『新世界東映』『日劇シネマ』『日劇ローズ』が入る複合ビル『日劇会館』の歴史は古く、初代通天閣と同じ年に創設された“日本倶楽部劇場”を前身とする。昭和30年代には東映の封切館『新世界東映』として、数多くの東映時代劇や任侠映画で新世界の男たちを魅了してきた。地下には『日劇シネマ』の前身となる“日劇地下OPK”という劇場があり、当時はエレベーターガールが地下に案内してくれたそうだ。昭和50年代までは創設当時の外観が残っていたが、建て替えによりマンションを併設した現在のビル『日劇会館』となった。「当時はバブルで、前のオーナーが今のビルに建て替えしたのですが、しばらくしてから映画館に人が来なくなって…。それで倒産してビルが競売に掛かったワケです」当時、映画館に映写技師を派遣していた米田氏も入札したが、落札したのはファイナンス会社。諦めかけていたところ、良かったらこのまま残って映画館を続けてもらえないか?という話をその会社から持ち掛けられた。「映画館だけは素人がやったって出来やしません。映画館を買ったはいいけどどうして良いのか始末に困ったらしく、条件は任せるから引き続き商売をやって欲しい…と話を持ちかけてきて、ウチの出した条件で映画館をやる事になったんですわ」こうして米田氏が映画館を引き継いだのは平成17年。


「この界隈の景気も厳しいですが、ウチは粘り強いから経費節約して何とか残ってます」10年前までは映画館の入口に菅原文太や松方弘樹が描かれた絵看板が掲げられていたが、今は経費節減のため簡単な劇場名だけとなってしまった。「以前は二週間に一度架け替えをしていたんですが、人件費が掛かりますでしょう…だから今では劇場名をハメ込んだままですわ」見上げるとビルの屋上に創設時からあったオブジェ。入口の上映中と書かれたガラスケースに貼ってある古いポスターと人工着色が懐かしいロビーカードに誘われて階段を上がる。途中の踊場に所狭しと貼られているポスターに心を高めながら2階に着くと自動券売機の向こうにロビーが広がる。中央に売店を兼ねた受付があり、壁面には中古のアダルトビデオが陳列された棚がグルリと取り囲む。中央のショーケースに並ぶポテトチップス、豆菓子、どら焼きが懐かしい。成人映画には豆菓子がよく合うのは何故だろう?時代劇を観ながら甘いどら焼きもオツなものだ。

ロビーを挟んで左右に、東映時代劇や任侠映画をメインとした名画座『新世界東映』、新東宝の封切館であり大蔵映画、エクサスの四本立て成人映画館『日劇シネマ』、そして関西唯一のゲイポルノ二本立て専門館『日劇ローズ』がある。ユニークなのは休憩時間に場内で流されているBGMがそれぞれ違うこと。『新世界東映』では昭和の歌謡曲や演歌、『日劇シネマ』ではシャンソン、『日劇ローズ』ではヒップホップ系の洋楽…と、劇場の個性に合わせた選曲(成人映画にシャンソンというのも言い得て妙)をしているのだ。


『新世界東映』の魅力は、何と言ってもゴッタ煮感覚の二本立てラインナップ(中にはDVD化されていない作品も)。まだデジタル化されていない作品が殆どなので今でも上映形態はフィルム上映。フィルムが傷だらけで変色していたとしても滅多に観られない作品を掛けていると「あっ、こんな映画やんとんのか?懐かしいなぁ…これまたやってや」と声を掛けてくるお客様も多い。「ウチの支配人は建て替える以前からいる人だから映画に詳しいので、プログラムは任せています。でも、最近の東映は新世界でウケるヤクザ映画の新作を作っていませんから、同じ古い映画を数年単位で繰り返し掛けるしかないんですわ」現在、米田氏の悩みはもっぱら、若い人の映画離れとフィルムがどんどん少なくなっている事だ。「たまに俳優や監督が亡くなられた時に追悼上映もするんですけど、話題にはなっても続かないですね」それでも喜んで観に来られるお客様は多く、昔からの常連さんの中は何十年も通い詰めている方も多い。『日劇シネマ』は、新東宝の封切館ということで、新東宝2本、大蔵映画1本、エクサス1本という(何と!)四本立て興行を連日オールナイトで行っている。「客を入れなあかんと思うたから四本立て興行は、今でも続けています」










