福井駅から北陸本線の快速で40分ほど…敦賀湾に面し三方を山に囲まれた港町・敦賀市に向かう。敦賀市は、海あり山ありの自然豊かな扇状地で、天然の良港として知られている。元々は漁師町として栄えており、今は休線となっているが、以前は駅から敦賀港まで延びる貨物の専用線があったそうだ。街の南を敦賀富士と呼ばれる野坂岳、北を鉢伏山に挟まれているため、ここは昔、陸の孤島と呼ばれていた。電車が越前市を過ぎたあたりで、滋賀県まで連なる山中に入り、車窓から山岳信仰の霊山である日野山が見えると「トンネルに入るのでしばらく携帯が使えなくなります」という車内アナウンスが流れた。今庄駅と敦賀駅の間には、全長13キロもの北陸トンネルがあって、通過するのに8分くらい掛かるのだ。トンネルが開通する以前は、鉢伏山の木の芽峠を越えなくてはならず、同じ県内でも行き来するのは容易な事では無かったという。

平日の敦賀駅から人通りもまばらな商店街を港に向かって歩く。アーケード沿いに松本零士の漫画に出て来るキャラクターのブロンズ像が設置されている。その数28体…これは開港100周年記念の一環として制作されたそうだ。通りには敦賀湾で獲れた新鮮な魚を食べさせてくれる飲食店が軒を連ねている。5分ほど歩くと、港と市場へと延びる道に分かれる交差点にぶつかった。その角に、近畿・北陸地方を中心にスーパーマーケットを展開している平和堂が運営するアルプラザ敦賀がある。その6階で興行する4スクリーンの『敦賀アレックスシネマ』は、2000年12月8日のオープン以来、地元の人たちに親しまれている映画館だ。元々、アルプラザ敦賀には、計画段階から映画館が入る事を視野に入れて進められていたのだが…この地域では採算が見込めないと、どこの映画興行会社からも出店を断られてしまう。そこで当時、平和堂のSC事業部で、映画館や飲食店のテナントを担当していた松本智氏は、それまで培った映画館運営のノウハウを活かして(有)アレックスを設立。とうとう大手チェーンに属さない完全地元密着型のシネマコンプレックスとしてオープンを果たした。


ただ、4スクリーンしか無いため、どうしても繁忙期になると子供向け作品や話題作が中心となってしまう。その時季になると映画好きの常連さんから、アニメばかりでつまらないから大人向けの映画もやって欲しい…と注文される事もしばしば。「ロードショーから少し遅れてセカンド上映でインディーズ系の作品を掛ける事もあるので、慣れているお客様から、どうせ遅れてやるんでしょう?だったら待つよ…と(笑)言っていただけます」場所柄、買い物帰りに立ち寄られる方も多く、平日の昼間には隣のゲームセンターでコインゲームに興じて、その流れで映画を観て行かれるご年輩のお客様も少なくない。コチラでは家族連れが多いため洋画は吹き替え版がメインだが、最近は工場で働く外国のお客様も増えてきており、字幕版(音声が英語)の需要も多いという。一昨年は夏興行が落ち着いたところでロードショー公開をした“君の名は。”に、予想以上のお客様が来場。休みのスタッフを急遽招集したという嬉しいハプニングも起きた。

「オープンしてもう18年が経ちました。小学校の低学年だった子供も今はもう立派な大人です。ここにはオープン当初から働いているスタッフが多いので、子供の頃から来ているお客様に、あんな小さかったのに、こんなに大きくなっちゃって…なんて、まるで近所の知り合いみたいな感覚で話しをしているんですよ」と語ってくれたのは支配人の板橋大樹氏だ。ロビーはまるで地域の広場みたいな感覚で利用されている方が多く、ぶらりと訪れては、観たい映画が無くてもスタッフとおしゃべりしたり、中には、お菓子やパンをスタッフに差し入れする常連さんもいらっしゃるとか。また毎週のように映画を観られる熱烈な常連さんは、ジャンルを問わず子供向けのアニメから大人向けのドラマまで全てを観賞されるという。小さい頃に親に連れられて来ていた子供たちが、今は友だちと一緒に来場する。そして、年輩の人たちが、同じ場内で若者と一緒に同じ映画を観る…なんて素晴らしい光景が毎日のように繰り広げられているのだ。


