新宿駅からJR中央線特別快速に乗って30分弱―東京郊外にある基地の街として知られていた立川市…と、いうイメージは数十年前の話し。昔を知る人々は変貌し続けている街の姿に驚きを隠せないでいる。1992年駅周辺再開発に伴い、駅から徒歩5分の場所にあったロードショウ館“立川松竹劇場”と“立川中央劇場”“立川セントラル劇場”が取り壊され、約2年もの間、街には映画館の不在状態が続いた。そして1994年、3つの映画館は同じ場所に6スクリーンを有するシネマコンプレックス『シネマシティ』として生まれ変わった。「正直言って、2年のブランク後に再オープンしても住民の皆様に受け入れてもらえるのか不安でした…」と当時を振り返る支配人代理の古川ゆかりさんだが…「おかげさまで年々動員数が増えて来て、今では年間100万人ものお客様にお越しいただけるようになりました」という言葉から分かるように、立川市民が映画館の再建を切望していたのが、動員数に表れている。

「映画を愛し、楽しんで観てくれる方々に支えられてきた劇場だからこそ、“街と人”に愛される劇場であり続けたい」と、改めて思いを語ってくれた。「映画館らしくない、遊び心のある空間を目指して、各フロアごと全く異なる顔を持つ劇場作りに徹しました」という劇場のコンセプトは、ズバリ“お出迎え”。経営する(株)シネマシティの代表である川手弘太郎氏の趣旨に賛同し、照明デザイナー海藤春樹氏がディレクターとして参加。海藤氏を中心に、空間デザイナーの鈴木恵千代氏といった日本を代表する最高のクリエーターが集結。さらにアーチスト日比野克彦氏が8階ロビーの壁面にペインティングアートを施すなど贅沢な夢の空間が誕生した。

「今でこそ皆さんに認知されている外観ですが、オープン当初は目の前にいるにも関わらず“劇場に行きたいのだけれど、見つからない”という問い合わせが殺到しました」と言われる通り、今までの映画館の概念を覆すようなファッショナブルな外観に多くの人々が驚かれたという。中には“ロビーだけでも見せてもらえませんか”と見学をお願いする美大生がいたりと、建物のデザインから注目を集めていた。「せっかく映画館に映画を観に来ていただいたのですから、空間ごと楽しんでいただきたいのです。毎回、新しい発見をしていただけたらと、いうのが私たちの思いです」1階のチケットボックスでチケットを購入して、階上の劇場へ上がると、各々個性あふれる空間が目の前に広がる。そこは、まるで映画館という形をしたテーマパークのよう。ショップのカウンターや休憩スペースのシート、壁に掛かっている小さな時計に至るまで、遊び心とこだわりに満ちている。


“シティ1”のある2階フロアは外に面したロビー壁面がガラス張りになっており、日中は十分な自然光を取り入れられる光のフロアとなっている。外から直接アクセス出来る事もあって、コチラはある意味『シネマシティ』全体の縁側的な役割を果たしている。“シティ2”のある4階フロアは中に入ると、落ち着いたトーンの照明とブルーに彩られたメタリックな壁面が飛び込んでくる。深海をイメージしてデザインされたという“シティ2”は、東京初のTHXシアターとして認定された劇場らしくドラマチックな演出が施された空間となっている。

“シティ3・4”のある6階フロアは一転して暖色系の柔らかい光に包まれたポップなロビー。ライトを埋め込んだ光るベンチシートや不思議なオブジェが設置されており、楽しく待ち時間を過ごす事が出来る。また、“シティ4”のシートはよく見ると緩やかなグラデーションでカラーが変化しているなど、徹底したこだわりを見せている。







“シティ5・6”のある8階フロアは前述した日比野克彦氏によるペインティングアートがロビーの壁面いっぱいに描かれている。角度を変えてみると、天井の梁と柱に描かれた鎖がつながって見える…といった発見があるので是非ロビーを一周してもらいたい。“シティ5”の場内は座席が赤と緑で構成され、可愛らしい丸いヘッドレストは、お伽の小人のようだ。一方“シティ6”のシートはシックなブルーと木目の肘掛けが大人のムードを漂わせている。また小劇場としても使用出来る設計なので、芝居やライブも可能だ。

