浜松駅から歩いてすぐ…戦後から繁華街として栄えてきた、肴町から田町を抜けて、遠州電鉄の電車通りを少し入った目立たない場所に全国の成人映画ファンから親しまれている映画館『シネマハウス新映』がひっそりと佇んでいる。かつて、福岡、大阪、名古屋と並ぶ成人映画の激戦区だった浜松駅周辺にあった成人映画館は、どこも個性的なサービスやプログラムで競い合っていた。まさに成人映画最盛期とも言える昭和45年に、浜松駅前の旭町にあった“新映劇場”という一般の映画館を買い取って日活ロマンポルノ上映を始めたのが『シネマハウス新映』の前身だ。

現在も続いている連日オールナイト興業と毎朝終映前にはドリップしたてのコーヒーとパンのサービスを導入した結果、これが大好評。「映画館が不況と言われていた頃に、日活ロマンポルノには多くのお客さんが来てくれまして、オールナイトも賑やかでしたよ」と語ってくれたのは代表の北原敬一郎氏。駅から近くという立地条件も手伝ってか、昭和50年代には仕事中のサラリーマンが昼間から息抜きの場として使われたりと重宝されていた。






駅前再開発によって現在の板屋町に新築の成人映画館としてリニューアルオープンしたのが平成11年4月のこと。最盛期だった昭和50年代に比べ、当時は全国の成人映画館が次々と閉館していた時代だ。勿論、昔ながらのファンにとって、この決断は喜ばしいニュースだった。「私としては、ここで劇場をやめるのは忍びなかった。やり方と工夫次第で成人映画は、まだまだやって行けるジャンルだと思い、建て替えを決めました」新たな気持ちで再スタートを決心した北原氏が考えたのは「今までの成人映画館のイメージを一新する劇場作り」だった。それまでの成人映画館の雰囲気は、どこか暗く閉鎖的だったのに対し、北原氏は明るく快適な映画館を作り上げたのだ。場内シートは全席革張りでリクライニング…更に最前列は座り心地が抜群の独立したプレミアムシートとなっている。

ロビーも明るく中央には大きめのソファーが備え付けられ、顔見知りの常連さんたちは映画そっちのけで談笑されている姿をよく見かける。一人でゆっくりしたいという方にも一人掛けのソファーがある…という気配りが嬉しい。また、受付前の細長い階段を上がっていくと、そこにも休憩室が。大きなモニターでは浜松オートの中継が流されており、朝から晩までコチラで過ごされる方が多いというのも納得が出来る。お客様にとって大事な一日をココで、充実した時間を過ごしてもらえる場にしたい…という北原氏の思いが随所に感じられる映画館だ。今では全国の成人映画ファンだけではなく同業者からも高い評価を得ている。「スタートした以上は皆さんにどうすれば喜んでいただけるか…だけを考えました。利益だけを追求するのではなく色々やってみた結果、お客様の反響に繋がった…それだけですよ」オールナイト明けにコーヒーとパンで家路に付こうとした矢先の突然の雨…そんな時でも傘を貸し出してくれるサービスがある。コチラでは比較的長居されるお客様が多く、入場時と天気が変わる事なんてザラにあるという。







一度入場すれば当日(勿論、オールナイト明けまで)は外出も自由だから、中にはご飯を食べに一度外出して戻ってくるお客様も多い。劇場をハッテンバとして利用されるゲイの方も多く、お相手が見つかるまで腰を据えられる方にはありがたいシステムだ。お客様は昔からのお馴染みさんがメインだが、名古屋、大阪、長野からも来場される成人映画を純粋に楽しみたい…というコアなファンも多い。そんなファンに人気があるのが定期的に行われる女優や監督による舞台挨拶。「舞台挨拶は、お客様へのサービスだと思っています」北原氏は、こうしたイベントをキッカケに新しいお客様が成人映画に興味を持ってくれれば、それで良いのだと言う。

「女優さんたちは、皆さん演技に対してプライドをお持ちで、舞台挨拶でお客様と直に接する事で、次はもっとイイ演技をしようと思う…と言ってくれているのが嬉しいですね」という浜田氏の言葉に、これが興行の原点という気がした。作り手は良い作品を提供して、映画館はお客様からいただいたものを再びお客様に還元していく…こういう事なのだ。以前は、お客様からも企画を出してもらう事でお互いに参加意識が芽生え、劇場に愛着を感じてもらえたそうだ。それ以来、『シネマハウス新映』はお客様との距離が近いアットホームな映画館として親しまれてきた。


「ウチのお客様は皆さん会話が好きで、コーヒーを飲みながら私たち従業員と世間話をしています」こうした雰囲気が安心感を与えるのか、アベックで来場されるお客様や女性客が多いのも特長だ。「ウチには色んなお客様がいらっしゃいます。お年をめしてもこうした気持ちを持ち続けている方は元気ですよね」

上映作品としては、大蔵映画、新東宝、新日本映像を一週間(水曜日)切替の三本立て興行。浜田氏の記憶に焼き付いているヒット作品は、全ての回が満席となった愛染恭子の“白日夢”だったという。つい最近までフィルム上映だったが、現在はプロジェクター上映に切り替えたばかり。これからは作品の幅も広がるんじゃないかと浜田氏は期待している。「成人映画は私の人生そのもの。これがなかったら私も存続していなかった。これからもお客様や皆さんからお知恵を拝借しながらやって行こうと思っています」映画の魅力は自分たちを現実の世界から別世界に連れて行ってくれるところ…中でも成人映画は人間の本質を表しながらも生きる活力を与えてくれる。成人映画に対して偏見がある人も一度観てもらったらこんなに面白いものはないと思ってもらえるはずと力説する。「昭和40年代前半、映画が不況と言われていた時代に成人映画に助けてもらった…だから、この灯を絶やしたくない。成人映画への感謝の気持ちがあるので、ココは守り続けたいですね」と、最後に語ってくれた北原氏の言葉が印象に残った。(取材:2014年9月)





【座席】 120席 【住所】 静岡県浜松市中区板屋町100-5 【電話】 053-454-9783

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