山形を起点とする“フォーラムネットワーク”は、日本で初めて市民出資によって映画館を設立、運営する“市民の映画館を建設する会”から誕生した珍しいタイプの興行団体である。それまで山形市内には大手の直営館やメジャー系しか掛らない個人館しか存在せず、アート系や単館系のような作品はなかなか観ることが出来なかった。こうした状況を自分たちの手で何とかしようと立ち上がったのが1974年12月に山形市内で発足された自主上映サークルの“山形えいあいれん”である。

「映画ファンによる映画ファンのための映画館を作る」という共通の思いを抱いた人々がミニシアター運動を展開。その主旨に賛同した市民から1000万円の市民出資金が集まり、1984年1月に法人(株)フォーラム運営委員会が設立された。1984年7月に記念すべき第一号館“フォーラム山形1・2”がオープンされて以降、各地で市民による出資において続々と劇場が設立され、1987年の“フォーラム福島”に続き、1993年8月に単館劇場として大通に『フォーラム盛岡』がオープンする。その後、毎年劇場数を増やし、1994年6月に『フォーラム盛岡2』、翌年5月に『フォーラム盛岡3』が立ち上がり、それまで観ることが出来なかった単館系の良質な作品までカヴァーされる事となった。1980年代、日本に上陸したシネマコンプレックスの影響を大きく受けた東北地方では既存館が次々と閉館に追い込まれていた状況(青森では1館のシネコンによって街から既存館が姿を消してしまった)において盛岡市は比較的、影響の少ない街であった。それは、市が中心市街地活性化の一環として映画館の保護策を取り、シネコンの郊外出店を抑制していたからで、そのおかげで街から若者の姿が消えてしまうという現在の地方都市が抱えている深刻な事態には陥っていない。









それでも圧倒的にミニシアターブームに沸く大都市圏に比べると映画館数は少なく『フォーラム盛岡』のような商業ベースとは異なる映画ファンと同じ目線に立った作品選定をする映画館だからこそファンに迎え入れられたのは至極自然な流れであった。映画をこよなく愛するスタッフで構成され「良質の映画を提供出来る仕事に誇りを持っている」と自負する『フォーラム盛岡』には年々、近郊の街からもバスや電車に乗り継いで訪れるファンが増加。2006年12月には『フォーラム盛岡1~3』を閉館し、新しくオープンした商業施設“MOSSビル”内に7つのスクリーンを有する『フォーラム盛岡』が中心街型のシネマコンプレックスとしてリニューアルオープンする。設立当時から「マチナカの映画館」にこだわり続けた『フォーラム盛岡』にはリニューアルして1ヶ月間で来場者数2万8千人を記録。地方都市で問題となっている中心部に若者の姿が減ったという事は盛岡では見られず、まさに映画館通りとマチナカの活性化に大きく寄与している。その後、2009年1月に多くの映画ファンから惜しまれつつ閉館した“名劇1・2”の経営を引き継ぎ、同年7月31日、新らたに2スクリーンを有するミニシアター『アートフォーラム』が“羅生門”と“ニューシネマパラダイス”の デジタルリマスター版でオープンした。


場内は両館合わせて120席足らずの小さなスペースながらも客席には段差を設け、更に映写機とスピーカーを最新の音響システムを備えており、狭いながらも快適に映画と向き合える空間を実現している。映画ファンと共に作り上げてきた新しいタイプのシネコン『フォーラム盛岡』と『アートフォーラム』では毎月行われている企画会議において、番組の企画や運営について様々な取り組みについて話し合われ観客の目線に立った劇場作りを実践している。観客は単なるお客様ではなく映画館を運営する一スタッフとなるからこそ商業ベースから脱却した誰もが納得できる映画館が完成するのだ。こうした劇場を運営するフォーラムネットワーク・グループには、ある意味、完成形というものは存在しないかも知れない。劇場の在り方というのは時代によって日々変化するもので、それぞれの時代のニーズに合わせて観客の求めるスタイルに合わせて行く姿勢こそが映画館と街の発展に寄与するのであろう。2011年3月11日に発生した東日本大震災で甚大な被害を被った東北地方。その中でいち早くわずか一週間で盛岡映画館通りの映画館が再開したというニュースは、不安に陥っていた盛岡市民に向けて、「復興が始まった」という前向きな希望を提示したに違いない。最初は固かった来場者の表情も日を追うごとに少しずつ笑顔が戻りつつあるという。また、4月22日に『フォーラム盛岡』で開催されたフラワーズカンパニーズによる復興支援のアコースティックライブには大勢のファンが詰め掛けるなど「心から映画を楽しめる心豊かな生活を目指します」と宣言されていた長澤裕二代表の言葉通り、着実に街は復興に向けて歩み始めていると感じた。(取材:2010年9月・2011年4月)


【座席】 『フォーラム盛岡 』『スクリーン1』99席/『スクリーン2』136席/『スクリーン3』124席/『スクリーン4』79席
     『スクリーン5』182席/『スクリーン6』182席/『スクリーン7』152席
     『アートフォーラム』『スクリーン1』75席/『スクリーン2』44席
【音響】 『フォーラム盛岡 1〜7』『アートフォーラム』SRD-EX・DTS・SRD

【住所】『フォーラム盛岡』岩手県盛岡市大通2-8-14MOSSビル5F 
    『アートフォーラム』岩手県盛岡市大通2-4-22サンライズタウンビル5F
【電話】『フォーラム盛岡』019-622-4703 『アートフォーラム』019-681-1327

  本ホームページに掲載されている写真・内容の無断転用はお断りいたします。(C)Minatomachi Cinema Street