長崎県中央部にある長崎、佐世保に次ぐ人口を有する諫早市。西は長崎半島、南は島原半島を臨み、大村湾・諫早湾・橘湾という3つの海に囲まれ、内陸部には穀倉地帯が広がる自然の恵みが豊かな都市だ。長崎市より長崎本線から島原鉄道に揺られること30分、本諫早駅の近くに『諫早パルファン』という二つのスクリーンを有する長年住民に親しまれていた町の映画館があった。前身は戦前から続いていた芝居小屋“永楽座”「その芝居小屋を私の祖父が買い取って映画館にしたんです」と語るのはマネージャーの八木進氏。





元々田んぼだった場所に大型のショッピングセンターや、長崎へ向かうバイパスの通りに新しい店舗が出来たりと、諫早市の中心が拡散してしまったという。この地で生まれ育った八木氏は「アーケード自体が新しくなっても街自体は大きく変わっていない事が問題かも知れませんね」と人通りが年々減少する地元商店街を分析する。ここ数年は夕方からの観客が減ってしまい2スクリーンのひとつを休館せざるを得なくなった苦渋の選択をする事となる。今後も映画館を続けていくかどうか?について「映画を商売として見るか、街に唯一残った映画の灯を守る文化施設として見るかによって大きく判断は変わってくると思います」と八木氏は語る。以前は移動上映会として周辺の公民館等で出張上映を行なっていたそうだが、平成17年の市町村合併に伴い、それまで町単位で組んでいた文化事業に対する予算が自由に組めなくなり上映会が殆ど無くなってしまったのだ。すでに3年前から商売として成り立つ集客は無くなっており、最終的な判断を下す時期が迫っているという。

市内にはもうひとつ“喜楽館”という劇場があり、映画・芝居・浪曲の興行が行われる娯楽の中心として数多くの市民で賑わいを見せていた。老朽化が進んだ劇場を解体して現在の複合ビルとなったのは昭和53年。設計の段階から映画館が2館入ることを想定して作られただけあって場内はビルの映画館とは思えないほど天井が高く広々とした空間となっている。4階が客席数231席を有する『スクリーン1』、3階は客席数112席の『スクリーン2』となっており、地元の家族連れや昔ながらの常連客でお盆や正月シーズンは賑わっていた。以前は1年というロングランヒットとなった“タイタニック”や“千と千尋の神隠し”で連日満席となる状況が続き、邦画と洋画問わず話題作を上映していたが長崎市内にシネコンが進出してから洋画の観客は長崎市に流れてしまい、近年は邦画のファミリー向け作品やシニア層を想定した作品を中心に構成されていた。「ウチに来館されるお客様は映画だけを観に来られて、その後商店街を散策する…というのは少ないようです」






取材後しばらくしてから「閉館する事が決まりました」と、八木氏から電話をいただき、それから2週間後の平成23年10月21日に“劇場版 仮面ライダーオーズ WONDERFUL 将軍と21のコアメダル”をもって戦前から続く長い歴史に幕を閉じた。ところが、閉館した翌年の平成24年12月、『諫早パルファン』は、“文化ホール諫早パルファン”としてリニューアルオープン。運営はジスコ不動産に引き継がれるも2館はそのままスクリーンを完備したステージを新設してコンサートや演劇が出来る施設として復活。現在は地元の音楽家たちによるコンサートやイベントなどに利用されている。映画館としての役割は終わってしまったが、文化施設として戦前の芝居小屋からスタートした創業者の意思が、カタチを変えてしっかりと受け継がれている事に救われた気がした。(2011年9月取材)


【座席】 『スクリーン1』140席/『スクリーン2』240席 【音響】 DS・DSR

【住所】長崎県諫早市栄町7-1 2011年10月21日を持ちまして閉館いたしました。

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