「ウチの劇場は渋谷道玄坂のウラ通りにありますが、それをネガティヴに考えないでオモテ通りとは違った顔が出来たら良いなと思っています」支配人の山下章氏が語る様にミニシアターが建ち並ぶ場所から少し外れた渋谷マークシティの裏側に『渋谷シネマソサエティ』はある。モーニングショーでは日本映画の名作を、レイトショーでは各国の注目作品を、そして通常の興行ではミニシアターとしてジャンルを問わず良質の作品を送り続けている。また、雑誌『ソト・コト』と提携して“テアトル・ソト・コト・ウイーク”と銘打って劇場と雑誌でアンケートを取り上位の作品から2作品『仁侠vsチャンバラ映画特集』上映を行ったり、意欲的に作品の選び方に工夫をしている。


過去のヒット作は『奇人たちの晩餐会』だったが先月まで上映していた『ブルース・リーinG.D.D/死亡的遊戯』がその記録をひっくり返してしまった。「やはりブルース・リーの人気は凄いですね。7回以上観られた方は何人もいらっしゃいますよ」そういったカルト的な人気作品からインディペンデント系の作品まで幅広く扱う『渋谷シネマソサエティ』。これからもお客とスタッフの二人三脚で、ノン・ジャンルの『観たい映画』をどんどん提供していって欲しい。「渋谷に来れば何かしら観たい作品がやっていると、期待してやって来るお客様のためにも、その声に応えていかなければと思っています」

館名ともなっているソサエティ=社交場を目指し映画ファンと劇場スタッフがコミュニケーションを取れる場所にしたいというコンセプトで1999年にオープン。「最初は名画座なのかミニシアターなのか戸惑われた方も多かったですけど、ようやく最近になってウチのスタンスも定着してきましたね」たしかにモーニングショーの名画の時間では、その作品をリアルタイムで観た年輩の方と初めて劇場で観るような若いカップルが同じ映画を観ている光景が良く見られる。「特集上映作品も私が独断で決めるのではなく、出来るだけ若いスタッフやアルバイトの人たちにも観てもらって、彼等が良いと思った作品を取り入れるようにしています」どんな特集を組むのかをあえて固執せず、バラエティーに富んだ良質な作品を上映していくのが『渋谷シネマソサエティ』のカラーとなっているのだ。

「昔の映画を上映しているとビデオでは解らなかった発見がいくつもあります。そりゃそうですよね、昔の映画はテレビを意識して作ったりしていない。だから後ろの細かいディティールまで映画館の大画面で観ると良く解るんです」映写技師も兼任している支配人らしい発見…たしかにテレビ画面で潰れてしまっている小物や俳優の表情をスクリーンはキレイに再現してくれる。「目の肥えたお客様が増えているので手を抜けない」と言いつつも、その表情は明るい。


コチラでは日本の名画を上映しているからだろうか外国のお客も少なくない。中には小津安二郎の映画を観終ってから「あの役を演じていた俳優は何という名前で他にどんな作品に出ているのか?」と劇場のスタッフに質問する熱心な海外のファンもいるという。「こういった感じでどんどん我々スタッフに話しかけて来て欲しいわけですよ」と、支配人は続ける。「お客様が何を求め興味を持っているのか、もしお客様の要望することと我々劇場の求めている空気が合えば何でも取り入れていきたいと思っているんです」その時こそ真の意味で映画館という場所が社交場になる時なのだろう。

劇場のサービスとしてレディースデー(毎週水曜日)は勿論の事、珍しいのは月曜日をカップルデーとして二人で2800円で観る事が出来る。また、場内にはレディース・シートとして16席設けており、こちらはプラス100円で一番観易い席で女性一人でも安心して鑑賞出来るようになっている。夜遅いレイトショーやオールナイト上映を女性一人で観る事が出来る劇場の心配りだ。他にも作品によってリピーター割引や、一番多く足を運んでくれたリピーターにオリジナルグッズのプレゼントを用意したりとサービスには事欠かない。場内は縦に長くスクリーンが高い位置にあるためかどの場所からでも観易く、決して前の人の頭が気になることはない。チケットを購入して場内へ入ると、ちょうど反対側にもうひとつの出入口がある。そこはチラシや自動販売機が設置されている小さなロビーとなっており天井までのびたガラスが印象的なスペース。「映画館で映画を観るのは集中する事を余儀なくされる心地良い拷問」と、支配人の言葉通りの心地よいスペースが間違いなくココにある気がした。(取材:2001年2月)

【座席】 104席 【音響】SRD・DS・SR

【住所】東京都渋谷区道玄坂1-18 フジビル37 B1 2011年10月29日を持ちまして閉館いたしました。

  本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street