岡山駅から岡山城に向かって真っ直ぐ伸びる市電通り。ブラブラと街並みを眺めながら岡山城下駅まで20分ほどの距離を歩く。さすが晴れの国と言われるだけあって清々しいほどに広がる青空が気持ちよい。その突き当たり…日本三大庭園のひとつ後楽園のすぐ近く、目の前を路面電車が走るミニシアター『シネマ・クレール丸の内』がある。近隣には美術館、音楽ホールなどの施設が建ち並ぶ文化的水準の高い地域だ。コンクリート打ちっぱなしの外壁が周囲の景観に調和している『シネマ・クレール丸の内』は単独の映画館としてゼロから建設された岡山唯一のミニシアターだ。クールな外観と対象的にロビーは明るく、常連さんが作ったというPOPがアチコチに飾られており、ファンに愛されている映画館であることが分かる。ふと目を落とすと入口近くの椅子の上で気持ち良さそうに一匹の猫が熟睡中だ。「ノラ猫だったんですけどウチの劇場に迷い込んで今では二匹とも住人になっています」えっ?二匹?とロビー奥にある二階へと続く階段に目をやると、もう一匹、上から堂々とした風貌で階下を見下ろしていた。猫に会いにくる常連客もいたりして「皆さん、招き猫だね…って言われてますけど、だったらもう少し頑張って欲しいかな」とスタッフの女性は笑う。





やがてマスコミに取り上げられる事も多くなるにつれ、劇場の認知度も上がり、来場者も確実に増えていった。「しばらく会社勤めをしながら、休憩時間や仕事が終わってから劇場に寄るという日々を送っていましたが、両方やっていると中途半端に終わってしまうと、思い切って映画館一本に専念する事を選びました」セミナールームを活用して映画講座やワークショップなどを開催する事で映画の多様性を伝えていた矢先、岡山県にもシネコンが進出してきた。「元々は2スクリーン作りたかったのですが、建築の制約上1館しか作れず、理想の映画館に近づけるには限界があったのです。シネコンがキッカケとなって2号館設立に向けて動き始めました」既存のビルの改築ではなく映画館設立を前提に設計された国内でも珍しい『シネマ・クレール丸の内』は浜田氏の理想に近づけられた劇場として平成13年にオープン。スクリーンを中心に半円形に配置されたスタジアム形式の座席はどの位置からでも観やすく、遮音性に優れた壁面と最高の音響設備によって浜田氏が追求していた映画の中に入り込める空間が実現し、厳しいシネフィルからも高い評価を得ている。設立当初は1館体制だった『シネマ・クレール丸の内』も5年後には2館体制となり更に幅広いジャンルの作品を提供出来るようになった。

平成13年にオープンしたコチラの劇場について語るには、まずシネマ・クレール1号館であった『シネマ・クレール石関』の話から始めなくてはならない。支配人の浜田高夫氏は、昭和56年に自主上映団体“映像文化交流会”を立ち上げ、全国チェーンでは掛からない小品ながらも良質な作品を上映していた。「大学を卒業して岡山戻ったところ都市圏では観る事が出来た多種多様な作品をやっている映画館がどこにも無かったのです」まだミニシアターという言葉すら聞き慣れない時代…その現実に愕然としながら浜田氏は、「だったら自分が観たい映画を自分で上映しよう」と16ミリ映写機を持ち運んでホールなどで月1回の上映会を行っていた。それからしばらくしてミニシアターブームが女性を中心に起こり、新勢力の配給会社も次々と設立され、浜田氏の上映回数もいつしか月5〜6回に増えていた。毎回重い映写機(既に35ミリ映写機とドルビー装置も揃えていた)を運び、時間の制約があるホールではなく自分の映画館を持ちたい…と思い始めていた丁度その頃、美術館の向かいに貸し出し中の建物があると聞きつけ、早速、契約を結んだ浜田氏はわずか8ヶ月足らずでセミナールーム兼試写室を備えた映画館をオープンする。平成6年12月…それが岡山初のミニシアター『シネマ・クレール石関』の誕生であった。






そして、入れ替わるように平成20年に『シネマ・クレール石関』を閉館。ラストショーの“ニューシネマパラダイス”には別れを惜しむ多くのファンが訪れた。「石関を閉館したのは新しいシネコンが出来たのも一因ですが、ここ数年で映画を取り巻く環境が大きく変わったのも事実です」ミニシアターブームの時に足繁く通っていた若者たちも20年が経過し、学生だった人も会社の中で責任ある地位になっていてもおかしくない。「女性だって家庭を持っていても不思議な年齢ではないですよね?当時、30代前半だった方たちが映画を観たくても観れない環境になってしまった」本来あるべき世代が変わっても今の若者が映画を観に来てくれる継続性が失われてしまった事が残念だと浜田氏は語る。「映画は何のためにあるか…勿論、娯楽性を重視して楽しむ事も良いのですが、映画には観る事によって世界が広がり、自分の人生が豊かになる力を持っています。だから若者にこそもっと映画を観てもらいたい。感受性の強い学生時代にどれだけ映画を観るか…で、人生が大きく変わるはずです」一方で動員数減少の原因は映画館側にもあると浜田氏はいう。




「ミニシアターも昔みたいに、“ウチではこういう映画をヒットさせてやるんだ!”って、色々な宣伝を地域なりに考えながら映画館同志で切磋琢磨しながら向上していったのですが、今はそれがなくなってしまった…それではお客様だって次はこの映画を観たいって感心を持たなくなるのも無理はないですよね」浜田氏はたくさん映画を観てもらうよりも大事な一本を選んでもらいたいと主張する。そういった作品と出会うために一日のプログラムを通してモーニング、メイン、レイトでバラエティーに富んだ番組編成を心掛けているという。「お客様が観たいと思う映画を上映出来る環境にする…というのが一番大事なのです。少なくとも自分の好みだけをアピールする映画館にはしたくないですね」かつて幅広いジャンルの映画を岡山で観られるようにしたい…という思いから誕生した『シネマ・クレール』。「厳しい時代だからこそ、初心を忘るべからずで乗り切りたい」と語る浜田氏の言葉が印象に残った。(取材:2014年8月)


【座席】 『スクリーン1』110席/『スクリーン2』60席 【音響】 SRD-EX・SRD

【住所】岡山県岡山市北区丸の内1-5-1 【電話】086-231-0019

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