通りを歩くと近代洋風建築物が建ち並び、異国情緒溢れる、最も神戸のイメージを持つエリアー旧居留地。平成になるまでは、老朽化した古いビルのオフィス街というイメージが強かったこの場所だが、手付かずだった建物に高級ブティックが次々と出店される事で、近代建築の街並みがオシャレな街へと変貌を遂げる。そして、平成4年には国土交通省の都市景観100選に選定され、平成19年には日本都市計画学会の最高賞である石川賞を受賞した。





「非日常的な空間で映画が始まるまで気分が盛り上がってくれると良いと思っています」と語ってくれたのは支配人の川原智裕氏。場所柄、お客様の層は年輩の女性がメインとなっており、劇場のデザインも女性を意識したゆとりのある空間演出が施されている。柔らかな照明のロビーは至ってシンプルで、対面式のチケットカウンターと、その奥にはコンセッションスタンドと映画の関連グッズが揃っているショップが。余計な飾り付けは極力排除されており、これから映画を観る観客の邪魔をしないように気を配っているかのように思える。何より嬉しいのはロビーの各コーナーに設置された休憩スペース。座り心地の良い半円形のソファーでパンフレットを開きながら待ち時間を過ごしていると、あっという間に開場の時間になっている。勿論、早めにチケットを購入して街をブラブラ散策するもお好み次第だ。

そんな旧居留地に建つ戦前にあった旧神戸証券取引所の外観を復元した超高層オフィスビル"神戸朝日ビル"の地下にミニシアター『シネリーブル神戸』がある。博多、池袋、梅田に次々と展開してきた日活直営(現在は東京テアトルと業務提携を交わし運営を委託している)の4番目のミニシアターとして平成13年にオープンした。ビルに入って劇場のある地下に降りて行く…出来ればエスカレーターではなく、あえて階段を使う事をオススメする。まっすぐに延びる階段に敷かれたレッドカーペットの先にあるのはホテルのような気品に満ちたホワイエ。休日でも待ち合いスペースがいくつかのエリアに区切られているせいか窮屈な感じは全くない。友人たちと待ち合わせしていたご婦人がしばらく歓談してエントランスへ向かう。ホワイエからエントランスまでの距離がまたイイ感じだ。






スクリーンによってシートの色が赤・青・黄と分けられた3つの場内は、小さいながらも全てスタジアム形式で観やす設計が施されている。今はお客様の層に合わせて良質な人間ドラマ(ちなみに昨年のヒットは"カルテット"だった)が主流になっているが。たまに若いお客様にターゲットを絞ったアニメーションも上映している。「やはり、ミニシアターとしては3スクリーンある強みで、今までのシネ・リーブルらしい作品はそのまま続けて、1スクリーンではちょっと毛色の違った作品に挑戦するなど…両輪で回して行く事も考えています」と語る川原氏は「映画館に足を運んでもらうためには地域に合った柔軟性のある作品選びが重要」と続ける。「"シネリーブル池袋"も池袋という土地柄で、オープン時の作品編成から途中でアニメ寄りにシフトしてきました。当初のコンセプトを変えるというジレンマを抱えつつも、時代によって変わっていく地域に合った作品を、その時その時で変えて行くのが大事ですね」学生時代から福岡の映画館でアルバイトをされていた川原氏は、当時、その映画館で行っていた地方の公民館を廻る移動映写で映画を提供する喜びを味わったという。「最低限度の機材を車に積んで、あぁ…こうすれば映画を上映出来るんだと分かったんです。上映している目の前にスクリーンを食い入るように見つめる人たちがいて、まさに興行の原点がそこにあったのかも知れませんね」と、当時を振り返る。



卒業後もそこの映画館に残り、数年後に博多にオープンした日活初のミニシアター"シネリーブル博多"の門を叩く。学生時代からずっと映画館一筋で、過ごしてきた川原氏は、今の若い人たちにもっと映画館で映画を観る素晴らしさを味わってもらいたいと述べる。「映画館で映画を観るという事は映像だけを見るという事ではないんですね。暗くなった異空間で映画の登場人物に共感して、自分がつまずいた時、ブルース・リーだったらどうするか?とか、チャールズ・ブロンソンだったら絶対こういう事はしないだろうと、常に考えていました。映画館にはそんな力があるのですね」(取材:2013年8月)

【座席】
『シネマ1』139席/『シネマ2』77席/『シネマ3』100席
【音響】 SRD-EX・SRD
【住所】
 兵庫県神戸市中央区浪花町59番地神戸朝日ビルディングB1 
【電話】078-334-2126


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