JR東北本線と東武宇都宮線が走る北関東最大の街、宇都宮市。今では餃子の街として有名な宇都宮の中心部に位置するオリオン通り商店街に、戦後から地元の人々に慕われ続けている映画館『ヒカリ座1・2・3』がある。地下に1スクリーン、5階に2スクリーンを有するプラザヒカリは、ゲームセンターや飲食店などが入った総合娯楽施設として県内各地から多くの人々が訪れている。創業者である柳勲氏が現在の土地を購入して『ヒカリ座』を建てたのは正に日本映画の最盛期、昭和30年のこと。それまで単独の映画館だった『ヒカリ座』を取り壊して現在のプラザヒカリに建て替えられたのは昭和45年。当時はビルの上に映画館を作れないという規制があったため、新生『ヒカリ座』は地下の映画館として再スタートを切った。階段を下りると目の前に広がるロビーは地下の劇場とは思えないほど天井が高く開放的な空間となっている。東映の故・岡田茂会長と柳氏は昭和38年から親交が深く(岡田会長は宇都宮に何十回も足を運び、その度にお酒を飲みに行かれていたというほど)リニューアル後の『ヒカリ座』は東映の直営館となる。当時、破竹の勢いがあった東映プログラムピクチャーを昭和50年代後半まで送り続けていた。


やはり宇都宮といえば競輪・競馬で栄えていた街だけに遊び人の男たちから東映の娯楽映画が歓迎されたのかも知れない。平成8年には規制も緩和され、5階と6階が吹き抜けなっていた大型キャバレーを改装して2つの劇場を新設、現在の3スクリーン体制となる。平成に入ってからは“ハリーポッターと賢者の石”や“タイタニック”などのヒット作が続き、記録的な動員数を実現。特に“新世紀エヴァンゲリオン劇場版”の初日はビルを一周する程の列が出来て一画は騒然となったという。ところが平成12年以降、宇都宮市内にシネコンが進出してから10館近くあった既存館は軒並み閉館。今では『ヒカリ座1・2・3』を残すのみとなってしまった。「確かに経営は厳しいですけど、これからは単館系の作品をメインにやっていこうと考えているんですよ」と語ってくれたのは劇場主任の三井勝茂氏。「中途半端に二番館としてメジャー系作品をやるくらいならば、ウチに来ていただいているお客様に合わせた単館系に絞って行こうと…そうすれば何か見えてくるのではと思うんです」現在、来場されるお客様の層としては年輩の方がメインとなっており、昔からの常連さんが多いという。









三井氏は年輩の方々と同じ目線に立った劇場運営がこれからは大切だと分析する。「一番、映画館で映画を観る事に慣れ親しんでいる年輩のお客様をおろそかにした劇場作りは間違っていると思うのです。確かにチケットをWEBや機械で購入出来るのは便利かも知れませんけど、それはあくまでも若い人にとっての便利さなんですよね」また、駅から近い場所にあるから車を運転されない女性や年輩のお客様から、何があってもやめないで欲しい…という声を多く寄せられているという。「人間の心理として歳を取ってくると“近いからそこに行く”という判断が働く事が多くなると思うんです。今は、郊外にある大型店やシネコンにお客様は流れていますけど、これから何年後かには戻ってくる気がしています。その時になってウチが無くなっていたら申し訳ないですから頑張って続けますよ(笑)」やはり年輩のお客様が多くなったため、20年前に比べてアクションや重いテーマの社会派よりも“オーケストラ”や“ハーモニー心をつなぐ歌”といった良質な人間ドラマが好まれる傾向が強くなっている。作品の選定はスタッフで検討して最終的には柳氏が決定。


現在は電車で30分ほどの小山駅前にある系列館“シネマロブレ5”で上映された作品をコチラの劇場で再映するという形を取っている。この二つの劇場が互いに連携して見事なチームワークを見せた面白いエピソードがある。「今でも憶えているのは“おくりびと”が、日本アカデミー賞にノミネートされた時、ちょうど“シネマロブレ5”でやっていたんですが、ひょっとしたらアメリカのアカデミー賞も獲るのでは?と思ったんです」そこで三井氏は上映を延長する事を社長に進言したところ予想は見事に的中。「コチラの予想が当たって、それは嬉しかったのですが、実はそこからが大変な騒ぎになってしまったのです…」当初、“シネマロブレ5”だけで上映していたのを急遽、早朝9時の回を『ヒカリ座1』で設けて、1巻が終了すると電車で小山までフィルムを運び、“シネマロブレ5”で12時より上映を行ったというのだ。「常に運搬用のスタッフが3人待機して、それを2週間続けたのです。電車が止まったらアウトですから、その間はヒヤヒヤものでしたよ(笑)」一度は電車が遅れて3巻目がギリギリ10分前に到着した事もあったとか…正に“ニュー・シネマ・パラダイス”の世界が繰り広げられていたのだ。そうした苦労の甲斐があって連日立見となる程の動員数を記録して、既に上映が終了していた県外からのお客様も多数見えられたという。「基本的に栃木県には映画人口が多くいらっしゃいますから一度、火が付くと爆発するんです」これからは映画の上映だけではなく、監督を招いてトークイベントを積極的に開催していきたいと語る三井氏。以前、“連合赤軍 浅間山荘への道”と“キャタピラー”を上映した時、故・若松孝二監督のトークイベントをやったところかなり盛り上がったそうだ。また鹿沼市出身のガッツ石松が“罪と罰”という映画を監督された際、『ヒカリ座』で上映して欲しいとラブコールによって上映が実現し大盛況だったという。


「テレビとは違う作品を贈りたいですよね。せっかくお客様がお金を払って観に来てくれてもテレビと変わらないような作品(決してドラマの映画版という意味ではなく)だと、どんどん映画館から離れて行ってしまう。我々のやるべき事はテレビでは得られない感動を与えられる作品を選ぶ事だと思っています」と、これからの映画館の在り方について三井氏は考えている。将来的には上映作品で取り上げた問題について観客と作り手が語り合えるディスカッションの場にしたいそうだ。「お客様は感動にはお金を使ってくれるはずなんです。上映後、場内のドアを開けて出てくるお客様の顔を見ると、良い映画の時は皆さんの表情に“良かった”という気持ちが表われていますよね。そんなお客様の顔を見たいから、私自身もっと映画を観なくちゃダメですが…」お客様が喜ぶ顔を見るのが何よりという三井氏。戦後の厳しい時代に映画の灯で市民に夢と希望を与えたように、暗い話題が多く不景気な現代も映画の力で明るくしたい…そんな思いを抱いている映画館に寄せる地元ファンの期待は大きい。(2012年10月取材)


【座席】 『スクリーン1』258席/『スクリーン2』140席/『スクリーン3』72席 【音響】 DS・SRD

【住所】栃木県宇都宮市江野町7-13プラザヒカリビル 【電話】028-633-4445


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