以前は千歳市内にも映画館はあったのだがコチラが出来るまで、しばらくは映画館の無い街だった。「空港に映画館を作る事で乗降客だけにとどまらず、地元の人のためになるのではないか…それによって私たちも新しい発見が出来て、新たな提案につなげられると思っています」まだ、課題は多いものの手応えは感じているという井手氏。今まで札幌や苫小牧まで出掛けていた市民にとって久しぶりに出来た地元の映画館として日に日に利用者も増えている。国内旅客ターミナルビルの展望デッキがある4階に上がるとカラフルな劇場サインが目に入る。ちなみに館名についている“じゃがポックル”はカルビーより発売されている商品のネーミングライセンス。劇場のエントランス横にはカルビーのアンテナショップが隣接されており、映画の待ち時間に覗いてみてはいかがだろう。エントランスをくぐると目の前に広がるロビー。見上げると飛行機のオブジェが…場内のシートは空港ならではの快適性を重視しており、コトブキ社製の両肘掛けシートの座り心地は申し分ない。更に各シアターに設置されているリクライニング機能付の特別席は正に映画館のファーストクラス。深々と背もたれに腰を下ろすと優しく体を包み込んでくれる低反発のシートがワンランク上の時間を提供してくれる。

昭和38年にターミナルビルが完成以来、今では年間1800万人以上が利用される北海道の空の玄関口ー新千歳空港。平成22年には国際線ターミナルが運用を開始し、空港は単なる交通拠点としての役割からマルチなエンターテイメントの場として進化を遂げる。そして、国内旅客ターミナルビルと国際線旅客ターミナルビルを結ぶエリアに、平成23年7月15日、国内初となる空港内の映画館(称してエアポートシアター)『じゃがポックルシアター』がオープンした。「全てにおいてチャレンジなんですよ」映画館設立の経緯について、劇場を運営する(株)えんれいしゃ企画局長の井手太郎氏は語る。「映画館だけに限らず同じフロアには、宿泊機能を兼ね備えた温泉施設“万葉の湯”(23時間営業)が出店されるなど、何においても新しい試みをしてみよう…というのが、まずベースにあったのです」世界的に見れば韓国の仁川空港などにトランジット用の映画館はあるが、誰でも利用できる常設館というのはまだまだ発展途上。「新千歳空港は、エンターテイメント空港、北海道ショールームというコンセプトで、空港の枠を超えて情報を発信する場を目指しているのです」そういった意味において首都圏の空港とは違う「地方空港の地元における在り方のチャレンジ」と井手氏は続ける。





上映作品としてはファミリー向けからアート系まで幅広く、映画だけではなくスポーツや音楽ライブ等のパブリックビューイングを随時開催している。上映設備はDLPを完備、更に1番と2番スクリーンにはフィルム上映の設備も併設されており、過去の名作上映にも対応されている。他にも地元で開催される映画祭とタイアップするという試みも始まり、旅行者には北海道の良さを映画を通して興味を持ってもらい、地元の方には北海道の良さを再認識してもらう…正に北海道ショールームというコンセプトそのものだ。



今後は乗降客に向けて飛行機を待っている時間でも観られるショートコンテンツをプログラムの中に入れ込めるような環境作りをしていこうと考えているという井手氏。作品選定の際には短尺の作品を選ぶよう意識しているという。秋に開催されている“ショートショート フィルムフェスティバル”とのコラボなどを行うなど、空港ならではの作品の提供に意欲的に取り組んでいる。「ある意味、素人集団が映画事業に携わるのは、端から見ると怖いところがあるかも知れませんが」と笑う井手氏。準備段階から大手シネコンに委託せずに自分たちの力でやってみようという正にチャレンジ精神からスタートしただけに、計画が軌道に乗るまでかなり難産だったという。「最初は商圏を狭く捉えていたのですが、もっと北海道内でも広範囲のお客様に目を向けても良いのかな…と最近では思うようになりました」場合によっては映画館という枠を越えて新しい取り組みも模索しているという。国内だけではなく、全世界から人が集まる空港の特長を活かしてエンターテイメントだけではなくコンベンションホールとしてビジネスの場に活用してもらう事も視野に入れた提案もしていきたいと語る。

劇場から一歩、外に出ると目の前に広がるのは、街の喧騒ではなく空港という非日常的な世界。同じ映画でも違った体験が出来るのがエアポートシアターならではの大きな特長だ。今やレジャー産業として、レストランやショッピング、リラクゼーション施設、とうとう宿泊施設まで充実してきた空港は、「利用する場」から「体感する場」へ変貌しつつある。子供からお年寄りまで終日楽しめる場所となった新千歳空港において『じゃがポックルシアター』がこれからどのように変わっていくのか今から目が離せない。(2012年12月取材)


【座席】 『スクリーン1』229席/『スクリーン2』71席/『スクリーン3』71席 【音響】 DLP

【住所】北海道千歳市美々新千歳空港国内線ターミナルビル4F 【電話】0123-46-4150

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