客様からの要望が高まり、8年後の平成15年に、2つのスクリーンを有する常設のミニシアター『静岡シネ・ギャラリー』をオープンした。








エレベーターで3階に上がると壁面にある大きなふたつの丸窓から自然光が取り込まれている『静岡シネ・ギャラリー』のロビーがある。仏教では悟りの窓といわれている丸窓からは向かいの宝泰寺と駿府城公園の彼方に連なる静岡の山々を見ることが出来る。元は会議室だったという二つの場内は予想外に天井が高く後方の3列は高い段差がつけられる程ゆとりのある空間となっている。取材時、外を眺めながらお弁当を開いて待ち時間を過ごされるご婦人の姿を見かけたが、実に素晴らしい時間の過ごし方だと思った。「映画を観なくても自由に使ってもらいたい」というロビーには自由にご利用出来るお茶のサーバーがあるのが嬉しい。

設立当時は静岡にミニシアターが無く、一般の映画館では掛からない映画という目新しさだけから来場されていたお客様も、今では、リクエストBOXに“こんな映画が観たい“と声が多数寄せられるほどになった。「お好きなスタイルで生活の中に映画館を取り入れてもらいたいと始めて、この十年でようやく街に浸透してきた感じがします」と海野氏は振り返る。


「だからこそお客様からの要望は出来る限り反映するようにしているんですよ」 また寺院が運営しているからといって作品の選定を厳しくするわけではなく、暴力シーンや性的な描写があったとしても上映する価値を重視して偏らない編成を心掛けているという。また、毎年12月より募集を開始する年度会員もそれぞれに入会特典や割引内容が異なる3つのコースから選べ、今では4000人を超えるまでに成長してきた。年間130〜140本の作品を上映しており、毎月送られている会報誌には細かな作品紹介が掲載されている。「僕らが会員制度を設けて一番の収穫だと思うのは、この会報誌を会員の皆さんにお送り出来る事なんですよね」

テレビで宣伝している話題作ばかりではなく、まだまだ知られていない色々な映画があるんだと直接伝えられるツールとして会報誌をどんどん活用したいと語る海野氏。「会報誌をキッカケに観たらすごく良かった…と言われると、こんなに嬉しいことはないですね」

「ココで働くスタッフは映画館で映画を観る事が好きだからこの仕事を選んだので、お客様にも映画館まで足を運んで、観終わって家に着くまでを楽しんでいただきたいですね」スタッフにお礼を言って帰られるお客様に出会うと、自分たちが映画の一番最後の部分を届ける仕事をしているのだなぁ…と、作った人たちに対する責任を感じるという。「エンドロールに出てくる多くのスタッフは、お客様からのありがとうを直接聞けないわけですよね。映画館で働いているおかげで、その言葉をいただける恩恵に預かれる私たちは、お客様が気持ち良く楽しんでもらえる時間を提供する事で作った人たちの恩に報いる事だと思います」 (取材:2014年9月)




【座席】 『スクリーン1』50席/『スクリーン2』55席/『大ホール』200席 【音響】SRD

【住所】静岡県静岡市葵区御幸町11-14サールナートホール3F 【電話】054-250-0283

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