11月も終わりに近づいた時期…秋田駅に降り立つと、しとしとと小雨が降っていた。典型的な日本海側気候で冬場は曇天が多く、日照時間が少ない街と聞いていたが、前日に今年初めての雪が降っていた割には冷え込みはさほど厳しくなかった。秋田新幹線の乗り入れによって休日ともなると観光客とショッピングを楽しむ市民で駅は活気づいている。以前、人の流れは、徒歩で行ける歴史的建造物が多く、若者向けのファッションビルや百貨店が建ち並ぶ西口に集中していたが、秋田市は東口を活性化させるため平成16年に14階建ての複合施設「秋田拠点センターアルヴェ」を設立した。市民がイベントや学習体験を通じて交流を深める公共施設と、カフェやクリニックなど民間の店舗が入った商業施設に分けられ、中央の開放的な吹き抜けのアトリウム空間は施設のランドマークとして様々な催し物が開催されている。その施設の2階…駅構内からそのままアクセス出来る場所に、5つのスクリーンを有するシネマコンプレックス『ルミエール秋田』がある。松竹の邦画系とワーナー、ソニーピクチャーズなどの洋画を中心としたプログラムで幅広い年代が訪れる人気スポットだ。

駅からほぼフラットに歩くと壁面の至るところに映画のポスターが掲示され、そのまま先へ進むと、いつの間にか2階から施設内へ。吹き抜けのアトリウムから階下で開催されている催し物を眺めながら、床にある映画館までの誘導表示に従って先へ進むと、もうそこは『ルミエール秋田』のエントランスだ。場内へ続くコリドーの壁面は乳白色のコルトンになっており、柔らかな白い光は我々を夢の世界へと誘ってくれるようだ。コチラのこだわりは、何と言っても特別仕様のゆったりふわふわなシート。ゆったりと腰を深く下ろしても座席の背もたれが適度に身体を包み込んでくれる。一番大きな『スクリーン1』が210席、あとの4スクリーンが127席と劇場のサイズとしてはやや小振りながらも、とにかくスクリーンがデカく感じる。縦長ではなく横に広い設計となっているからであろう、壁一面のスクリーンが視界いっぱいに広がるため、迫力ある映像を満喫出来るのだ。

駅前のシネコンという好立地にあるおかげで、お年寄りや中高生にとっては、街なかの映画館としてありがたい存在だ。平成16年の設立当時は“パンテオンシネマズAKiTA”という館名で話題となったが、その後1年ほどで撤退し、しばらくは閉館されたままとなっていた。再び施設の活気を取り戻そうと、平成18年8月から約1ヶ月間の期間限定で、“駅の映画館 AKITAシアター”という名称で一時再開を行ったところ…その試みに秋田市の映画ファンたちは即座に反応を示した。スクリーンも数を限定しての公開だったにも関わらず、採算ラインを上回る結果が出たのだ。そう…市民は駅前に映画館を待ち望んでいたのである。そのため期間をそのまま継続して、長期的に運営してもらえる興行会社を改めて募集した。そして平成19年4月より岩手県盛岡市で5館の映画館を展開する南部興行(株)が、正式に運営を引き継ぐ事となり、現在に至っている。


ロビーは広くチケットを購入したら上映開始まではテーブルでゆっくりと待ち時間を過ごす。コンセッションには映画館には珍しいフードメニューが用意されており、中でもオススメはライスバーガー(焼肉と豚丼の二種類!)と今川焼(緑茶とのセットという渋い組み合わせは年輩の女性にお試しいただきたい)。あまり他所のシネコンではお目にかかれない和の軽食はお腹を満たすには充分なボリュームだ。勿論、映画館の隣にはカフェや飲食店が充実しているので、早めに来て腹ごしらえをするのも良いだろう。

映画評論家の淀川長治氏が名付け親となった盛岡市にあるミニシアター『ルミエール劇場(現在は盛岡ルミエール)』の姉妹館として秋田の地に誕生して間もなく10年が経とうとしている。静まり返ったロビーも、上映が終了すると親に連れられた子供たちがワイワイとはしゃぎながら走り回る。フィルムからデジタルへと時代が変わろうとも、この光景は昔も今も変わらないのだ。(2016年11月取材)


【座席】 『シネマ1』210席/『シネマ2・3・4・5』127席 【音響】 SRD-EX

【住所】秋田県秋田市東通仲町4-1秋田拠点センターアルヴェ2F 【電話】018-884-7450

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