栃木県最大の都市で昭和30年代から競馬、競輪と高度経済成長期を支えていた男たちが楽しめるギャンブルと娯楽の街として栄えた宇都宮市。一発当てた男たちが札束を握りしめて夜の歓楽街に繰り出した時代。独立プロが製作したお色気映画と呼ばれていた成人映画がピンク映画という呼称を得た昭和37年、大蔵映画もピンク映画の記念すべき第1作目“肉体の市場”を発表してから9年後の昭和46年12月に大蔵映画直営の二番館『宇都宮オークラ劇場』がオープンした。





正に当時は成人映画の全盛期でありピンク映画の大蔵映画に対抗するかの如く日活がロマンポルノの製作を開始。大蔵映画はこの年だけで70本以上の作品を発表して、国内の成人映画館は大蔵映画と日活で殆ど占められていた。当時、近隣には2館の成人映画館があり、どこの劇場も週末のオールナイトは多くの男たちが詰め掛ける活況を見せていたという。「今でもオールナイトにはロビーで顔見知りのお客様同志でお話に興じられていますよ」と語るのは昨年の春に初めて映画館の支配人として赴任したばかりという大蔵貢一郎氏。今ではオークラの看板を背負った直営の成人映画館はコチラと“上野オークラ劇場”横浜の“光音座”を残すのみとなってしまった。「ですから、わざわざ群馬や茨城からお越しになる方も結構いらっしゃいますね」と言われる通り、根強い固定客に支持されている。



平日の昼間は昔馴染みの常連客が多く、毎週作品が切り替わるのを楽しみに来場されているご年輩の方もいらっしゃるそうだ。ビデオシアターに移行している成人映画館が増えている昨今、さすが大蔵映画の直営館だけあってコチラはフィルム上映にこだわり続けている。映写室にある年期のいった映写機は手入れがゆき届いており、昔からいらっしゃるベテランの映写技師が自らメンテナンスをされているそうだ。「スタッフの女性が場内のシートも毎朝、除菌スプレーを掛けて肘掛けをひとつひとつ丁寧に拭いているんですよ」と言われる通り、成人映画館だから汚いと思われないように清掃には人一倍気を遣っており、誰もが快適に過ごせて“また来たい”と思えるような空間作りを心掛けている。

東武線とJR線の駅を結ぶ大通りから横道にそれた場所にひっそりと佇み、夜になると通りに面した電飾看板の煌々とした灯りが男たちを誘う。自動券売機でチケットを購入して隅々まで清掃が行き届いたロビーへ進む。ビール片手にスナック菓子をつまみながら競輪の新聞を広げてベンチシートに腰掛けているおじさんを横目に場内へ入る。場内は小じんまりとしながらも単独館らしく天井が高くスクリーンが大きいのが特長だ。3年前に閉館した大蔵映画の直営館だった“上野スター座”で使用していた新品同然のシートを移設。それまで古い座席だった場内も居心地の良い空間に生まれ変わり、長居されるお客様も増えたという。どこの成人映画館でもお客様の高齢化が目立っている中、コチラでは休日の昼間や金・土曜日のオールナイトには30代から40代といった成人映画としては比較的若い層のお客様が多い…という珍しい現象が起きている。勿論、女装家やゲイの発展場となる劇場の減少が大きな要因のひとつだが、駅から近いにも関わらずメイン通りから少し奥行った場所にあるおかげで入りやすいという地の利がある事も確かだ。



ちなみにゲイのお客様も全体の4割程いらっしゃるが、ちゃんと礼儀をわきまえており、純粋に映画を楽しまれている方には悪さをする事が無いのでご安心を。また、看板には出していないが女装の方やカップルで来場されたお客様にはサービスも実施されているらしく、コチラで知り合ったお客様同士が意気投合して、ロビーに座り込んでは映画そっちのけで盛り上がっている光景もよく見られる。居場所がなくなった同好の諸氏にとってありがたい場所となっており、それは平日は40〜50人、休日には80〜100人という高い集客数に表れている。中には朝から夕方まで過ごされているお客様も多く、お昼時になると外出券をもらってお昼を食べに外出される光景をよく見かける。

「皆さん自分のプライベート空間みたいに過ごしていただいているようなのですが、私はそれで良いと思っているんです。家にいてもエッチなビデオとか見る事が出来ず、悶々と暇を持て余しているお爺さんたちがブラリ訪れるという場所として重宝してもらえたら…」そうなのだ、昭和40年代頃の二番館三番館には、そうした気軽さがあり、時間が余ったからちょっと映画でも観てみるかと看板の謳い文句に誘われて入ってみるのだが、実際は映画を観ているのか仮眠に来たのか…そういう映画館も文化だった時代があったのだ。月3本の新作を作り続けている大蔵映画だが、『宇都宮オークラ劇場』では自社作品だけではなく新東宝やエクセスを交えた週替り三本立て興行を実施。 その中に必ずムーヴオーバーの新作を1作品入れるようにしている。


「やはり直営館と言えどもウチの作品だけでは作品数が足りないないので、他社さんの作品もお借りして、もう1作品は再映か新版という構成になっています。お客様も分かっているようで新作が無くなる4週目はやっぱり入りが悪いですね」そういったところからも新作を楽しみにされている大蔵映画ファンがいかに多いかが分かる。劇場では大蔵映画の直営館どこでも使えるポイントカードを発行しており、12個スタンプが押されると1回入場料が無料となる。さらに雨の日に来場されるとスタンプが2倍となり、コアな常連さんはあっという間にスタンプを一杯にしてしまうらしい。

「実は、今年の3月に支配人としてココに配属されるまで大蔵映画に勤めていながら成人映画を観たことがなかったんです」と笑う大蔵氏だが、初めて成人映画を観た時の印象はバラエティ豊かなストーリーや俳優さんたちの熱のこもった演技といった完成度の高さに衝撃を受けたという。「正直、今までこの手の作品を軽く見ていたのですが、成人映画はひとつの文化であることを痛切に感じました。今さらかも知れないのですがピンク映画の面白さをもっと多くの人に伝えたいと考えているところです」大蔵氏はブログやツイッターで成人映画の魅力を多くの人々に発信しているが、その効果が少しずつだが形として表れており、近県からの来館者が増えたのもそのひとつだ。今では、常連のお客様から“このあいだ観た映画が面白かったから、また観に来たんだ”と声を掛けられる事もしばしば。こうした熱心なファンの声を大切にして作品選びやサービスを改善していこうと語る大蔵氏。「出来る事は少ないですけど、与えられた環境で出来る限りの事をやっていこう…その積み重ねを大事にしたいと考えています」(取材:2012年10月)






【座席】 70席 【住所】 栃木県宇都宮市塙田3-5-21 【電話】 028-622-8822

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