広島駅東口から程近く…荒神橋を渡り、路面電車が走る比治山通りとあけぼの通りが交差する的場町の一角に目にも鮮やかなのぼりが何本も立っているビルがある。夜、9時を過ぎた頃、ビルのエントランスに時代劇衣裳を身にまとった伊達な姿の役者たちが現われて、エレベーターから下りて来る多くのご夫人たちをお見送りする。それからしばらくして、それとは明らかに違った男性たちがポツリポツリ…。ここ清水観光ビルは、3階が大衆演劇場“清水劇場”、1階エントランスの奥には成人映画館『的場有楽座』とゲイポルノ専門館『的場シネマ』が向かい合う…まさに昭和の大衆娯楽を今も送り続ける興行ビルなのだ。運営するのは中国・四国地方を中心に映画、大衆演劇、歌舞伎、演歌の興行などをプロモートする清水興業(株)だ。大正9年の創業時は旅回りの一座として各地を点々としながら興業を打っていたが、戦前から映画興行にも手を広げ、最盛期は県内に二番館、三番館の映画館をいくつも経営していた。昭和30年代に入ると、この場所に“有楽座““若草劇場”“第二有楽”“ロマン座”“柳橋東映““第三有楽“を設立。大衆文化の王道を行っていた娯楽映画を次々と送り続けていた。

昭和41年12月に現在のビルに建替えられた当初“清水劇場“も“的場東映”という館名の映画館(昭和58年11月に演劇場となる)で、3スクリーンで大映、東映、日活、東宝作品を上映していた。『的場有楽座』と『的場シネマ』が成人映画館に転向したのは日本映画が低迷し、各社がこぞって成人映画に路線を切り替え始めていた昭和48年頃…荒神町にあった“広島日劇”がひと足先に日活ロマンポルノ封切館として連日満席で話題となった一年後の事である。新東宝と大蔵映画を週替わり三本立て興行を行う『的場有楽座』は、コアなピンク映画ファンから支持される正統派の成人映画館だ。「新作が少ないので苦労はしていますが、その他のアイデアでお客様をどれだけ呼び込めるか…が当面の課題ですね」と語ってくれたのは今年9月、社長に就任したばかりの清水敏宏氏。そのひとつであるホームページは作品の紹介やバックナンバーなど、ピンク映画未見の人も興味が持てる充実した内容となっている。


また、ピンク映画の魅力を多くの人に知ってもらいたいと、定期的に女優と監督による舞台挨拶を行っている。「限られた予算の中なので頻繁に開催出来ないのが残念ですが…こうした舞台挨拶の時は、私たちと製作側との意見交換の場になっているので、もっとやりたいんですけどね」ある監督の新作は必ず観にくるという熱烈なファンがいたり、新人女優が出演している公開初日は普段より多くの観客で賑わいを見せるなど、ピンク映画を純粋に楽しみたい方にとって貴重な場所である。

今では数少なくなってしまったハッテンバの役割を担うゲイポルノ専門館『的場シネマ』は常にネットの掲示板で話題になっており、年に数本しか新作がないにも関わらず、出会いや待ち合わせ場所として利用される常連客が多い。そんなお客様のために、ロビーは長い待ち時間でも快適に過ごせるよう休憩所が充実しており、コミックや囲碁将棋盤、昔懐かしいゲーム機など自由に利用できるのが嬉しい。また場内で知り合った方のためにカーテンで仕切られた談話室が2箇所設置されている。「長時間過ごされるお客様に、また来たい…と思ってもらえる居心地の良い環境作りを常に意識しています」という清水氏は、現在休止しているヤングホモショーの再開を目指したいと語る。以前、製作に全面協力されたENKプロモーション作品“SEE YOU AGAIN 広島物語”でショーの場面がふんだんに出てくる程の人気を誇っていた。ここ数年は灯が消えたままのステージだが、再び華やかなスポットを浴びるのを観客も待ちわびている。

広島駅東口から猿猴川沿いにある猿猴橋町から荒神町、的場町界隈は今でも庶民の文化が息づいている。周辺には気軽に一杯を楽しめる大衆酒場や商店が点在して、昔からこの地で暮らす人々の拠点となっている。ところが、ここ数年でこの街も人の流れが大きく変わってしまった。










再開発事業によって、戦後の闇市時代から庶民の食を支えてきた愛友市場が取り壊され、その近くにあった成人映画館の“広島日劇”も閉館してしまった。それと入れ替わるように完成したMAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島が、新しい広島のシンボルとなったのは今から5年前だ。「広島日劇が閉館した時はお客様もウチに流れてきたのですけど、やはり映画館が違うと居心地が悪いのか、また戻ってしまいましたね」開場は朝10時から夜の9時まで、土曜日はセミオールナイトで深夜2時まで営業を行っている。終日過ごされる方や、劇場を行き来する(勿論、別料金だが)方など観賞スタイルは千差万別。映画も観ずに、顔馴染み同士でロビーで談笑されている光景もよく見られる。「映画館って、他人と同じ映画を観る…そういった人の温もり感がある場所だと思うんです。私の祖父である会長からは常に人との繋がりを大切にと教えられて来ました。私たちが提供している映画にしても演劇にしても大衆芸能ですから、大衆(観客)から得たものは、興行の内容で大衆に御返しする…という理念を大切にして行こうと思います」(取材:2014年8月)


【座席】 『的場有楽座』60席/『的場シネマ』60席 【住所】 広島県広島市南区的場町2-1-15 【電話】 082-263-7095

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