九州の玄関口として多くの観光客が訪れる福岡県福岡市。市の中心部で最も栄える天神から博多湾を目指して渡辺通りを歩くこと15分。風に混じって仄かに潮の香りが漂ってくると左手に九州朝日放送(KBC)の建物が見えてくる。1953年、久留米に設立されたコチラの放送局が現在の中央区長浜に移転したのは1987年の事。かつては放送局内に日本でも珍しいKBCメディアが運営する“KBCシネマ北天神”というミニシアターがあった。放送局が運営する映画館ということで市内にミニシアターが少なかった時代、福岡のシネアストから注目を集めた。





なかなか九州では観る事が出来なかった良質の作品がラインアップされて、数多くの映画ファンから親しまれていたが、ミニシアターブーム全盛の1998年5月に突然の閉館。ところが、昔から劇場を愛していたお客様がそれを黙って見ていなかった。何と、お客様が有志を募って劇場再建の署名活動を行ったのである。その活動に多くのファンが賛同して、その年の12月に単独館のミニシアター『KBCシネマ』として再スタートを切ることとなった。閉館した劇場が署名運動によって復活という珍しいケースに劇場副支配人の中富慈子さんは語る。「この場所は中心地の天神地区より少し外れた場所にあって交通の便もあまり良くないのですが、それでも多くの常連の皆さんが足を運んでくださるんですよ」





「私は劇場という空間が好きで、画面のサイズだけではない…知らない人たちと空間を共にして同じ映画を観るという偶然性というのが映画館の醍醐味なんじゃないでしょうか」と語る中富さん。だからこそ、良い映画とジックリ向き合ってもらいたいというのだが、ここ数年来、市内にあったミニシアターが立て続けに閉館したため『KBCシネマ』に作品が集中しているという現象が起きている。現在、コチラでは朝・昼・晩と1日に複数作品を上映しているらしいが、それでも追いつかないほど。やはり放送局が母体の映画館だからだろうか、過去の作品群をみていると社会派やドキュメンタリー映画といったラインアップが目立つが、最近では今まであまり上映していなかったホラーやB級アクション映画の上映もするようになった。遠くからバスに乗っていらっしゃったお客様の中には2〜3本を梯子される方も多い。色々な映画を観れるようになって喜ばれているお客様がいる反面、1作品の上映を増やしてほしい…という要望があるのも事実だ。

ウチは“KBCシネマ北天神”から続くお客様に支えられている劇場なんです」その言葉を裏付けるように、バリアフリーの緩やかなスロープを上がり、一歩エントランスをくぐると平日の朝から多くのお客様がチケット窓口に列を作られている光景にビックリする。お客様は年輩の方がメインで常連さんが多いというのもコチラの特長だ。「私たち従業員よりも映画に詳しい皆さんばかりで、リマスター版の上映をする時もオリジナルをご覧になられたお客様から逆に私たちが教えていただく事もあるんですよ」港が近いからだろうか、天神地区と比べて交通量は少なく、ここに映画館があるとは思えないほど落ち着いた一角に建つ、壁面が黒と黄色で彩られた『KBCシネマ』は遠くからでもすぐ分かる。それほど広くはないが不思議とくつろいでしまう落ち着いた雰囲気のロビー。左に客席数108席の『シネマ1』と右に客席数80席の『シネマ2』がある。単独館だけに、どちらも奥行きがあり、天井の高い開放的な空間がひろがっている。








「私たちは作品選びに重きを置いているので、『KBCシネマ』がやっているから間違いない…と、わざわざ遠方から多くのお客様に足を運んでいただけていると思うのです。ですから、少しでも多くの作品を上映したいのですが」と複雑な表情を浮かべる。最後に、劇場一番の良いところは何か?と尋ねてみると「ウチの劇場で一番誇れるのはお客様ですね」と誇らし気に中富さんは答える。「正直言って、設備も古くなってご不自由をお掛けしているのですが、皆さん本当にマナーの良いお客様ばかりで、逆にスタッフが勉強させてもらっている感じです」映画をこよなく愛するお客様と上質な映画を少しでも多くお贈りしたいと思っている劇場…正に『KBCシネマ』は、相思相愛の関係が成り立っている理想的な映画館だ(取材:2011年9月)

【座席】 『シネマ1』108席/『シネマ2』80席 【音響】 SRD
【住所】福岡県福岡市中央区那之津1-3-21 
【電話】092-751-4268


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