昭和35年、日活の弐番館としてオープンした『長崎セントラル劇場』。創設者の故・浦川正氏は長崎駅前にあった映画館“長崎映劇”で副社長を務め、その後独立してコチラの劇場を立ち上げた。正に日本映画の第二次黄金期に当たる時代で、日活も石原裕次郎フィーバーで弐番館、参番館でさえも連日立ち見が出るほどの盛況ぶりを見せていた。当時は近隣に30館ほどの映画館が軒を連ねていたという長崎市内の映画街だったという万屋町界隈。オールナイトが100円だった当時はバケツの中が100円札で満杯となり、溢れる100円札が飛び出さないように足で踏んでいたそうだ。「そんな話を母親から聞いていましたからオールナイトをやってみたいと思っているのですが…」と、笑うのは代表を務める前田眞理子さん。 木造平屋建ての劇場からスタートした『長崎セントラル劇場』が現在のビルで2館体制となったのは昭和41年。この頃から洋画、邦画問わず上映するようになり一時期は1階の劇場ではピンク映画を上映した事もあった。


「色々やりましたね…」と当時を振り返る。「貸し館もやったりと、映画館にお客さんが来なくなってから劇場を存続させるのに父は苦労していたと思いますよ」と語る前田さんがお父様から映画館を引き継がれたのは今から8年前の事だ。「最初、私の兄たちが映画館の運営を手伝っていたのですが…」お兄様も劇場から手を引き、体調悪くなって来たお父様の仕事を手伝うようになった前田さんは結果的に映画館主という道を選ぶ。「赤字経営でしたから、2年前に父が他界する時に“映画館は赤字やけん。もうやめろ”って言い残してから亡くなったんです」それでも前田さんは映画館を閉める事はせず、まず一番最初に取り組んだのは経費削減。その時は映画館の赤字はビルの上にあるアパート収入にまで食い込んでいた程、経営は切迫していたそうだ。更に配給会社から回ってくるフィルムの数も少なくなった事も手伝って、前田さんが引き継がれた時には既に1階の劇場は閉めていたという。その時、常連のお客様から「絶対に映画館をやめないでね」と何度も懇願された事を昨日の事のように覚えているという。「下の劇場を閉めた時に映画館が無くなる…と噂が立ったみたいですね(笑)。昔から映画を観るならウチで…という根強いファンの方だったので嬉しかったですね」と顔を綻ばせる。

今では上映作品をそれまでのメジャー系から長崎県内では観られない単館系へと移行して平日の朝から多くの年輩のお客様が来場する光景が見られるようになった。更に若い人に良い映画を観て欲しいという思いから最終回を二人以上で来場すれば一人1000円で観られるサービスを実施している。

アーケードの商店街からちょっと横道にそれた場所にあるビル。2階の劇場へと続く入口には上映作品の紹介でビッシリと埋め尽くされた案内板が掲げられており、嫌がおうにも映画への期待感が高まってしまう。両方の壁面にフィルムのデザインをあしらった細長い階段を上がると白とオレンジのツートンで色分けされたPOPな壁面が鮮やかな小じんまりとしたロビーが目に飛び込んでくる。木のフローリングが温かみを感じさせ、小さな窓口でチケットを購入すると場内に入る前に、ちょっとロビーで道草をしたくなる。昨年の春に地域振興の助成を受けてデジタル映写機を導入し、ロビーも改装したという。ロビーの掲示板には手作り感満載の作品紹介が掲示されており、来場されたお客様は上映までの待ち時間に真剣な眼差しで読み込まれている。カマボコ型の背もたれが珍しいワンスロープ式の場内は、座席の感覚がゆとりのある設計となっておりゆったりとくつろげるのが特長的だ。珍しいのは座席に備え付けられているカップホルダーの位置。普通は肘掛けにあるカップホルダーが前の席の背中に設置されているのだ。満席の場内だと隣の人のカップが気になってしまうものだが、こうした設計であれば気を遣う必要もない。(ただし、近々場内もリニューアルする予定で変わっている可能性があるのでご了承下さい)今では平日でも会社帰りのOLがお友達と連れ立って来場する姿が増えてきたというコチラでは、作品の選定は昔から変わらず前田社長が観て決めているが基本的にホラー映画はNG。また日本映画もあまり入らないらしく人気があるのは洋画の中でもフランス映画だそうだ。









今度これをやって欲しいと注文されるお客様も増えてきているとか…ちなみに最近、好評だった作品は“木洩れ日の家で”という事からも話題性よりも内容重視のお客様が多いのがよく分かる。「元学校の先生で定年でリタイヤされた方が多くて、どうも席を指定で決められるのが嫌いらしいです(笑)」街をブラブラと散策して映画館にふらりと立ち寄る…さすがハイカラな街・長崎。そんな粋な住人がこの街には多いらしい。中には、1本だけ観にきたつもりが次の回の作品が面白そうだからとハシゴされる方も少なくないという。(全作品を観るという強者もいらっしゃるとか)そんな人たちにとって、今でも映画館は社交場となっており、チケットを買いながらスタッフや前田社長とおしゃべりに興じたり、驚いたのは、朝イチで来場されるお客様は「おはよう」と声をかけてチケットを求める方が多い事だ。挨拶と映画館…昔の劇場ではよく見られていた光景がマニュアル化すると共に消えてしまった大切なものが『長崎セントラル劇場』には残っている気がした。(取材:2011年9月)


【座席】 128席 【音響】 SRD

【住所】長崎県長崎市万屋町5-9セントラルビル2F 【電話】095-823-0900


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