大阪市に隣接する兵庫県の中核市・尼崎市。阪神工業地帯の中核を担う工業都市として栄え、労働者が多い街は昭和30年代から駅を中心に歓楽街が発展してきた。駅から歩いて5分ほどの範囲に、女子供をそうそう簡単に寄せつけない昭和の息吹をそのまま残すディープな一画がアチコチにある。その中のひとつ…何軒もの飲食店や風俗店がひしめき合う昭和南通(地名もそのものズバリ)に建つ雑居ビルに、ひときわ目立つ「連日オールナイト」の看板。昭和の盛り場という呼び名が似合うバーやカジノ、風俗店が入るビルの4階に客席数35席ほどの小じんまりとした(関西で一番小さいという)成人映画館『尼崎パレス』がある。コチラが設立されたのは昭和30年代はじめの頃。日活アクション最盛期からロマンポルノへ路線変更しても尼崎に集う男たちは劇場へ通いつめていた。エレベーターで4階に上がると年季の入った昔ながらのガラスケース。蛍光灯の煤けた明かりに照らされた成人映画のポスターに昼間から怪しげな雰囲気を漂わせる。入口に貼られた手書きの時間割、100円のスナック菓子とショートピース、そして中古のアダルトDVDが無造作に陳列されたショーケースの猥雑さは、まさに男たちの穴ぐらという雰囲気を醸し出す。

「ずっと、映写技師の斡旋や、他所の映画館がオープンする際に映写設備を請け負っていたけど、映画館そのものを持っていなかったからね。初めて映画館をやったのがココだったんです」と語ってくれたのは関西に6つの映画館を経営する代表の米田実氏だ。当時、映写技師を派遣されていた関係で親交の深かった先代の館主さんから映画館を引き継いでもらえないか?と、米田氏に声が掛かったのが昭和も終わりに近づいた63年。「先代から、体が弱くなってきたから劇場を閉めようと思っている…と、相談を持ち掛けられたんです。ちょうどワシらも映写技師を入れていたから、閉められたら商売にならんから困る…と言ったところ、だったらやってくれないか?という事になったんです」

当時、上映されていた日活ロマンポルノも下火になりつつあったとは言え、まだまだ人気は衰えていなかった。「ウチは、“梅田日活”にも映写技師を派遣してましたから、映写室から場内の様子をチェックしていたら、よう入っているのが分かりまんねん。梅田よりは尼崎の入りは少ないとしても、これなら、やっても儲かるなぁって確信したんです」と当時を振り返って笑う。

平成に入って間もなく正式に『尼崎パレス』のオーナーとなった米田氏が最初に行ったのは、大阪では当たり前だったオールナイト興行を導入する事。「当然、ウチがやるからには、映写技師はたくさんいましたからナイター(オールナイト)はやらないと」米田氏の判断は正しく、飲み屋帰りや終電を逃した人々が利用してくれたおかげで、引き継いだ時に掛かった補償金などの出費を3〜4年で回収出来たという。それからしばらくしてアイデアマンの米田氏が目を付けたのは、映画館でのアダルトビデオの中古販売だ。劇場を引き継いだ時と同時期、梅田に個室ビデオ店をオープンした米田氏は回転の早い旧作ビデオを映画館で安く販売する事で在庫を処分できるのでは?と、考えた。





「その時分はビデオが全盛でしたから、梅田に個室ビデオ店をオープンさせた時はよく儲かったんですけど、だんだん競争が激しくなってきて…。今でも見にくる人というのは家で見れないとか、インターネットとかをようやらん人ばかりです。毎月100万以上も新作を入れ替えていかなくてはならないので、古い作品がドンドン増えてくるんですよね。最初は倉庫にしまっていたんですけど、置いてあるだけだとゴミやしね(笑)。ゴミ置く場所にだって金かかるわけだから、だったら映画館に来たお客さんに安くても販売した方が良いと思って始めたんですよ」平成12年には客席数を少し減らしてビデオ観賞が出来る個室を新設。映画料金とは別に30分500円からオールナイトならば2000円で利用出来る。

「個室で視聴してもらって、一日いくらかでも売れたら良いですからね。たまに1万くらい売れる時もあるんですよ。今の成人映画館だったら売り上げなんて1日2〜3万のところなんてザラですよ。そこにビデオ売り上げが1万でも付いたら何とかなりますからね」入口前のスペースに所狭しと陳列されているアダルトDVD。受付のショーケースにもオススメのDVDが並んでいる。そこからお目当てのDVDを選んで個室ビデオと書かれた扉を開けると薄明かりの中に細長い通路といくつもの個室が劇場を囲むようにして並んでいる。レンタルビデオの普及に伴い経営が圧迫していた成人映画館で、逆に中古ビデオを販売するというリサイクルの施策でピンチを乗り越えた。現在はエクサスの準封切館だが、以前は新東宝の新作や懐かしい日活ロマンポルノの名作を上映されるなどユニークな番組編成で話題を呼んでいた。





「映画もね、うんとシンドイ時がありましたよ…とてもやないけど、このままでは映画館なんてやってられないと諦めていた事もありましたからね」と、振り返る米田氏。『尼崎パレス』の客層は、根っからの成人映画ファンが数多く、居心地の良さに定評がある。ロビーに飾られている出演女優のサインが書かれてたポスターからも作り手に愛されている劇場である事がよく理解出来る。映画館入口と手書きのポップは何年も前から変わらず、年季の入った扉を開けて場内に入るとこじんまりとした落ち着ける空間が広がる。どこよりもいち早くフィルム映写からプロジェクター映写に切り換えたというのも技術者からスタートした米田氏らしい決断。当初は画面が暗かったりボケていたりしてお客様からお叱りを受けた事もあったというが、現在では機械の性能が格段に上がり、フィルム映写と遜色が無いくらいまでになった。「私自身は元々技術屋の系統ですから、映画は専門やないんです。だから番組編成に関しては全部映画会社に任せて、私はいかにして少ない売り上げで儲けを出すか…を工夫するのに色々と頭を働かせていますわ」(取材:2013年8月)

【座席】 35席 【住所】 兵庫県尼崎市昭和南通4-52 アライビル4F 【電話】 06-6412-3947

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