兵庫県の南西部、岡山県との県境に位置する赤穂市。忠臣蔵で有名な元禄赤穂事件ゆかりの地として知られる街だ。JR赤穂線播州赤穂駅から直結する駅ビル"プラット赤穂"の2階に3つのスクリーンを有する映画館『プラット赤穂シネマ』がオープンしたのは平成12年12月12日。オープニングは"ゴジラVSメガギラス"と"ダイナソー"の子供向け番組と、ハリウッド大作"バーティカル・リミッド"の3作品。映画館が無かった赤穂市に30年ぶりに復活した映画館だったが、意外な事にオープンは決して順風満帆というものではなかった。


「とにかく、初日は全然お客さんが入らなくて、全員でどうしよう?って慌てましたね(笑)」と語るのは、劇場主任の大饗隆浩氏。街に映画館が無い状況に慣れてしまった住民に向けて、大饗氏が最優先で行ったのは映画館で映画を観る行為を思い出してもらうことだった。「一度観に来てくれればリピーターになってもらえるのですが、年を明けた春休みの"ワンピース"や"東映まんが祭り"まではかなりシンドかったですね」と、当時を振り返る。そんな状態がしばらく続いた翌年の夏に『プラット赤穂シネマ』にとってターニングポイントとなる運命的な作品が登場する。スタジオジブリのアニメーション"千と千尋の神隠し"である。「この映画で一気にお客さんが来たんです。


そこからですね…映画館で映画を観ることを体験された方々が少しずつ来場されるようになったのです」それまで日に数えるほどしか来場者がいなかった映画館に突然、長い列が出来て、連日立ち見の連続という現象に、映画館の仕事を始めて1年も経っていない大饗氏は、ヒットした映画の威力に毎日が驚きの連続で、日々の仕事をこなしていたという。この年は日米共に映画が豊作の年で、冬休みには"ハリーポッターと賢者の石"、翌年の春には"モンスターズインク"と、ファミリー層のヒット作が目白押しで公開され、『プラット赤穂シネマ』にも地元の観客が固定化された年にもなったのである。赤穂市は、東は姫路、西は岡山に挟まれた中間に位置する場所にあるため、『プラット赤穂シネマ』は地域の人たちが気軽に観に来やすい映画館を目指している。「オープン当時によく見かけていた子供が、高校生になっても変わらず来てくれているのを見ていると、地域に根ざした映画館に少しずつなってきているのかな?と思ったりします」と大饗氏は顔を綻ばせる。








運営する大饗興行は、大饗氏のお父様である大饗良一氏が代表を務め、鳥取県にも"倉吉シネマエポック"という映画館を経営している。遡ると大饗氏の祖父が映画館を持っていたが、映画が下火となったため劇場を閉館。劇場は無くなっても映画の灯を守り続けようと昭和40年代半ばから良一氏が始めた移動映写が『プラット赤穂シネマ』の前身と言っても良いだろう。平成8年に岡山県津山市にあった大正時代の芝居小屋から続く"津山キンエイ"を引き継ぎ(平成20年に閉館)、念願だった劇場を再び持つことになる。今も良一氏は、備前、津山の県北部を中心に文化財団からの依頼で移動映写を続けている根っからの映画人だ。こじんまりとした落ち着いた雰囲気のロビー。人の手を通して触れ合いを大切にしたいということから対面販売にこだわるチケット窓口でチケットと、隣にあるコンセッションスタンドで、お得なポップコーン(S)とドリンク(S)のSSセットを購入。場内に入ると、ビルの中にある映画館にしては思ったよりも奥行きがあって天井が高い空間に驚く。


これは、どんなに小さな劇場でもスタジアム形式にするという社長のこだわりから。「最初はミニシアターのようなワンスロープという計画だったのですが、それだったら映画館はやめたほうが良い…と、社長は頑として譲りませんでした」設立から13年目に入り、お叱りを受ける事もありながらも、着実に顔馴染みのお客様が増えている事に喜びを感じている大饗氏。設備にお金を掛ける事も大切だが、今は人とのつながりを大事にしたいという。だから、電話の対応もテープではなくスタッフが直接お話しする事を心がけたり、ポップコーンやジュースも子供が少しでも買いやすいように、値段を原価ギリギリで提供したりしているのだ。「何よりも映画が終わって、感動しながら帰られるお客様を見送る瞬間が嬉しい」と語る大饗氏にとって映画館の務めは、2時間の映画を観る事にお金を払う価値があると思っていただけるようにする事。劇場を出る時に"良かったわ"と、声を掛けられるご婦人を見た時、作り手から送り手…そして受け手へと映画のバトンがしっかりリレーされていると思った。(2013年8月取材)



【座席】 『スクリーン1』125席/『スクリーン2』125席/『スクリーン3』95席 【音響】 SRD

【住所】兵庫県赤穂市加里屋290-10プラット赤穂2F 【電話】0791-45-0258

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