『日劇ローズ』は以前は“日劇会館”という館名で一般映画を上映していたが、しばらくはカラオケパブとなっていた。「最初は3館開けていたんですけど同じような映画をやっていても客が分散するだけでしたので一度閉めたんです」ところが、平成24年、関西でも有名なゲイポルノ専門館であった“梅田ローズ劇場”が閉館されたのを機に、ゲイ・ポルノ映画専門館として再オープン。その時に『日劇ローズ』と改名された。「“梅田ローズ劇場”が閉館して、ゲイのお客さんが行くところが無くなったって聞いていました。ゲイポルノは大阪ではどこもやっていないから、どこかでやってくれや〜っていう要望が入って、ほなウチ丁度空いているからやろうか?って始めたんですよ」二本立ての二週間切り替え興行だが、新作にはあまりこだわっていないらしく、むしろハッテンバとして活用されているので気にせず毎日来る人は多いという。ロビーの一画に黒いカーテンで仕切られている場所があるが、ココは場内で知り合ったお客様同士がイチャイチャできる空間となっている。また、ロビーには普通の映画館ではお目にかからないコインロッカーが設置されている。

新作不足から昔の作品を改題した再映作品でその場を凌ぐ苦労をしつつも、たまに新作が掛かった時の客の入りは通常の3倍くらいに膨れ上がるという。オールナイトをやっていても少ない時は20人、多い時で50人くらいなのが、初日(水曜日)や土曜日になると150〜160人くらい来場されるというのだから、成人映画館としては入場者は多い方だ。「確かに、最初はそこそこ入りますが、だんだん減ってきて楽日の頃には一桁というのもザラですわ。プロジェクター上映だからオールナイトが出来るようなもので、フィルムだったらとてもじゃないけど勘定が合いませんでしたよ」コチラに来るお客様も殆どが昔からの常連さんばかり。「新規に来場するお客さんは常連になる方はいませんね。もうウチはお年寄りの溜まり場みたいになってますから(笑)常連同士も顔見知りで、ロビーで世間話している人も多いですよ」入れ替えがない上に、一度入場券を購入すれば朝から翌朝の5時までいられる…というのが最大の魅力のようだ。勿論、食事するために外出する事も可能なので、お金を使わずに暇をつぶせるというワケだ。






これは映画を観るだけの目的のお客さんよりも出会いを求めてきている方が多いため貴重品の置き引き被害を防止するためだ。またローズの入口には女装さんはお断りの張り紙が貼られている「女性に興味が無いお客様ばかりでですから、こうした張り紙をしたのです」「とてもじゃないけど一から映画館を作ろうと思っても今では出来やしません。ウチは元々設備があったから成り立っているだけです」映写室の途中にある倉庫にはたくさんの取り外されたシートが山積みされており、メンテナンスの部品交換のために再利用されているという。また、全館へ送る空調設備にしても経費を節減するために効率よく空気を循環させる様々な工夫が施されていたり、これはまさしく技術畑を体験してきた米田氏ならではの映画館経営術だ。




「わし、終戦からずっとこの商売一本で生きてきましたやろ?半分好きでやってまんねんけど。そやから他の事が出来ませんのですわ」と笑う米田氏。最初は映画館の音響設備から始まり、そこで知り合った映写技師の斡旋を事業として確立させて、映写技師を救済するために閉館する映画館を引き取って現在に至る。米田社長の映画人生は、常に人に対して何とかしてやろうという精神で構成されている。「人とのつながりで出来た商売ですから、自分から何もしていないんですよ」という米田氏の言葉に今の日本人が忘れかけている商売の基本があるような気がした。(取材:2013年8月)

新世界東映 【座席】 95席

日劇シネマ 【座席】 56席

日劇ローズ 【座席】 26席

【住所】 大阪府大阪市浪速区恵美須東2-2-8
【電話】 03-6641-8568

  

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