昭和21年5月15日…岡山大空襲によって焼け野原となった岡山駅前に木造二階建ての映画館“岡山松竹座“が戦後常設映画館第一号としてオープンした。駅前には戦火で焼き出された人々がヤミ市や靴磨きで何とか生計を立てていた時代だ。創業者の福武一二氏は、打ちひしがれていた岡山市民に映画を通じて活力を取り戻してもらいたい…という思いから福武興業社(現在の福武観光株式会社)を立ち上げ、映画館事業に全精力を注ぐ。戦中、中国大陸に渡り煙草事業で成功した一二氏は終戦直前に引き揚げ、故郷・岡山で鉄工業を中心に事業を展開していたが、終戦と同時にそれまでの事業を止めて映画館設立に着手したのだ。新築の木の香りと劇場から流れてくる映画音楽に勇気と希望を与えられ岡山駅前は“岡山松竹座“を中心に急速に復興が進み、駅から西川緑道公園まで全長約280mの商店街が完成した。昭和25年3月には洋画専門館の円形劇場“セントラル劇場“、昭和27年11月に鉄筋コンクリート造りで廻り舞台も備えた“歌舞伎座”、更に昭和31年3月には全国的にも珍しい完全防音換気装置も完備した洋画専門館“岡山グランド劇場”が“岡山松竹座“の向かいにオープンするなど、常にオピニオンリーダーとして岡山市民に夢と感動を贈り続けてきた。











昭和35年11月には老朽化した“岡山松竹座“を取り壊し、“岡山東映”という館名で再オープン。しかし、いよいよ大スクリーン時代へ突入し、映画の新時代を迎えようとしていた昭和37年に一二氏は他界。その後、一二氏の映画事業に懸けた思いを受け継いだ四人のご子息は多角的に映画事業を拡大していく。その第一弾として岡山駅復興のランドマークとなっていた“岡山東映”を昭和39年10月に大改装を行い、関西でも類を見ないという豪華な映画館“70ミリ岡山グランド劇場”(その名が示す通り70ミリの上映設備を有す)として生まれ変わった。場内には分厚い絨毯が敷きつめられていた事から、下駄をぬいで入場した観客がいたという逸話が残っているほど。
そして時代は、大劇場から複数館の時代へと移り変わり、瀬戸大橋の開通に合わせ駅前の大規模再開発が行われた頃、昭和63年6月に4スクリーンを有する娯楽ビル『岡山メルパ』となり現在に至っている。駅前という立地と近隣住民が自転車でも来られる利便性からお年寄りから中高生まで幅広い年代の観客に親しまれている『岡山メルパ』は、館名は変わろうとも駅前復興に懸けた創業時の熱い思いは今も引き継がれている。「“ここが落ち着く”と言っていただける昔からの常連さんに支えられています」と支配人は語ってくれた。日本各地から商店街にあった映画館が軒並み姿を消していく中、地元商店街と共存共栄している『岡山メルパ』は地元密着型のスタイルを守り続けている。例えば、商店街で買い物されたレシートを提示すれば割引サービスが受けられたり、子育て中のお母さんも映画館と提携している保育園に子供を預けると割引料金で観賞が可能だったり。更には岡山駅を通る定期券をお持ちの方は土日祝日限定で、1000円で観賞出来るというから驚く。「駅前にある映画館ですから、休日も街に出てきてもらいたい…という思いで始めました。基本、岡山駅前をご利用の方はウチのお客様だと思っていますので」

学生に喜ばれているという定期券割引…休日、岡山駅に来て地下街や商店街を利用してもらえれば街の活性化につながるのだ。こうして常に街ぐるみの発展を考えながら事業を展開してきているからこそ世代を越えた多くの市民に愛され続けて来たのだろう。「こうした地域の皆様との関係は、一日、二日で築けるものではない…だからこそ貴重な宝です」岡山駅を降りると目の前にある“スカイモール21”というアーケード型商店街から、歩いてすぐの場所に『岡山メルパ』がある。チケット売り場(勿論、スタッフによる手売り)がある1階のエントランスには珍しく路面に売店が設置されている。映画を観ずに売店だけ覗いてパンフレットやグッズを購入される方も多く、通りすがりにブラっと立ち寄ってスタッフと映画の話だけをして帰られる常連さんもいるとか。また、京都アニメーションの公式アニメグッズを販売しており全国からコアなアニメファンが訪れる穴場的スポットとなっている。チケットを購入してお目当ての劇場へエスカレーターで上がる。2階にある『メルパ1』と『メルパ2』は小さいながらもゆったりとくつろげるミニシアター。『メルパ3』と『メルパ4』は大きなスクリーンが特徴的な劇場だ。土日祝日には場内で今でも売り子がポップコーン等を販売する懐かしい光景が見られる。また映画以外にも落語や俳優を招いて演技に関するワークショップ等を開催したり、駅の地下街”岡山一番街“が主催する映画祭を行うなど、型に囚われない様々な街ぐるみのイベントを企画している。「私たちは『岡山メルパ』をただ映画を流している建物にだけはしたくない。これからも色々なイベントを提供して地元の人たちと歩んでいける映画館であり続けたいです」常に話題作を提供してきた『岡山メルパ』だが、記憶に強く残っているヒット作は岡山市で独占公開された“もののけ姫“だという。「大通りまでお客様の列がずっと出来て、必死で整理をした記憶があります」当時は立見が当たり前の時代だったとはいえ、頭の隙間から辛うじてスクリーンを観るような状況だった。


現在は、通常上映以外に不定期ながら名作上映も行っている。「今でもフィルム上映も出来るのですが、届いたフィルムを見ると傷みが激しくギリギリの作品もあります。一度は傷がひどくてお叱りを受けた事もありますが、それも味だと多くのお客様からは好評を得ているんですよ」現在、映写機を動かすのは昔からの映写技師の方で、高梁や新見まで移動上映会も行っている。「高梁には年に二回行きますが、あえて映写機の近く座って、”この音がええんじゃ”と、フィルムの音を楽しむお客様がいらっしゃるんですよ」映画館の無い街で上映会を楽しみにされているお客様を見ると、この仕事を選んで良かったと実感すると支配人は顔を綻ばせる。「映画は単なるモノではなく、心を動かすモノです。お客様に対してお届けする”おもてなし”も含めて、満足してもらえたら…と考えています」
“ありがたいという感謝の気持ちと、人に尽くす思いやり”を社訓とする映画館だからこそ、スタッフはお客様とのコミュニケーションを大事にしている。電話は全てスタッフが対応しているのもそのひとつだ。音声自動案内は、年輩の方にはよく分からないと問い合わせがあるという。若い人は時間をネットで調べてしまうので、電話をかけてくるのは殆どが年輩の方…そこにもお客様とのコミュニケーションがあるのだ。「時間の問い合わせだけではなく、作品に対する質問も多く、スタッフが説明すると“面白そうだから、ほんならそれ観ようか“と来場されますので、やはり会話は大事ですよね」こうしたお客様の目線に合わせた小さな気遣いによって、いい映画館だからまた来たくなる…その積み重ねによって今があるのだ。(2014年8月取材)






【座席】 『メルパ1』120席/『メルパ2』60席/『メルパ3』271席/『メルパ4』197席 【音響】 DTS

【住所】岡山県岡山市北区駅前町1-4-23 【電話】086-221-0122

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