「異業種から初めて映画興行の世界に入って最初は無我夢中で、2〜3年は殆ど休みなしでしたよ。」横浜の古くからの歓楽街─野毛町にある『横浜光音座』の支配人を任された小林順恵氏は成人映画館には珍しく女性の支配人だ。「やはり、女性という事で苦労はありましたね…注意すると“何だ女のくせに”と馬鹿にされたりして、それでも廻りのスタッフが助けてくれたおかげで何とかやって来れたのだと思います」今では、“おはよう、また来たよ。”と声を掛けてくれる常連さんも増え、支配人は良き話し相手にもなっている。昭和30年代に入り大蔵映画が成人映画を自社で製作するようになった頃にオープンした『光音座1』がホモ映画(神奈川で唯一の専門館)を上映、『光音座2』が大蔵映画を中心とした三本立て成人映画封切館だ。


近くにJRAの場外馬券売り場があるため土・日の競馬開催日となると競馬新聞を片手に多くの常連たちが詰めかける。実はコチラでは競馬開催日に限ってはサービスの一貫としてロビー横のスペースに設置されている大型プロジェクターで競馬中継を行っているのだ。「これは先代の支配人が競馬好きで馬券を買いに来たお客さんがゆっくりと話しながら集える空間を提供しようという所から始まったんです」と言う通り口コミで広がったこのサービスで昔馴染みの常連たちが競馬中継の合間に映画を観たり、常連同士で歓談したり和気藹々とした光景が見られる。“ココは映画を観る場所であり、皆が仲良く話しが出来る社交の場にしたい”という先代の支配人の口癖を現在に引き継ぐスタッフの手によって昔と変わらない姿でお客様を出迎えている。

年輩のお客様でスタッフに愚痴をこぼして日頃のストレスを発散させたり、毎日通ってはお友達とロビーで談笑されていく強者もいたりと実に賑やかだ。「映画を観に来たのか、お話しをされに来たのかどちらが目的か判らないですけど(笑)…でも、やはりいつも来てくれる方が2、3ヵ月顔を見せないと心配になりますよね」と笑顔で語ってくれた。コチラの客層としては年齢的に20代から70代までと幅広く、まるでおじいちゃんと孫みたいな歳の離れた人々が話しをされたりしている。設立当初は桜木町駅から日の出町に向かって走る野毛大通り沿いに面していたが平成元年にリニューアルしてから現在の横道に面して入口を設けている。やはり人通りが多くない現在の通りの方が入り易いのだろうか朝の開場時から待っているお客様もよく見受けられる。売店を境に向かって右が『1』左が『2』となっている両館共、ロビーは広く解放的。ついココで立ち話に興じる常連がいるのも納得が出来る程。場内は昨年全席をリニューアルして実に座り心地が良いシートを採用、座席を広めに確保しており、しかもカップホルダーが付いて成人映画館のイメージを一新していると言えよう。

金・土曜日はオールナイトを実施、朝の5時まで1000円という格安料金で入場できるので朝まで宿泊代わりに利用されている方も…。土・日は場外馬券売り場“ウインズ”を利用される方のために整理券を配布してくれるので1時間ほどの外出は自由に出来るのがウレシイ。ちなみに平日は1200円、土・日曜日は早朝サービスを実施しており1000円となっている。一方、本格的な出会いを求めて映画館にやって来るのが『光音座1』の特徴。まだまだ世間に認知されていないゲイの人々がやってきては自分に合ったお相手を探す…「やはりコチラに来ている人達は自分と同じという安心感からでしょうか映画を観ながら声を掛けて気が合った方々はしばらくロビーで歓談されていますよ」という支配人の言葉通り上映が始まって間もなくロビー横にある喫煙室で話しをされるカップルの姿が目立つ。そう、ココにはロビーとは違う別室となっている喫煙室があるのだ。薄暗い照明の喫煙室にはソファーが置かれ、そこからカップルは劇場を出て行く…「実は喫煙室に関しては照明の明るさなどお客様からの要望を取り入れているんです」ゲイの方たちが周りを気にせず話しが出来るこの空間は彼らにとって大切な場所となっているのだ。ココの喫煙室には野毛町にあるゲイ専門のバーやホテルなどの情報が入った地図を貼るなどサービスを行っているのも大きな特長。






「元々、野毛っていう街にはゲイのお店が多かったんですよ。今でも会員制、一般のお店を含めても70〜80軒はありますからね。お客様から“こんな店がないか?”とよく聞かれますからそういった時は何軒か紹介してあげるんです。」勿論、コチラのサービスは営利目的ではない、無償の情報提供なのだ。だからこそ小田原や静岡からはるばる来場される固定ファンが多いのも頷ける。映画を上映するだけに止まらずお客様に喜んでもらおうという劇場の姿勢が固定ファンを生みだしている。それでも「やはり、不景気なんでしょうね。以前に比べるとお客様の数も少なくなってきていますよ。特に仕事途中のサラリーマンという方が滅多に見られなくなりましたね。」と語る支配人だが最後にこう続けてくれた。「ですがウチの劇場を頼りに集まってくれる方が一人でもいらっしゃる以上、今のサービスをやめるつもりはありませんから。」こうしたファンの事を考えて前進してくれる映画館がある限り映画の灯は決して消えることはないのだと実感した。(取材:2003年1月)


【座席】 『光音座1』84席/『光音座2』120席

【住所】 神奈川県横浜市中区宮川町2-59 【電話】 045-231-0837

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