名古屋駅から程近く…新幹線口からブラブラ昔ながらの中島商店街をひたすら歩く。駅の反対側とは全く違う時代がそのまま止まったかのような街並を抜けると住宅地のど真ん中に突然と成人映画館が目に飛び込んでくる。映画館のある通りは歓楽街のような華やかな場所ではなく、斜め向かいには味のあるお寺が建っている横丁だ。上映前の朝10時半…自転車に乗った老夫婦が映画館の入り口を開け、開場の準備を始める。近所のご夫人が犬の散歩の途中で「おはようございます。寒くなりましたねぇ」と挨拶を交わす。戦前からこの地でお芝居から映画へと興行一筋に行ってきた『中村映劇』の朝である。「もう、この街自体が古いですから映画館と街が馴染む…というよりも一体化しているんです」と語るのは現支配人の小坂健一氏。元々戦前は芝居小屋だったコチラの劇場を小坂氏の祖父が購入し、戦後になって映画館として立て直したという。

朝、劇場を開けていたのは小坂氏のご両親というわけで、親子三代で映画館を守り続けている。場内は昔、芝居小屋だったというだけあって広く、2階席が今でも現役で残っているのは成人映画館としては珍しい。「この辺りは空襲を逃れる事が出来たおかげで建物自体は殆ど当時のままです」と語る通り現存する劇場としては名古屋最古の建物と称されている。外観の屋根には昭和初期に流行した彫刻が施されており劇場が歩んできた歴史の重みを感じさせる。創業時は大映、松竹、東映作品を上映していたが時代の流れで映画館離れが進んだ事と中心部の方に人の流れが変わった事から20年前から成人専門館に路線を変更。当初は日活ロマンポルノを上映していたが、現在は新東宝とエクサスフィルムをかけている。


劇場のある中村区は、江戸時代から東海一と言われた旧赤線中村遊郭のあった場所で今でも歓楽街が数多く乱立している。地下鉄“中村区役所前”駅から5分歩き、昔ながらの町工場や倉庫を抜け、さらに奥へ進むと住宅街に隣接してきらびやかなネオン街が広がっている。「今でもこの場所から奥の方はソープ街ですからね…。昔は女郎屋がスラッと軒を連ねていたそうですから。だから、なかなか新しい人は移り住んで来ない…若い人が少ない場所なんですよ。比較的、昔から住んでいる老人が多い街ですから、病院の数がやたら多いんです。ですからある意味、住みやすい場所なんですがね(笑)」と語る小坂氏。街を散策してみると粋な味わいのある下町の雰囲気が漂い、どこからともなくお香の香りがして来るなど情緒に溢れた街である事がすぐに判る。むしろ郊外の住宅地よりも怪しい人間や問題を起こすよそ者は確実に排除されており、街の人間たちが街の風紀を守っている場所なのだ。

土曜日は深夜12時半まで上映しているので、夕方になるとロビーで常連たちが映画も観ずに競馬や仕事の話に興じている。ロビーにテレビが設置されているためか雨の日などは朝から夜まで劇場で過ごす人もいるという。ところが普通ロビーにあるはずの売店が見当たらない。飲み物もお菓子も全て持ち込みなのかと思いきや、鉄製で出来た扉を開けて場内に入ると…売店は何と場内に面して設置されているのだ。入り口のチケット窓口と売店がつながっている事務所では小坂氏が忙しなくチケットと飲み物を売っている。しかも、上映中であるにも関わらず売店の利用者が多いのもコチラの特徴なのだろう。「まぁウチはアルコールは取り扱っていないのですが、たまに酔った勢いで来られるお客様もいますから、喧嘩も昔はたまにあったらしいですが最近は無くなりましたね。ウチのお客様は大人しいと思いますよ」お客様の年齢層も幅広く、30〜70代まで様々な客層が訪れる。現在は3本立ての週代わり興行で料金も1,200円、さらに65歳以上のシニアは700円と安い事から固定のファン層に指示されている。


コチラの映画館をお父様から引き継いで15年という小坂氏。成人映画の活性化と新規ファン獲得のために、単独の成人映画館としては珍しくホームページを開設している。「ウチのホームページは他社のアダルトサイトとバナーを貼り合っているのですが、更新に苦労していますよ」と語る小坂氏だがファンにとっては、かなり充実したホームページとなっており、特に劇場で使用しなくなった古い成人映画のポスターを200円から販売しているコーナーは日本全国から問い合わせや注文が来る程だ。

注文方法としては、まずはメールで在庫の有無を確認して現金書留が到着次第発送してくれるという。勿論、在庫の確認さえすれば劇場に直接取りに来る事も可能だ。「ウチのような劇場は儲かりもしないけど損もしない…ようするに波が無いんです。昔は女優によって大学生が詰めかける事もありましたけど今では作品によってお客の入りが変わるのはSMくらいですかね。また成人映画館は映画を観るだけではなく自分の趣味を披露する場所でもあるようです。」お客様の中には色々な趣味趣向を持たれている方も多く中には女装で来られるマニアの常連さんもいるという。


かつては他にも2館の劇場を運営し、日本映画最盛期の頃は3館共にお客が入りきれず扉が閉まらなかった程…という。設立当時は名古屋で映画館と言えば『中村映劇』のみ…名古屋で映画はコチラでしか観る事が出来なかったため劇場の周りをお客様の列ができたのは無理もない話だ。今ではひっそりと静まり返った通りの中にポツンと佇む名古屋最古の映画館…スクリーンに投影される作品は変わっても、劇場の中には数多くのドラマが建物の歴史と共に存在しているのである。(取材:2005年12月)

【座席】 90席

【住所】 愛知県名古屋市中村区名楽町1-23  
【電話】 052-471-5703


  

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