昔ながらの商店街と数多くの雑貨屋が建ち並び、古くから演劇と音楽の街として親しまれてきた下北沢。「本多劇場」や「ザ・スズナリ」といった小劇場やライブハウスが点在するこの街に『シネマ下北沢』がオープンしたのは1998年。映画製作現場でスタイリストとして携わってきた宮本まさ江支配人が現場の経験を活かし、自分たちが作った映画をかける小屋を作ろうと仲間のスタッフたちと作り上げたのが設立のきっかけだという。演劇に夢を抱いた者たちが通っては演劇論に華を咲かせたスナックが並ぶ「鈴なり横丁」の一角にある─かつては非常設の映画館だったコノ場所を美術スタッフたちが協力して外観から内装までを手がけ、わずか二ヶ月という短い期間で映画館に変身させた。「映画の企画から配給・興行までを一貫して行いたかった」というコンセプトの元に生まれた劇場だけに上映作品も個性的でありながら、映画を愛する人々に優しい…そんな作品が多い。オープン当初は1回に3人しかお客が入らなかった時代もあった『シネマ下北沢』に転機をもたらしたのが『千年旅人』のヒット…そして念願叶って昨年公開された『ざわざわ下北沢』は、まさに劇場が企画から関わって完成した記念すべき作品で『シネマ下北沢』の象徴と言っても良いだろうヒット作となった。また、記憶に新しいのは今年行われた特集『アンダーグラウンド・アーカイヴス1958-1976』という日本映画の中でもメジャーとして世に出ることのなかった作品たち─俗に言うところのアングラ映画─を一挙79本を上映したこと…。いま一度、埋もれた作品たちに陽の目を当てるといった企画にも映画に対する愛情を感じることが出来る。

現在の映画の作り手たちにも門戸は開かれており、毎月末土曜日には“NEW INDIES CINE PARTY”と銘打った自主製作映画上映(選考試写は無い)をメインとしたオールナイトを開催したり、映画上映に関わらず劇場をレンタルスペースとして提供していたりと広く開放されているのが特徴的だ。1階のチケット売り場で券を購入して階段を上がって行くと味のある木製の扉が現われる。初めて訪れた人ならば思わずコンコンとノックをしてしまいそうなレトロな入口から中に入ると、そこにも映画館とは思えない空間が広がっている。やはり映画製作の美術スタッフが手がけた木製のロビー。冬になると暖房のせいか懐かしい木の香りが立ちこめる…。

そして壁際に置いてあるアンティークな本棚の中には、これまで支配人がスタイリストとして参加された映画のシナリオが並んでいる。この貴重なシナリオは自由に閲覧できるのだからファンにとってはウレシイ限りだ。他にも飾ってある小物や何気なく置いてある様な人形まで、注意深く散策していると時が経つのも忘れてしまいそうになる。昼間は新作を中心としたプログラムを組み、レイトショウやオールナイトではトークショウや時にはライブを兼ねた映画の上映会も行われる。特にトークショウでは連日たくさんの監督や作家が名前を連ね、映画という世界にさらに奥行きを与えてくれる。


場内は、客席にゆとりをもたせオールナイトで長時間座っていても苦にならない。ブラウンの椅子と薄暗い場内の雰囲気が落ち着いたムードを演出している。全席カップホルダーが付いており、カフェで注文したドリンクを場内で飲むことが可能。劇場の大きさとくつろげるスペース作りは、まるで家の中でリラックスしている感覚だ。その上、スクリーンや音響などの設備は実際に日本映画界で活躍されているスタッフが直接チェックを行っているという徹底ぶり。上映システムとしても8mm・16mm・35mmからビデオプロジェクターでの上映が可能だから自主映画の発表の場としても利用出来る。

丁度、映写室の裏手に当たる場所─ロビーの突き当たりに通路に面したカウンター式のCafeがある。ソフトドリンクは勿論、ウイスキーやビールも販売しており映画鑑賞以外でもちょっと寄り道してカウンターに腰を降ろして友人と映画の話しで盛り上がりたいものだ。事実、お茶をするだけに訪れる常連客も入ると言うのだから是非一度、利用してはいかがだろうか?そして、コチラの劇場の名物…カウンターの横にある梯子風の小さな階段を上がって行くと大人が一人通れる位の小さな扉がある。木のプレートに書かれた文字を良く見てみると“カフェテラス”と書かれてある。そう、そこには屋根裏を改装して作られたオープンテラスが存在しているのだ。日中には涼しい風を感じながら、そして夜には星空を眺めながら…映画が始まるまでのひと時を満喫するには贅沢な空間だ。女性が比較的多いコチラの劇場で好評なのがトイレ(左斜め下写真)。可愛いらしい作りなのとココにもアンティークなグッズが飾られているのだから、ついつい長居してしまうのも頷ける。


  劇場のサービスとして毎月24日をシネキタデーと称し、100円引きで鑑賞が可能。また、一般会員・特別会員・VIP会員システム“SHIMOKITAZAWA CLUB”を設けており、各々に割引や特典が付いてくる。機会があれば是非、入会しておきたいサービスだ。観客に対してだけではなく作り手に対しても気持ちのこもったサービスを提供している『シネマ下北沢』は、やはり映画に対する愛情が溢れた映画館なのだ。(取材:2001年8月)
 

【座席】 50席+補助席20席 【音響】DS

【住所】東京都世田谷区北沢1-45-15スズナリ横丁2階 ※2008年6月6日をもちまして閉館いたしました。


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