静岡から東海道本線で20分足らず…静岡県の中核市でありベッドタウンとして拡大しつつある藤枝市は、近年、駅前開発が盛んに行われ、複合施設が次々と建設されている最も勢いのある街だ。駅の南口から歩いて2分ほどの場所にある商業施設“BiVi藤枝”の4階に日映(株)が運営するシネマコンプレックス『藤枝シネ・プレーゴ』がある。初めて訪れる人は皆、エントランスで出迎える拳を振り上げたハルクの巨大フィギュアにまず驚かされる。平成21年2月28日のオープン以来、休日ともなるとお年寄りから子供まで幅広い年齢層のお客様で賑わいを見せるのが地元密着型のシネコンだ。「ずっと映画館が無かった町にいきなりシネコンが出来ると、シネコン慣れしているファミリー層とシネコンに抵抗を感じるシニア層に二極化するものですが、逆にウチは年輩のお客様が多いんですよ」と語ってくれたのは興行部長を務める森岡功樹氏。その理由は駅から近いという交通の便の良さもあるが、実はこけら落としに“おくりびと”がラインナップされていたのが大きな要因だ。

「ちょうど本興行が終わってフィルムが空いていたので上映を決めたら前の週にアカデミー賞を受賞したのです。おかげでオープンと同時に長蛇の列が出来て、その混雑がずっと続いてしまい、他の作品を観に来たお客様から、いつになったらチケットを買えるんだってお叱りを受けました。とにかくひとつの作品でこれだけテンテコ舞いしたのは初めてでした」と当時を振り返る。言わずもがな“おくりびと”の観客層はシネコンのシステムに慣れていない年輩の方が中心で、スタッフは完全入替制の説明に始まり、何故チケットの英語で書いてあるのか?とかチケットの文字が小さくて読めないとか…想定外の洗礼を受けたのだ。その現場を仕切っていた支配人の水元信行氏は、大変だったがそのおかげでイイ流れが出来たと語る。お客様からいただいた御指摘を参考に、日本語表記の案内看板を多く設置したり、英語にフリガナをふるなど改善を繰り返した結果、自然とお年寄りに強いシネコンになったのだ。「でも皆さんのご指摘はごもっともなんですよね…そこをひとつひとつ丁寧に説明したので、その後に公開された“剱岳点の記”には、もっと気軽に来ていただけました」






静岡と浜松に挟まれている藤枝は、中規模クラスの作品は掛かりにくかったため、オープンから3年ほど通常のシネコンでは取り上げられないような作品も積極的に選択していた。「たまに東京から帰ってきた人なんか驚かれてますよ」という森岡氏が、現在もこだわって続けているのがジョニー・トー監督作品。オープン時に“エグザイル”と“冷たい雨に撃て、約束の銃弾を”を上映した時は場内に観客は数人しかおらず、配給会社から、こんな数字は見たことが無い…とまで言われた事も。「でも続けて行く内に段々と入場者が増えてきました。お客様の要望する映画だけではなく、こういう映画もあるんだよと紹介するのも映画館の役目だと思うんです。藤枝だからそういう冒険も出来たんですけどね」と言う森岡氏は、未公開の作品を発掘するたび上映の手を緩めることはない。「雑食ですからドキュメンタリーがあったり、エンタメ性の強いアート系だったり、インド映画もあれば香港映画もある…面白ければ何でもやりますよ」最近では“グランドブタペストホテル”の公開時に藤枝在住のパティシエにオリジナルケーキを作ってもらい、ケーキ&トークショー付の上映会を行うなど映画を多角的に楽しめるイベントも行っている。

『藤枝シネ・プレーゴ』がオープンする10年ほど前…富士市にシネコン1号館“富士シネ・プレーゴ”(平成22年4月閉館)を立ち上げた時は試行錯誤の繰り返しだったと森岡氏は振り返る。「県内でシネコンを作るとなると、でかいマーケットで大きなものを作るか、なるべく軽くして小中規模でやる…という選択肢しかないんですね。世帯数と人口が増えている場所として考えると適当とされるのが富士と藤枝だったのです」駅前のショッピングセンターにあったボーリング場を改装して5スクリーン(後に6スクリーン)を設け、実践で運営方法を構築したという。「当時はまだフィルムで映写室も一箇所にまとまっていなかったので映写スタッフはフィルムを持って走り回ってましたよ。途中でフィルム落としちゃったりね(笑)上映回数やタイムテーブルの構成とか全て手探りでやってましたから、藤枝を立ち上げる時は逆に楽でしたね」静岡でやる以上、中途半端なものは作れない…と『藤枝シネ・プレーゴ』にかける期待は大きい。とはいうものの、まだ藤枝という街は変化の過渡期にあるため、熟成するにはもう少し時間が必要だと森岡氏は分析する。






また『藤枝シネ・プレーゴ』では特別支援学校に通う子供たちがお父さんお母さんと一緒に映画館で映画を観る“チャレンジ・プレーゴ”を一昨年から定期的に開催されている。それまで周りの観客への配慮から子供と一緒に観たい映画もDVDが出るまで我慢してきただけに、参加者を募ったところ満席になるほどの反響があった。場内は明るめに、声を出しても構わない…参加者からは“まさか、息子と一緒に映画館で映画を観れるなんて”と口々に喜んでいたという。




「正直、我々は子供たちにどう接すれば良いか分からなかった。どういう症状を持っていて、何をしたらダメなのか…でもお互いに出来る事を発揮すれば不可能な事は無いんですよね」こうした臨機応変に対応出来るのが地元密着型シネコンの良いところだ。「こもって商売してもダメだという事です。色々な人から意見を聞いて…実際、僕が一日中ここに立っていても思いつかない事がたくさんあるのですから」だからこそ地域の人たちとのコミュニケーションが大事だと森岡氏は語る。「実は映画館の在り方は昔から変わっていないんですね。まず映画を作ってくれる人がいて、映画館は作品を観せて、お客様からお代をいただく…その仕組みが変わらない限りどうしても受け身になってしまう。だからこそ全方位に耳を傾ける事が大切なんです」現在、開発途上にある街と共に歩み始めたシネコンは、十年後二十年後にどんな姿で人々の生活に溶け込んでいるのか…今から楽しみだ。(2014年9月取材)


【座席】 『スクリーン1』85席/『スクリーン2』85席/『スクリーン3』106席/『スクリーン4』115席
     『スクリーン5』85席/『スクリーン6』150席/『スクリーン7』266席
【音響】 SRD

【住所】静岡県藤枝市前島1-7-10 BiVi藤枝4F 【電話】054-668-9511

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