「もう歳だから本当はもうやめたいんですよ」と笑いながら語ってくれたのは女手一つで愛知県西尾市にある成人映画館『鶴城映劇』を切り盛りしている斉藤さんだ。ご夫婦二人三脚で運営してきた劇場もご主人が亡くなってから斉藤さんが中心となって映画館を守っている。

「一般の映画館から成人映画館に変わった頃は、正直言って嫌で嫌で…知り合いに映画館の事も濁していたんですけど、最近では堂々としたものですよ(笑)」ご主人の祖父がこの地で劇場を始めたのは戦前の頃。現在の場所から少し離れたところにあった芝居小屋が『鶴城映劇』の前身だ。



戦後、町の活性化を推進する自治体から現在の土地を誘致されて映画興行をやってもらえないかと頼まれて設立したのが昭和30年12月のこと。まさに日本映画全盛の頃で日活の直営館として“鶴城日活”という館名でオープンしたのが始まりだ。町の狙い通り、石原裕次郎人気によって連日劇場は立ち見が出るほどの活況を見せて、入場券を買い求める客が落としたお金が劇場の前に散らばり「“鶴城日活”に行けばお金が拾える」という噂が広まった程だ。その後、日本映画の不振が続き日活の経営も次第に陰りを見せ始め、斉藤さんのご主人は日活がロマンポルノ製作に移行すると共に成人映画館となる苦渋の決断を下す事となる。「主人もかなり映画館を閉じるか悩んでいたのですが、成人映画館にするって言った時は、お願いだからやめてって反対しましたよ。」と笑いながら当時を振り返る斉藤さん。「だって女でしょう…他所で仕事の事を聞かれると成人映画館をやってますって、恥ずかしくて言えなかったです。今では堂々と言ってますけどね」現在の建物となったのは昭和61年、それまで車が1台通るのがやっとだった前の道路が拡張されることとなり劇場も建て替えられ『鶴城映劇』という館名で再スタートを切る。「それまで映画館をやめるという話は何度もあったんですけど、主人は映画館一筋でしたから、映画館以外は何も出来なかったんですよね」


そこでアイデアマンだったご主人が考えたのが、ビデオの普及により、いずれ映画館だけではやっていけなくなると予測して映画を観賞されたお客様に個室でアダルトビデオを無料で観られるというサービス。手応えを感じたご主人はその後、映画館のロビーをレンタルビデオ店に改装する。しばらくは一般の作品も置いていたが、その後アダルトビデオ専門に…それが大当たりして、今ではレンタルビデオのスペースを拡張して経営を続けている。「テレビが出てきて日本映画にお客さんが入らなくなって、それでポルノをやるようになって、今度はビデオでしょう…結局、主人の判断が正しかったから何とか今日までやって来れたようなものですよ」現在も入場者は個室のビデオボックスで200本のビデオを自由に鑑賞出来るサービスは存続。中には一日劇場とボックスで過ごされる常連さんもいらっしゃるそうだ。平日は昼の12時から夜の10時まで、土曜日は夜の12時まで創設以来50年以上も年中無休で営業されている。コチラのお客様は年輩の常連客が主流で、たまに若いお客様が見えられる事もあるという。



比較的ゲイや女装趣味のお客様は少なく、やはり常連の方が多いからだろうか、なかなか発展場にはなりにくいのかも知れない。それだけに真剣に映画を楽しみたいというお客様にはありがたい場所だともっぱらの評判だ。日中、こんにちわ〜と言いながらフラリとやって来た常連さんと談笑する光景がよく見られるのもコチラの特長。「昔は朝4時までやっていた時もあって、真夜中に私一人でしょう?ビデオが忙しかった頃は、真夜中に変な人がいたりすると、しばらく付き合っていてくれる常連さんがいてくれて本当にありがたかったですよ」

DV上映が主流となりつつある成人映画業界だが、コチラでは今でもフィルムで上映されている。「ボタンひとつで操作出来ればいちいちフィルムの掛け替えをするのに二階に上がらなくても良いですから、私一人でもやっていけるのですけど現実的にはなかなか難しいですよね。」現在、コチラでは新東宝、新日本映像、OP映画の4本立て(!)興行を行っているが映写は斉藤さんとアルバイト、そしてお孫さんの三人が持ち回りで担当されているという。更に毎月二回、通常1500円のところを980円で入場出来るサービスウィークを設けており、この時は日に30人程の来場者があるという。「この時は駐車場が満車になるほどお客さんがいらっしゃるので、以前は月一回だったのを二回に増やしたんですよ。」と語る斉藤さんの悩みは新作が減っていること。「それでも私のポリシーとして必ず一本は新作を入れるようにしているんです。じゃないとお客様に申し訳ないですからね」戦後から現在に至るまで紆余曲折あった日本映画だが、今でも映画館として続けて来れたのは、斜陽期の頃に成人映画に移行するという決断を下せたからだと斉藤さんは振り返る。郊外の街にポツンと佇む成人映画館は時代の変化と共に形態を変え続けて今もなお昔からの常連客の憩いの場として映画の灯をともしている。(取材:2012年9月)






【座席】 56席 【割引】 サービスウィーク(月二回)980円 【住所】 愛知県西尾市菅原町60 【電話】 0563-57-2084

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