京都府北部に位置する福知山市は、昔から北近畿地方における交通の要所だった。市街からは明智光秀が築いた福知山城を臨み、昭和初期は商業の街として栄えた。かつて街の中心地で、数多くの町屋や料亭が軒を連ねていた広小路通り沿いに、街にただひとつ残る映画館『福知山シネマ』がある。戦後間もない昭和28年にオープンした客席694席を有する“福知山第一映画(後の福知山東宝劇場)”が前身だ。当時、市内には3館から4館の映画館があったが、斜陽期を迎えると次々と閉館。昭和50年代後半には市内に映画館はコチラ1館を残すのみとなってしまった。


そして昭和61年、“福知山東宝劇場”と同じフロアに“福知山スカラ座”が新設され、それぞれ東宝邦画系と洋画系にすみ分けられられた。東宝の子供向けアニメで持ちこたえていたが、シネコンの台頭により運営会社の関西共栄興行は平成18年2月に休館を決定。しばらくは福知山は映画館の無い街になってしまった。大阪で自主映画を制作していた福知山市出身の細川龍作氏に、福知山に戻って映画館の支配人をやらないか…?と、シマフィルム(株)の志摩敏樹社長から誘いが掛かったのは、ちょうどその頃である。「休館した映画館があるから、もう一度、街に映画の灯を起こしたいんだ!という強い思いを聞いて、やってみようと決意しました。」そして休館から1年後の平成19年8月、館名も新たに『福知山シネマ』としてリニューアルオープンする。「最初はドイツにある映画館(Arsenal)の名前を付けよう…みたいな話もあったんですけど(笑)やっぱり自分たちの街の映画館らしい館名にしようという事で、福知山を入れる事にしました」


オープニング作品は、『CINEMA 1』では“ドラえもん のび太の新魔界大冒険 〜7人の魔法使い〜”と“名探偵コナン 紺碧の棺”の子供向けアニメ、『CINEMA 2』では“かぞくのひけつ”や“ヒロシマナガサキ”などの単館系作品だった。「最初の3年くらいは、ポケモンをやりながらドキュメンタリーもやる…つまり商業映画とインディペンデント映画を両軸としてきましたが、今の街の人たちが一番望んでいる映画とはなんだろうと突き詰めると、結局、TVコマーシャルなど地方都市にも宣伝が行き届いているメジャー系映画になってくるんです」再起した映画館にとって大切なものとは、何をおいても街の人たちに認知してもらうことだった。「まずは土台作りとして街の人が一番望む映画を上映する…これはシネコンも同じだと思うんです。商業映画の考え方では、良い映画というのはお客様が入る映画であって、お客様から近くに映画館があって良かった…と思ってもらえるのが大事だと思うんです」

コチラではジブリ作品の動員数が飛び抜けていると細川氏は言う。「田舎まで宣伝が届く作品の強さを実感しますね。この時ばかりは全世代のお客様がいらっしゃいますよ」また、昔から変わらず人気があるのは“ドラえもん”だ。「僕も子供の頃、ココの映画館(旧・東宝スカラ座劇場、平成18年閉館)をドラえもんとゴジラの映画館という風に覚えていました」この流れを止めてしまったら街の映画館の意味が無くなってしまう。映画館を引き継いだ時、志摩社長は、東宝にロードショー作品を引き続き出してもらえるよう頼み込んだ。「この判断は正しかったと思います。映画ファンに喜んでいただけるような単館系・アート系映画も出来ればいいのですが、支配人になって実感するのは、地方のそれぞれの地域の特色を踏まえて、上映作品を選定することの大切さです」確かに街の中にある映画館は、その街から受け入れられなければ、何の意味も持たない。「やっぱり、子供たちが満足そうに場内から出てくるのを見ると嬉しいですからね」


JR山陰本線の福知山駅から歩くこと15分。明智光秀を祀る御霊神社から真っすぐ延びる広小路通りには、ここ数年、民家を利用したお洒落なカフェと、昔ながらの旅館や小料理屋が混在する新しい街が形成されている。その中でもひと際大きな建物として目を引く『福知山シネマ』…前の歩道には郷土芸能“ドッコイセ”を踊る少女の像が立っている。壁という壁に映画ポスターと告知物が所狭しと貼られたエントランスから、階段で2階に上がると正面にチケット窓口がある。広いロビーを挟んで向かい合う赤を基調とした『CINEMA1』と、緑を基調とした『CINEMA2』。ワンスロープの場内は昔ながらの映画館らしく天井が高く、前列の背もたれに付いているドリンクホルダーが懐かしい。ロビーには待ち時間をゆっくりと過ごせるようにテーブルやカウンターが設置されている。これは、地元の人たちに自由に集まって欲しいという思いの現れだ。

