「昔みたいにお客さんが、ぎょうさん入ってくれませんから経費削減のために映写技師から機械のメンテナンス、挙げ句の果てはトイレ掃除まで全部やっていますわ」と、笑顔で語ってくれた岡本正義氏が支配人を勤める『八千代館』は京都の中でもひと際華やかな場所、河原町にある成人映画専門館(新日本映像と大蔵映画を週替り3本立興行)だ。メイン通りを一歩入った路地にあるせいか、周囲は落ち着いた雰囲気を持っている。

「以前は、成人映画の興行成績でもウチは全国で常に5本の指に入っていたもんです…ところが、年々お客様の年齢層も上がって来て一番映画を観に来て欲しい30代の方が来なくなってしまった。」と苦笑いをするものの成人映画を観るならココ、とこだわっているファンも多い。「ウチに来られる方は常連さんばかりですから…中には女の子同士2〜3人で来たり、更には毎週一人で通っている女の子もいたり…と、自然と顔見知りになりますね。毎回、杖をついて来られる年輩の方なんかは運動を兼ねて3本中1本だけを御覧になって帰られたりしていますよ」そんなお爺ちゃんも“いつも来たいんやけど病院代も上がったし、たまにしか来られんようになった”と愚痴をこぼして行くという。


「そういった方のために料金を安くしてあげたいんですが封切り館なので仲々そうはいかない…ですから、せめて毎月1日のサービスデーを1000円で御覧頂ける他に、その時いらっしゃったお客様にはいつでも1400円で観られる割引券を差し上げているんです。」またコチラでは300円の入会金を払えばいつでも1400円で観る事が出来る会員証を発行しており、大阪や神戸から新作を観に来るファンも多い。場内は、成人映画館としては珍しい2階席があり、中央のスクリーンをグルリと囲むようにコの字型に桟敷席が左右にある。それも、そのはず大正時代頃にオープンしたコチラは元々芝居小屋からのスタート、歌手の“ばんばひろふみ氏”のお爺さんが創設されたという。映画の上映を行うようになったのは昭和2年から。当時は客席数375席を有し、洋画もやっていたという。場内に入り天井を見上げると見事な装飾が成されている。「今では、こんな造形無理ですね。」と言われる通りロココ調の細かな模様は興行の歴史を物語っている貴重な財産だ。また、今でも芝居小屋の名残が随所に残っておりスクリーンの裏側に廻るとステージ下に小さな楽屋があったり、壁には当時白塗りした壁に直接映画を投影していたという木の枠で囲った跡が残っている。

その後、松竹が引き継ぎ昭和30年代に入り、ロマンポルノが全盛期を迎えた頃、成人映画専門館となった。場内は休憩時間も明るくせず、薄明かりの中スクリーンに光の演出を投影しているのが特徴的だ。「それでも老朽化が激しくなって来ていて天井から雨漏りがしたら、私が修繕しなくちゃならないんですわ」と、支配人が行う仕事の量は半端ではない。「お客様も高齢者の方が増えて来ていますでしょう…本当はトイレもユニバーサルデザインにしたいんですけど…お客様が用を足す時パイプを思いっきり掴んでそこから水が噴き出す事もあったりして(笑)」それでもロビーから場内に至るまできれいに保っているのは支配人の“お客様に気持ち良く映画を観てもらいたい”という思いの表れなのだ。以前に比べても制作本数が激減している成人映画。そのような状況で毎日3本の新旧取り混ぜたオールナイト興行を続けている。それを打開するために昨年の秋から初めての試みで洋ピン(洋画の成人映画)の上映も始めている。出だしも好調で今後、定期的なラインアップに組み込んで行くという。








経費節減という問題の中、次々とビデオシアターに変更して行く映画館が増えているが、コチラは徹底してフィルムでの上映にこだわり続けている。「やはり映画館で観る映画はフィルムじゃなきゃあきませんよ。」と主張をしている岡本支配人だけに映写に賭ける情熱は並々ならぬモノを感じる。「映画館が持っている独特の雰囲気…暗い場内で映画を観ていると自分だけの世界に入って行ける。作り手の気持ちを一番に表現できる場所なんです。私たちの仕事は監督が作り上げたものを出来るだけ忠実に再現してあげる事…」と語る言葉の裏には映画に対する愛情が伺える。それだけにフィルムを繋ぎ合わせる際にも1コマ1コマを切り落とさずに気を使っているという。「機械のメンテナンスも勿論、重要でこれを怠ったらプロとして失格ですよね。どんな作品でも映画には携わった人々の思いが込められているわけですから、我々が映像と音響を常にベストの状態で上映していくのが使命だと考えています」という支配人の言葉は一度コチラを訪れた時、すぐに理解できるだろう…日本で最古の劇場は映画を愛する人の手によって支えられていた。(取材:2003年10月)


【座席】 129席 

【住所】 京都府京都市中京区新京極通四条上ル仲之町580番地  ※2007年12月29日をもちまして閉館いたしました。


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