広島駅から山陽本線で隣の駅―古びた商店街がアナーキーな雰囲気と昭和の薫りをプンプン漂わせる“横川”駅のほど近くに奇妙な映画館が存在する。夜になると電飾の看板が鮮やかに目に飛び込んで来る『横川シネマ』だ。いつも入口の受付に座っているのは番組の企画・編成、映写から清掃に至るまで、全てを一人で切り盛りしている支配人の溝口徹氏。「土日は以前働いていた劇場で受付をやっていた女性が来てくれるのですが、基本的には私一人です。確かに一人は、大変ですけど…割食っているのは、多分お客さんの方じゃないかな」と苦笑する溝口氏。「接客業としてはサイテーの映画館だと思いますよ。お客さんには、そういうところ目をつぶっていただいているので何とかやっていけていると思います」溝口氏が成人映画3本立の再映館だったコチラの劇場を営業委託という形で受け継いだのが1999年11月27日。元々広島駅の3階にあった“広島ステーションシネマ”というムーヴオーバー館の自主上映レイトショーを任されていた溝口氏がビルのリニューアルに伴い劇場が1998年に閉館してしまったために、同じオーナーが経営していた『横川シネマ』に自主上映という形を移行した。

「洋邦問わず、知名度には乏しくとも見どころの多いインディペンデント作品を中心に、レアな映画の愉しみを発掘する雑食性ミニシアター」を基本コンセプトに、映画だけではなく様々なトークショーやライブを開催している。「元々“広島ステーションシネマ”は営業が9時前に終わるので、その後のレイトショーの枠を自主上映という形で自分の企画で自由な形で上映を3年くらいやっていたんです。…で、ココの劇場でも自主上映を任せてもらえるという話しになったところで、オーナーに昼間の営業もやらせていただけないか?と頼み込んだところ、“じゃあ、やってみろ”と快諾していただいたわけです」そんな溝口氏にオーナーが出した条件は“番組の企画・編成から営業まで自分の責任でやる”…という事だ。「本当に最低限の事しかやっていないんですよ。何かクオリティーを上げるために精進しているわけでもないですし。映画館としては三流館ですよね(笑)」と頭を掻く溝口氏は自身の劇場を“分別と実力の無いグーダラ映画館”と称している。

「あまり真剣に考えていないんですよね。映画館というのはこういうものだって思っていたものですから…」最初から片意地を張らずに極々自然体で流れるように映画館を運営して10年…積み重ねて来た結果が少しずつ形として表れ始めているという。溝口氏としては「あまりお客さんに印象に残らない劇場になれたら良いのかな…」と独自の劇場論を抱いている。つまり映画を観て一番印象に残してもらいたいのは上映している映画であり、映画館は主張する必要はないのでは…という“映画館なんだから映画が主役であるべき”という持論だ。確かに何の飾り気も無い入口から一歩足を踏み入れると、質素なロビーが広がる。ショーケースに並べられた関連書籍も無造作に置かれ、棚には次回上映作品のチラシがドサッという感じで並べられている。扉を開けて場内に入ると、かなり傾斜の高いスタジアム形式の色褪せた座席と所々に置かれた座布団の数々。その統一性の無さが妙に暖かく落ち着くのは何故だろうか?最後尾の壁には使われなくなった年代物の映写機やポスターが山積みになっており、映画ファンならば手に取って見たくなるような代物ばかり…。この場内を見ると溝口氏の独自の映画館論が良く理解できる。「広島という街は映画を見る環境としては比較的恵まれている街だと思います」と語る溝口氏。次々と閉館を余儀なくされた地方の映画館が相次いだ中、何故か広島だけは劇場を畳まなかったり、溝口氏の様な次の世代が映画館を引き継いだりして、映画館が映画館として残っている珍しい街だ。「どんな映画をやっているのかわからないウチのような如何わしい建物を許容してくれたのが、広島の良さだと思いますし、街のムードがそんな如何わしさを見逃してくれたのでは…と思います」という溝口氏に次の施策について聞いてみると…「特にこの先何かビジョンがあるかというと特にあるわけではないのですが…」と言いながら思い出したように続ける。「強いて言えば、今、映画館よりもライブの方が認知されているので、映画館として認知度を上げていきたいですね(笑)」









最初は友人から好きなアーチストがいるので劇場を使いたい…というところから始まったライブイベント。今ではライブも名物になっているが、やはり溝口氏としては、本業の映画で認めてもらいたい…という思いが強い。「今までは他所の劇場から、こぼれてきたものをひとつでも多く掛けていましたが、それが良いのか分からなくなってきたんで…最近は声を掛けていただく作品を大事に上映していこう…ということに興味が変わりました」という。確かに広島には“サロンシネマ”という単館の王道が存在しており「逆にそこでやられていない作品を上手くカウンターで選ぶ事が出来たので、何とかやってこれたと思います。10年も映画館を続けているとライブのスタッフさんから“以前、ココでこの映画をみました”って言われる事があって…それってウレシイですよね。“あぁ続けるってこういう事か!”という快感を覚えてしまったので…飽きられるまで、このままココにある美しさもイイかなと思うようになってきました」と続ける溝口氏の表情は映画館主以外の何者でもなかった。(取材:2008年10月)

【座席】 128席 【音響】 SRD

【住所】広島県広島市西区横川町3-1-12 【電話】082-231-1001

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