『福知山シネマ』の基本コンセプトとしてシマフィルム(株)が最初に掲げた「街と一緒に」というテーマを形にしたのが受付の反対側にある『CINEMA+PLUS』というスペースだ。“福知山東宝・スカラ座劇場”時代は喫茶店だった場所で、定期的に展示会が開かれていたという。経営を引き継いでからも、映画館でイベントが出来る場所を残そう…と、写真展や子供たちの塗り絵展を開催している。また、市内にある淑徳高校の学生たちが毎年、高校生カフェをオープンしたり…街とつながる場所として市民に広く門戸を開いている。「目的は映画館を身近に感じていただくための空間なので、こんな事をやりたいのだけど…と、気軽に相談して欲しい。例えば、ポケモン公開時には子供たちの塗り絵展もやっています。子供たちにとっても自分の作品が展示されたら記念になるので皆さん喜んでくれますよ」



平成26年5月…劇場の隣に、誰もが気軽に立ち寄れて、文化・芸術の交流スクエアとして機能することを目標とした『まちのば』がオープンした。1階はライブや上映を行えるステージと35mm映写機を完備する「コミュニティスペース」、2階は常時3000冊以上の書籍を陳列するブックカフェ「古本と珈琲 モジカ」からなっている複合施設だ。ここにある本は、全て店長の西村優作氏が選んだものばかり。言うならば古本のセレクトショップだ。店内で飲み物を注文すれば、開店から閉店まで珈琲一杯で店内にある全ての本を読む事が出来る。またブックキュレーターという肩書きを持つ西村氏に好きな作家や時代を言えば、関連した本を推薦してくれる。そして天気の良い日はカフェでオーダーした飲み物を持って是非、屋上ガーデンに上がろう。ウッドデッキのテラス席は街が一望出来て、遠くには福知山城を臨む最高の眺望を満喫出来る。


『福知山シネマ』の今の課題は、映画をもっと観てもらいたい20代から40代の世代が少ないという事。メインとなるシニア層とファミリー層以外にも映画に興味を持ってもらうために、この『まちのば』が試金石となるのではないだろうか。前述の通り、交通の要所である福知山は、地方都市に見られる若者がいない街ではない。今でも周辺の学生は福知山に行って遊ぼうという習慣は残っている。そんな若者たちが何かのキッカケで映画館で映画を観る事に興味を持ってもらえたら…『まちのば』で、その相乗効果が生まれる事を細川氏は期待している。「この二つのスペースがつながる事もあると思うので、いつかは今まで控えていた単館系の映画を再挑戦してみたいですね」これまでは、コツコツと街のお客様を増やしていくために、まずは子供に向けて映画館に慣れ親しんでもらうアプローチを続けて来た。それが、少しずつではあるが手応えを感じるようになったという。「例えば、9年前にドラえもんを親と一緒に観に来た子供が、高校生になって友だちと来られたりしているんです」最近では豊岡や京丹後など遠方から、わざわざ来られるという若者もあるとか。

「シネコンの台頭で地方都市に映画文化がなくなっていく状況に抵抗したい…そういう思いで福知山の街の映画館を復活させました。なにぶん田舎ですから何十年かけて少しずつ…街の皆さんにも喜んでもらえて、かつ映画館経営的にも成立させる、というすぐに答えが出ない難しい挑戦だと思いますが、難しい挑戦ほど燃えますからね(笑)。そのことがココを続けていくためのモチベーションになっています」細川氏は映画の宣伝ひとつ取ってもネットだけに頼るのではなく、立看板やチラシを配布する…といった昔ながらの地道な手法を取り入れている。「都会と田舎では圧倒的に人口が違うので、街の人に訴えるには映画館も町工場のようにスタッフ皆で一致団結して宣伝をするしかないのです。だからと言ってすぐに結果は出ませんが、それをやり続ける事で少しずつ変えられたらと思います」また細川氏は、30年、40年先を見据えた時、もっと子供たちに映画館に慣れ親しんでもらう事が重要だと語る。「田舎の映画館には観客を育てる事も大事。例えば、ドラえもんやポケモンの映画で、子供たちが初めて映画館で映画に触れるわけです。アニメで映画を身近に感じてもらいたい…つまり掘り起こしですね。事実、以前と比べて高校生が抵抗無く映画館に来てもらえるようになりました。これも、子供の頃にココで映画に触れた成果じゃないでしょうか」(2016年6月取材


【座席】 『CINEMA1』134席/『CINEMA2』120席 【音響】 SRD

【住所】京都府福知山市東中ノ町28-1(広小路) 【電話】0773-23-1249

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