音質の良さにも定評がある『シネマシティ』。音へのこだわりはオープン当初から徹底されており、“観ていても疲れない音”を再現するため、細かな神経を使っているという。「劇場の大きさや形はバラバラですから、同じフィルムでも全て調整は変えています。もう音が大きければ良いという時代ではなく、その先に進みたいと思っております。まずは、制作者が意図した音を忠実に再現する事でしょうか…」


『シネマシティ』の特長は、ハード面だけではない。常にお客様に満足してもらえるユニークなサービスを提供しているのが最大のウリだ。より映画を楽しめるために設けた有料会員制度“シネマシティズン”—実は、“立川セントラル劇場”の時代から運営されていた40年という歴史を持つシネマシティクラブがパワーアップしたのだ—。先ず、100円でポイントカードを作ると入場料金の10%がポイントとして蓄積され、ポイントに応じて無料観賞などのサービスが受けられ、インターネット予約も可能となる。更に、年会費2,000円を払えば、映画料金はいつでも1,300円、特別指定席(音響のプロが場内でも最適な場所と太鼓判を押す座席とフードドリンク券のセットで2,300円)が1,800円で利用出来る。他にもドリンク・フード全品50円引きや特別試写会のご招待、インターネット予約受付など様々なサービスを提供しているのだ。他にも毎回テーマを設定して、3〜5本の候補作品から観たい作品を投票で決めてもらう“シネマカウンシル”は、まさに映画ファンと映画館が共同で行う新しい上映スタイルとして注目を集めている。この投票権を有するのも会員だけの特典。作品は約一週間興行で一般1,000円のところを会員は500円で観賞が可能。スクリーンで観る事が出来なくなった作品をもう一度観たい…というファンにとって好評のサービスだ。

そして、今までこんなサービス見た事がないという会員向けサービス“シネマスイート”は映画ファンのみならず、“こんな事が出来たら良いなぁ”と誰もが一度は思っていたドラマのような企画…つまりスクリーンを貸し切る…という事が会員ならば実現出来るのだ。土曜日以外ならば朝10時か夜9時の回(曜日によって異なる)、予算に応じて『シネマシティ』と同系列館“シネマ・ツー”のお好きな劇場を自分だけの空間にしてしまえるのだ。一番安い“シティ5”でも15,000円+人数分の観賞料金(2人ならば2,000円)で済んでしまうのだ。実際に恋人の誕生日にサプライズプレゼントとしてデートを大成功させたお客様や、中にはファンクラブの団体が好きな俳優の映画をスクリーンで観るという催しに使われるなど用途は様々…。オーダーがあれば現在上映中の作品でなくても、現存するフィルムであれば問い合わせから取り寄せまで代行してくれる。(フィルム取寄せの場合は入場料が割増しとなる場合があるので要確認)映画館を貸し切るなんて、夢のようなシチュエーションで大切な人と大事な時を過ごしてみてはいかがだろうか?







かつて駐留アメリカ軍兵士の娯楽施設として映画館が最盛期で10館以上あり、映画に親しんでいる人々が多い街だからこそ、サービスは改良を加え続けているという。「サービスには完成はないと思っています。もっと何か出来るのではないか?時代と共にサービスも変化して、常にベストを目指しています」その中でもささやかながら温かみのあるサービスがある。それは上映前のアナウンスは放送ではなくスタッフが直接場内に入り、肉声で観賞に対するご案内をされていると、いうことだ。これは、スタッフとお客様が直接に接するコミュニケーションとして好評で、新人のスタッフがトチリながらも精一杯ご案内を終えた時に場内から拍手が沸き起こった事もあるとか…。映画館から気持ち良く帰ってもらいたい…と明るいスタッフの笑顔は、コンセプト通り観客を“お出迎え”する—それが、夢のある空間『シネマシティ』なのだ。(取材:2006年9月)


【座席】『シティ1』226席/『シティ2』279席/『シティ3』98席/『シティ4』170席/『シティ5』77席/『シティ6』175席
【音響】『シティ1・3・4・6』SRD-EX・DTS・SRD/『シティ2』THX・SRD-EX・DTS・SRD/『シティ5』DTS・SRD

【住所】東京都立川市曙町2-8-5 【電話・FAX】042-525-1251(24時間自動応答)

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