1階のインフォメーションに掲示されているポップのクオリティーが半端ない。これは映画のチラシをスタッフが立体的にアレンジしたもので、こうした手作りポップはアレックスシネマの名物となっている。「一度上映が始まってしまうと結構、空き時間が出来ちゃうんです。その時間を利用してスタッフが作ってくれてます。特に自分が好きな作品は熱が入っちゃうみたいですよ」他にもロビーの一角には写真撮影コーナーが設けられ、作品にちなんだ被り物で記念撮影が出来るのも楽しい。例えば“名探偵コナン 紺青の拳”では怪盗キッドがシルクハットを被っている事からシルクハットを自前で制作したり、“ダンボ”では象の被り物、“ドラえもん のび太の月面探査記”ではうさ耳の被り物を用意。「こうしたお客様参加型のイベントが予想以上に大人気で、子供たちが行列を作ってくれました」

敦賀のお客様は自分の好きな映画には積極的にノってくれる方が多く、コナンの自由帳を用意すると、あっという間にコメントや似顔絵でノートが満杯になるという。「いつも自由帳は用意するのですが、去年は2冊目までいきました。私たちに向けて、上映してくれてありがとう…と、感謝のメッセージもあったんですよ」こうしたアイデアは、上映作品が決まるとスタッフがどんどんホワイトボードに記入するところから生まれるという。「特に会議を開いて案を出してもらう…ということはありません。スタッフがそれぞれ自発的に書いてくれるんです。勿論、ネタが無い時はなかなか埋まりませんが…」最近も“シティハンター”で来場者プレゼントをした時、チケットに押される渡し済みのハンコとして「もっこりスタンプ」を作ってしまった(素晴らしいセンス!)。


近年は青春映画のロケ地として注目を集める福井県。まず頭に浮かぶのが“ちはやふる”と“チアダン”なのだが…実は、隣にある同系列の『鯖江アレックスシネマ』ほどヒットはしていないのだ。「福井県は、鉢伏山を境に北の嶺北地方と南の嶺南地方に分かれていて、文化が全く異なっているんです。面白いことにヒットする映画も違うんですよ」ここ敦賀・小浜市は嶺南地方にあたり、関西寄りの訛りと風土が染み付いている。一方、福井弁で話す鯖江・越前市の嶺北地方の人にとっては、同じ方言で演じる広瀬すずに共感が出来たというわけだ。嶺南の人たちにとっては、この2作をご当地映画と言い切れない部分もあるそうだ。逆に隣接する滋賀県を舞台とした映画の方が人気がある…というのも理解出来る。

いよいよ20周年を目前に板橋氏は、お客様が作品と共に良い記憶に残る映画館でありたいと思いを述べる。「せっかく良い映画に出逢っても、映画館の対応ひとつで大切な思い出を台無しにしてしまう…それって作品に対しても申し訳ないですよね」だからこそ、スタッフはお客様に楽しんでもらおうと、趣向を凝らしたイベントを送り続ける。応援上映ではスタッフが司会を買って出て観客を盛り上げたり、時にはチアダンに扮してパフォーマンスを披露したり…その思いに呼応するかのようにお客様もノリノリで楽しんでくれる。「勿論、映画を楽しんでもらうのが一番ですが、そこにプラスαの思い出を持ち帰ってもらいたいのです。おもてなしの心を大切にする…という会社の基本方針を理解しているスタッフは皆、経験値として何をすれば喜んでいただけるかを知っています。何よりもスタッフがお客様と一緒に楽しんでいるのがウチの良さですかね」(2019年4月取材)


【座席】 『シネマ1』172席/『シネマ 2』272席/『シネマ3』99席/『シネマ4』155席
【音響】 『シネマ1・4』SRD-EX・DTS・SRD/『シネマ2』SRD-EX・SDDS・DTS・SRD/『シネマ3』SRD-EX・SRD

【住所】福井県敦賀市白銀町11-5アルプラザ6F 【電話】0770-25-3737

  本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street